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俺は置き去りにされた先ほどの女を担ぐ。最早抵抗する力もないのか、ぐったりしたままされるがままになっている。
結界にノックすると、マリアは結界を解いて俺を迎え入れた。アルマも申し訳なさそうに出迎えてくれた。
「大丈夫だった?」
「すみません、ケイ、任せてしまって」
「当たり前だろ。アルマは飯作ってくれてからおあいこだ。あ、治療頼む。連れてけって言ったのに置いてきやがったからさ」
「はーい」
切り株に座らせると、キッ!と俺らを睨む女。茶色の瞳は敵意に溢れ、青く変色した鼻を押さえて言った。
「施しなんて要らない…!」
女にしては低い声、女ってことを隠して混じってたのかな。
「おーおー元気なこった。なんで野盗に女が混じってんのか知らねえけど、これを機に真っ当に生きてもいいんじゃねえの?」
「うるさい!お前が俺の何を知ってるっていうんだ!」
「はいはーい、大人しくしてよーねぇ」
マリアが俺たちの間に割って入り、女の顔に手をかざした。青白い光に包まれて、女の鼻が元の形に戻る。その後、布の切れ端でぐい、と血を拭われて女は潰れたような声を上げた。
ただ、敵意の視線はまだ消えていないため、俺はため息をついて顎をさする。
女はアーマーをつけておらず、厚手の黒衣に身を包んでおり、黒衣には砂埃や泥が仰山ついているものの、何かの紋様がついているのはわかった。下も女の線を隠すためか、ダボっとしたズボンを履いていた。ちょっと動きにくそうだ。
顔立ちは、少し頬がこけてはいるが童顔と言っていいほどには幼い顔立ちをしている。こっちを睨んじゃいるが、ぱっちりとした目に小さい鼻、頭に巻いている黒いバンダナからは灰色の髪が覗き、少し覗き込めば、服の中に長い髪がしまわれているのもわかる。
女である事を別に隠してた訳じゃないのか?
「んー、他にも怪我してるとこあるでしょ。一緒に治してあげるからちょっと服脱いで」
「なっ!施しは受けないと言ってるだろ!俺をどうするつもりだ!」
「どうするって…どうする?」
「どうすっか」
「どうしましょうか」
三人が三人とも同じ反応を返し、首を傾げる。特に目的があってこいつを捕まえた訳じゃないし…、そもそも捕まえた訳じゃないし。
「あ、そうだ。あなたの出身は?」
「なんでそんなことお前に教えなきゃいけないんだ」
「いいからいいから、じゃないとあのお兄さんが鉄拳パンチしちゃうゾ」
しねえよ、死ぬわそんなんしたら。
でも効果覿面、女は声を詰まらせた後、渋々言った。
「ウィズバーンだ」
「ウィズバーン…、そっか…、その服、やっぱりそうなんだね」
「何かあったとこなのか」
「うん。魔族の侵攻を受けて無くなった街だよ。マサキが…勇者が討伐したって話だったけど、やっぱりね。メルタに難民が沢山流れ込んでたから、何となくそうなんだろうなって思ってたんだ」
討伐はしたものの、メルタと同じ状況って所か。とすると、こいつも難民の一人でそこを拾われたとかかな。でも一般人が紋章付きの服を着てるってのもしっくりこないなぁ…。
「…盗賊になった経緯を教えていただけますか」
「生きるためだ」
「そうではなく、盗賊に落ち着くという事は、あなた達を拾った人物がいるのでしょう?何と言われたんですか?」
「そんなの教える必要はない」
埒が明かんな。
尋問に飽きた俺は外に落ちているバスターソードを拾いに行く。片刃でそれなりにでかいから取り回しに少し難があるだろうがその分威力も期待できそうだ。
刀身の根元に刻まれた印を見つける。これは、たぶんあの女の服についていたのと同じものだろう。あの男もウィズバーンから来たらしい。
まぁ、定かじゃないが。
町の様子を見てないからわからないが、盗賊がこんな朝っぱらから襲ってくるほど困窮しているようには思えないんだよなぁ。あんだけ立派な城が立つくらいだ、もっと福祉とか充実しててもよさそうなものなんだけど、そこらへんはどうなってるんだろう。
肩にバスターソードを担いでログハウスに入ろうとすると、アルマが俺の前に立って焦ったように目をふさいだ。
「? アルマ…?」
「ちょっと!ちょっとだけ待っててください!」
「お、おう」
「あ!おい助けろそこの男!俺はこんなの…!」
「だーめ、あなたはもっとそれらしくしなきゃ」
…うん、そうだな、しばらく時間を置こう。
俺はくるりと背を向けてアルマに言った。
「食料を探しに行きたいんだけど、ついてきてくれないか?」
「う、行きたいのはやまやまなんですけど…、ルーラーは戦えないんです。守ることしかできません。だから彼女一人を置いていくのは得策ではないかと」
「私なら大丈夫だよ。この子もいるし」
「なんで!俺が!お前を守るんだよ!」
「守ってくれるよ、重腕騎士さん?」
「ぐっ…」
女はまた言葉を詰まらせ、体に布を巻いたまま、俺からバスターソードを奪った。
「返せ、俺んだ」
それを軽々と肩に担ぐと、ログハウスの中に入っていった。
「…なんか大丈夫そうだな」
「…みたいですね。じゃあ行きましょうか」
アルマは一度振り返ってから外に踏み出した。俺もその後についていく。朝日を浴びた森は昨日見た風景と打って変わって、子供の頃に虫捕りしに行った時のような冒険心がくすぐられる。
でも、本当に冒険してるんだよな、今。見知らぬ世界、見知らぬ光景、ゲームの中でしかなかった魔法も、剣も、モンスターだって、今俺は全てを体験している。
まだまだ知らないことばかりだ。
「………、」
そう、知らないことばかり。
魔王の言葉を思い出す。
俺の役は、一体何のためにあるのだろうか。戦乱が続く限り俺の役割は終わらない。でも俺が戦乱に加われば世界のバランスが崩れるという。
結局、何も出来ないじゃないか。
俺が解放される前に聞こえたおっさんの事も気になる。咎の勇者って事は、あのおっさんは俺が勇者になる事を望んでいるのだろうか。
何か違う意味な気がするんだよなぁ…。
「そういえば、次はどこに行くとか決まってますか?」
「ん?あぁ、そうだな…」
特に、これと言った所はない、というかわからないからな。
「…ウィズバーンの跡地、とか」
「ウィズバーン?何故?」
「いや、何となくなんだけど、何かありそうな気がして。他にも魔族の侵攻を受けた街はあるのか?」
「幾つかありますけど、全部回るんですか?」
「どうせ時間はあるんだから、いいんじゃないか?」
ステータスも、称号に関しては偽装出来てるんだし、あちこち逃げ回る必要もない。だったら、供養するなり手掛かりを探すなりした方が良いだろう。
「魔王と勇者が戦う宿命だとするなら、その事の発端を掴んでおくのも一つの手だろ」
「それもそうかもしれませんけど…、まぁ私も目的があるわけじゃないですし、それで良いです」
「じゃあ決まりだな。サッサと戻ってマリアに伝えよう」
頷いたアルマが近くの木々を見回して、幾つか目星をつける。その木を見上げると、幹は細く、高く伸びては居るが、乱雑に絡み合ってバランスを取っているようだった。そしてその枝の先には赤い実が生っている。リンゴのようにも見えるが、恐らくリンゴではない。
アルマは魔導書を片手に風の魔法でそれを落としていく。俺は落ちてきたそれらを拾い上げていく。 脇に挟むなり何なりしても、せいぜい四つ五つが限界だった。その隣で、ローブを広げたアルマがそこに落ちた実を拾い入れていた。
両手が使えないのは、やはり不便だな。
そう思いながら道を引き返そうとすると、アルマが俺を呼び止める。
「ケイ、入れてください」
「いいのか?」
俺が五つ拾うのを難航している間に、ローブには数え切れないほどの実が入っていた。
「ええ、貴方の為ですから」
「…そういう言い方はズルいと思うぞ」
俺はローブの上に果実を落として言った。自然と口許が緩む。
こんな事言われて、嬉しくない訳ない。




