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視線を戻すと原型は既になく、太ももの肉だったり、ヒレだったりで分けて浮かんでいた。水で洗われた跡もあるから、血抜きも終わったんだろう。血の気もなくなり、精肉店やスーパーで並んでいるような肉の色に、なんだか少し安心してしまった。
捌くまでできるとは、調理師恐るべし。
「出来ました。薪になりそうな枝は沢山あるので、今日はここで野営にしましょう。ちょうどケイが切り倒したおかげで座る場所もありますし」
そこらじゅう切り株だらけなだけですがね。
それでも腰を落ち着ける場所があるのは有り難い。俺は両脇に丸太を抱えて整地する。丸太に平らな面が出来るように側面を切り、それを重ね合わせて塀を作る。最後に屋根部分を内側から並べると小さいながらも家のような仕上がりになる。三人が横になる分には問題なさそうだ。
その中で火を起こす。風で地面を露出させながら薪をくべていく。壁に沿って点在する切り株に腰掛けて、俺とルーラーはアルマが肉を焼くのを見ていた。調味料の代わりに何かの葉っぱを敷き、その下から炙るように火を通していく。
俺の隣の切り株にルーラーが座る。
「早くできないかなぁ…」
「もう少しですから、もうちょっと我慢してください」
「はーい」
頭につけていたケープを外す。ケープに抑えられていたショートヘアがその柔らかさを取り戻し、小さく揺れる。よくよく見れば、最初に着ていた筈の青と白の修道衣では無い。白いスラックスに同じ色のワイシャツ、襟と袖に青い刺繍が入っていた。
「どうかした?」
「あぁ、いや、随分と身軽な格好になったなと思ってさ」
「動きにくいからねぇ、其処に置いてあるよ」
別の切り株の上に綺麗にたたまれたローブを指差した。
「なるほどな。そういえば、あんたも異邦人…なんだよな」
「うん、そうだよ。ケイもでしょ?他の人達もみんなそう。国は違うけど、みんな地球から来てる」
「そう…か、何か…キッカケみたいなのはあるのか?」
「キッカケ…?うーん…キッカケかぁ…。あんまり思い出したく無いな…」
「…死んだか」
「………、うん。餓死…だと思う」
「嫌な死に方だな」
「ホントだよ。ケイは?」
「交通事故、大したもんじゃ無い」
「でも、怖かったでしょ」
「…まぁな」
死を目の前にしたんだから、怖く無いわけ無い。
「それにさ、ケイは…気が付いても生きた心地しなかったんじゃない?」
「それは言えてるかもしれない。全く情報くれなかったからな、アルマが話してくれる話が、日々のニュースだったよ」
「え、それいいんだっけ?」
「ぅ…、それは聞かないでください…」
どうやら、この二人は結構親交があるらしい。ふーん?と意地の悪そうな笑みを浮かべながら、ルーラーはアルマに向かってニヤニヤしている。
「ホントはね、咎とは誰も会話しちゃいけないんだって。だからそれもホントはいけない事なんだよ」
「貴女に見つかった時点で私の評価は地に堕ちたようなモノですから、良いんです」
「それもそうだね」
そう言われるとアルマは少しムッとした。他人に言われたくは無いよな、しかも落とした張本人に。
「…ん?見つかった?」
「そう、見つけたの。あの社に入っていくアルマちゃんをね。その後を付けてったら、ケイを見つけたって訳。アルマちゃんから聞いてない?咎の存在を知ってるのは咎守だけだって」
「そんな事聞いたような聞いてないような…、でもあの社に王国の兵士も来てたし、俺の存在は割とバレてるんじゃないか?」
「初代書士の記述を見つけたのでしょうね、咎が繋がれるようになったのは二代目からですから」
「見つかったのに逃げてきたの?」
「おう」
「何で?」
「何となく」
「…ケイってよくわかんないね」
「それに関しては同感です。さて、お待たせしました、味は薄いですが、火は通ってる筈です」
葉の上で焼き色になった肉が切り株の上に置かれた。ルーラーが真っ先に飛び付く。
葉っぱを使って上手く肉を掴み、一番にかぶり付いた。
「〜〜〜〜〜っ!おぉいしぃいいいい!アルマちゃん良いお嫁さんになるね!コレ何の葉っぱ?」
「…相手がいないので。その葉はセルレインの葉です。丁度其処に群生していたので使いました。スモークと同じ効果が得られるので設備が無くても芯まで味をつけやすいんです」
「へぇ、すごいね」
俺も切り株の近くに腰を下ろし、ルーラーを真似て肉を掴む。肉汁が上手く閉じ込められ、旨味と塩味がほどよく口の中で広がる。脂が少なく筋肉が多いせいか、しつこく無い上に弾力があり、丁度良い火加減のお陰で歯切れが良い。
何だこれ、良い事しか無いじゃん。
アルマに親指を突き立て、肉にかぶりつく。アルマはそれを見て微笑みながら自分も一つとって食べ始めた。
自分が思っていたよりも腹が減っていたようで、俺とルーラーが無言で食べていたため、会話も無く食事は終了した。葉っぱの上に骨が転がっている。
「ふー…、ごちそうさまでした。ありがとう、アルマちゃん」
「お粗末様でした」
「ホント良い嫁になるな、アルマは」
「だから相手が……、あー、まぁ胃袋からって言いますし…」
俺を見て言葉を変えた。首を傾げる俺に対して、ルーラーがニヤニヤと笑みを浮かべている。
えーと、俺は掴まれたのか…?




