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咎の勇者  作者: 如月厄人
第二章 痕跡
21/44

2-2

 エスは整然と並んだ店の一つに入る。外には多種多様な武器が窓から見えた。どうやら武器屋のようだ。マリア、アルマに続いて中に入る。出迎えたのは電光を反射する程磨かれた武器達と、その中でひたすら剣を研磨している若い男だった。細身ではあるが、その腕の太さは目を見張るものがある。


「いらっしゃい、何をお求めかな?」

「買い取って欲しい物がある」

「ほう、鉱石なら大歓迎だけど、そう言う感じじゃなさそうだね」


 店主は立ち上がってカウンターに布を広げた。その上でエスが麻袋をひっくり返す。


 牙や爪、枝、甲羅、革など、魔物から剥ぎ取ったあらゆる素材が転がり出てくる。それらを一つ一つ手にとって念入りに見ていく。だが一通り目を通して買取価格が決まったらしく、正面のエスに言った。


「これだけあるなら、ザッと1500イルってところだな。剣の手入れもサービスで入れようか」

「あぁ、助かる。ケイ、剣を出せ」

「お、おう、刀身だけでいいか?鞘は取るのが面倒くさい」


 剣を逆手に抜いてエスに渡す。エスは柄を掴んでバスターソードと一緒に立て掛けた。店主が回り込んで状態を確認する。


「この紋章…ウィズバーンの出身なのか」

「あぁ、これから仲間の弔いに行くところだ」


 バスターソードに刻まれた紋章を見て店主が言うと、エスが簡潔に答える。店主はそうか、と短く答えてその二つを掴んでカウンターの中に入っていく。


「じゃあちゃっちゃと済ませないとな。ただ、少なくとも二時間以上は掛かる。何処かで時間を潰してきてくれ」

 

 頷いて、店から出る。俺は袋の中に入った紙幣と小銭を見てアルマに尋ねた。


「これで何が出来る?」

「これだけあるなら、四人で宿に泊まる事も出来ますよ。ここの物価がどうかはわかりませんが、一人250イルで泊まれる所もあります」

「そうか、でも心許ないな。もう一度狩りにでも行くか」

「いや、先に休むぞ。俺たちは良いが、二人の事も考えてやれ」


 エスに言われてハッとした。そうだ、ここへ寄ったのは休憩が目的だった。自分が何故か急いでいた事に違和感を覚える。


 小さく聞こえる警鐘が、俺に危険信号を出しているように感じた。それはつけられている事に、ではなく、俺が何かに掻き立てられている事に対してだと思った。


 俺が役に入る「条件」が一体何かわからない以上、こうやって探っていくしかないのかもしれない。


 エスの言う通り、足を伸ばせるところを探す事にする。急ぐ必要もないのだから、ここで一泊しても良いのかもな。この一画はちょっと高そうなので、道を遡って出店が多く集まる商店街に戻った。


 食事になりそうなものから、野菜、果物、魚、肉まで、衛生上どうかは分からないが、露店には様々なものが並んでいる。時間が時間なだけあって食事を販売している店の方が人が多い。この時間ならまだ宿屋も空いているだろう。


 エスは土地勘があるのか、俺たちをサッサと宿屋に案内してくれた。先ほどから通っていた大通りから道一つ入って、人気の減った路地にひっそりとその宿は有った。


「よくこんな所知ってるな」

「一時拠点として使っていたんだ。多少は知ってるさ」


 宿の受付も済ませてくれた。が、困った事に、四人部屋か二人部屋しかないらしく二人部屋を二部屋取ると所持金が足りなくなるようだ。俺たちは仲良く四人部屋になってしまったとさ。


 俺が過ごしづらい空間にはなってしまったが、俺だけで済むなら良いもんだ。エスだって、男勝りではあるけど女の子である事に変わりはないんだし、囲まれるなら男より女の子の方がいいだろ。


 部屋の中に風呂もあるらしいが、俺は三人が風呂タイムになったら部屋の外で待つと宣言しておいた。今のうちにフィールドワークをして土地勘をつけておかねば…。女の子の風呂は長いと言うし、暇を潰せるものを見つけておくのもいい。


 部屋のベッドでそれぞれが足を延ばす。俺もベッドに腰掛けた。


 にしても、随分と現代的だな、間接照明にふかふかのベッド、さすがにコンセントは無いものの、ティッシュやコップ、給湯機に至るまで、何処か元の世界の部屋を彷彿させる。


 俺がぐるりと首を巡らせていると、アルマに声をかけられる。


「ケイは脱がないんですか?」

「あぁ、脱ぐと履けなくなりそうでな」

「じゃあ私が脱がせてあげよー」


 マリアが靴下のまま俺の足下でしゃがんだ。


「いや、いいって!ちょ、臭いから!」

「まぁまぁ、ほら、取れた!後で履かせてあげるから言ってね」

「いやそれは流石にでき…」

「そうです!それは私がやります!」

「ちょっと待ってそういう意味じゃない」


 俺を見上げて微笑むマリアに向かい側で布団をブッ叩きながら抗議するアルマ。対角線のエスはため息を吐いて言った。


「武具の付け方も知らん奴が簡単に言うな。俺が後でつける。本来足甲はそんな簡単に外れちゃいけないんだぞ」

「ぅ…」「むぅ…」

 

 助かったのか助かってないのかがわからん…!一人で出来ないのがここまでとは思わなかった…。


 何だろう、俺、下から見上げられるの好きみたい。今もマリアの視線にぐいぐい来てる。あー、キテるわぁ…。


 ざーんねん、と立ち上がるマリアを目で追いながら、向かい側で頬を膨らませるアルマに気づく。


「な、何でしょう、アルマさん」

「何でもないです!」


 ふい、と顔を背ける。なんか、すねてらっしゃる?


「ケイ、少し付き合え。ここの冒険者ギルドに登録する」

「ギルドに?いいのか、登録しても」

「金を稼ぐなら悪い事じゃあない。やらなきゃならない事に支障は出るかもしれないがな」


 エスはベッドで少し柔軟体操をしてから足甲を履いた。どうやら直ぐに行くらしい。


 ゲームと同じ考えでいいなら、ギルドに登録すれば金の入る依頼をこなしてガッツリ稼ぐことも出来るだろう。ただ、今度はギルドの監視がつく可能性がある。


「ギルドのシステムについてわかっているだけでいいから教えてくれ。それから考えよう。金は確かに必要だが、足枷は少ないほうがいい」


 立ち上がろうとしたエスはベッドにもう一度腰を落ち着け、ギルドに関して教えてくれた。


「まず冒険者ギルドと言うのは、ある程度大きい街になら何処にでも存在している施設だ。そこに登録する事で、簡単に言えば何でも屋になれる。ギルドは依頼者と冒険者を集め、その仲介をする。差額を資本として成り立っているから受発注する者が多ければ多い程ギルドの儲けが出る。困りごとがある限り発注者が消えることはないし、発注されている以上ギルドには金を求めて冒険者が集まる。ある意味半永久的組織だ」

「受注から達成までの流れは?」

「まぁ待て。ギルドに登録すると、代表者に腕輪が渡される。これはステータスを見るためじゃあなく、魔物の討伐数のカウント、非人道的行為の監視が目的だ。ギルドで成果を挙げれば国に徴用される事もあるから、夢のある場でもある。これは俺たちには関係ないがな。お前の言った受注から達成は全てこの腕輪で管理される。お前が着けると厄介そうだから俺がつけよう。他に何か聞きたい事はあるか?」

「いや、ない。そこまで監視はきつくないんだな?」

「そうだ。逆に、ギルドに登録すれば後をつけられる事もないだろう」

「そうか、そっちのメリットがあるのか」

「あぁ、それに、今晩の飯の事もある。二人は部屋で休ませて、俺たちで狩りに行こうと思っているんだが、どうだ」

「名案だ、そうしよう。二人もそれでいいか?」

「私は構いませんけど…」

「私もいいよ。私は足手まといになっちゃうから…」

「よし」


 アルマとマリアの了承を得て、エスが立ち上がり、俺の前で片膝をついた。


 そ、そうだった。つけてもらわなきゃいけないんだった。


 俺の足を取って足甲を嵌め、紐を結んでいく。最初に俺がやった時は一か所しかわからなかったのだが、俺がわからなかっただけで三か所程止める場所が有ったようだ。


 灰色の長い髪が結ぶ動きに合わせて揺れる。時折肩から落ちた髪をかき上げる仕草がこの上なく色っぽい。


 惚けたように魅入っていると、警鐘が強くなる。あー、刺さってる、視線が刺さってるぞー?


 俺は二人に視線を合わせないように壁に顔を向けた。


「ケイ、『危機感知』を習得しましたね?」

「ぅ…」

  バレてる…。

「そして今私たちの事で警鐘が鳴ってますね?」

「うぅ…!」


 完全に見抜かれてた。下手な事はするもんじゃないな。


「まぁいいです、私も大人気無かったですし」

「なんか、ごめん」

「ケイが謝ることじゃないよ」

「もういいか?日が暮れる前に行くぞ」


 エスが立ち上がり、腰に手を当てた。俺も立ち上がる。二人は俺たちに手を振って見送った。


 余りあの空間に立ち入るべきではない気がする。


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