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光の掌が隕石を押し上げて行ったのを見送って、俺たちはやっと一息ついた。途中から風も止んでいたのだが、いつ押し負けるかもわからないとなるとヒヤヒヤしてその場から離れられなかったのだ。街の中では生き残った魔物たちが這いずり回っている。
ルーラーが戻って生存者の確認をしたそうにそわそわしているのだが、まだ魔力が回復できていないのは目に見えていたので引き止めた。どうせこの距離だ、直ぐに王都から何かしら来るだろう。
とか考えていると、アルマが言った。
「伏せて、王国の魔装機部隊です」
近くの繁みに身を顰める。丁度森の入り口辺りだったお陰で、このまま後ろに行けば森の中を進む事も出来そうだが、ルーラーが動こうとしない。俺もちょっと魔装機が気になるところ。
魔装機というからには、どんなファンタジー物体が飛んでくるのかと思いきや、普通に戦闘機が飛んできた。いや、吐いているのが炎じゃないから厳密には違うんだろうけど、見た目はまんま零戦だ。少しガッカリする。
俺は一緒に伏せてるルーラーに言った。
「今なら行ってもいいぞ」
「…ううん、軍が来てくれたなら、私が行く必要も無いから。それに、道標が必要なんでしょ?助けてくれたお礼に、あなたの道に少し付き合うよ」
「いいのか?」
「いいの。もともと、私と貴方は一組なんだから」
「そうなん?」
俺がアルマを見るとアルマも首を傾げた。
「そうだよ、司祭様の手記に書いてあったから。世界の罪を清算する者と、世界の均衡を保つ者、二つが揃って、正しい形なんだって言ってた。だから、もしかしたらどこかの誰かが、正しい形に戻そうとしてるのかもね」
勝手な想像だけど。
そういって、彼女は微笑んだ。少し休んだお陰か、顔には生気が戻り、あどけない笑顔が赤みがかった頬によく似合う。
俺は肩を竦める。まるで運命みたいな言い方しやがる。
「そうと決まればここにいる必要も無い。アルマ、次はどうする」
「そうですね、ルーラーの事も考えて一度何処かで休みを取りましょう。聞きたい事もありますから」
アルマはメルタだった都市に背を向ける。俺もそれに続いて森に入る。ルーラーだけは、一度振り返ってから首を振って付いてきた。
森の中は薄暗く、傾いてきた陽の光を遮っていた。湿度も肌で感じられるほど高い割に、気温が下がってきたのかヒンヤリとした空気が肌を包み込む。まだ先が見えるから良いが、更に奥へ行くなら灯りも必要になるだろう。
「アルマ、灯りはつけられる?」
「つけられますが…、ここで着けると魔物を引き寄せるかも知れません。あまり得策とは言えないと思います」
ぐぎゅるるるる…………。
「………、アルマ、魔物って食えるか」
「私『調理師』のスキルがあるので何とか出来ますよ」
「…ごめんなさい」
「じゃあ俺が囮になるから」
「じゃあ私火つけますね」
「ねぇ、何か反応して?罪悪感凄いんだけど」
「いや、何とも思ってないよ?丁度灯りが欲しいと思ってたところだし」
「私もお腹すいてきましたからね」
「うぅ…優しさが逆に沁みる…」
ガックリとうな垂れたルーラーを余所に、準備を進める。あーでも、どうやったら効率良く取れるかな。
そこら辺の枝を折って火を灯すアルマ。それを受け取り、俺は首を傾げた。
「あの…私もやるよ?」
「いいよ、休んどけ」
「だって、あなたスキル無いでしょ?私がやるよ」
「あるのか?スキル」
「うん。『生存競争』って言うんだけど、こういう時には便利だよ」
貸して、と俺から松明を取ると、付近の木々を調べ始めた。
そしてある一つの木の前に立つと、その根元に松明を押し当てた。木自体が燃え上がる事はなく、焦げて何やら肉を焼いたような香ばしい匂いが辺りに立ち込める。
「これは…、何の匂いだ…?」
「この木はケルプの木って言ってね、樹液が香水になるんだけど、樹液になる前に蒸発させると、こういう風に肉を焼いたような匂いが出るの。火を使ってるのもあって、魔物が肉を焼いてるのと勘違いして…」
ガサガサ…!
「ほらね。ここら辺はガルンの多く出る場所だから、本当はあんまりやらないほうがいいんだけど、貴方がいるなら多分この数位どうってこと無いと思って」
「………、いや、流石にこれは…」
茂みを揺らす音は四方八方から聞こえてくる。その数も尋常じゃ無い。ルーラーは火を取り上げて匂いを消す。ガルンという魔物は、狼に似た姿を持っているようだが、背中ヒレらしき突起が伸びている。如何にも彼処が高級食材ですと言っているような感じだ。
ただ『調理師』のスキルを持たない俺には安易に切り離していいのかがわからなかった為、とりあえず斬り殺す事にした。
剣の柄に手をかける。
「伏せろ」
二人がバッ、と身を屈めた瞬間に、横一線に強く輝く光をなぞった。
キンッ!
『円月斬』
ザッ!ズズン…!
左足を軸に体を回転させ、一瞬で円状に斬撃の輪が広がった。半径約五メートル程にあった木々が全て倒れ、その陰に身を潜めていたガルンが切られていたり、木の下敷きになっていた。
俺はロングソードを納めて一息つく。
「こんなもんだろ」
「…何か、力が増してる気がします。もう一度ロールを」
「あー、いいけど、ルーラーが…」
どうやらケルプの木の匂いは彼女の空腹をも助長させてしまったようで、伏せたままぐでー、と立ち上がる気配が無い。少し耳を澄ませば、鳴り止まぬ腹の虫の声が聞こえてくる。
アルマもそれを見て流石に後回しにする事を選んだようで、一番近くに落ちていたガルンを掴んで引きずってきた。魔導書を浮かばせ、手を翳す。ガルンが宙に浮き、アルマの細かい指の動きで革を剥がれた後、頭を落とされ、血抜きがされる。
俺はこの時点で少し目を逸らした。
見慣れないのもあるし、見た目だけで言えば犬と似ているから、それが解体されるのを目にするのは抵抗がある。
…まぁ、これから食べるんだけどね。




