第拾参幕 ~筒井の両近~
二月後、三好軍の大将、松永弾正少忠久秀は軍を大和へと動かした
行動までの間、筒井家に従属していた十市氏の調略に成功していた
もちろん義秋も何もしなかった訳ではない、興福寺の伝手で筒井の両近と言われる島左近政勝、松倉右近重信の二人と接触していた(左近、右近は通称)
その時の会話である
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興福寺
「して、大和守殿、敵方の我々と接触を持った真意は?」
「左近殿、筒井の両近と噂される人たちに会ってみたい思った、ただそれだけです、ただ応じて頂けるとは思っていなかった」
「「……」」
「確かに突かれると痛いところでしたね、失礼」
「我々と話をしたいということは、我らの処遇もご存じなのか?」
「島殿!」
「松倉殿、もうこの方には筒抜けなのだよ、家中が幕府方か三好方かに分かれかけていることなど」
「……」
「大和守殿、貴殿は我々になにを望むのだ?」
「いえ、単に話したかっただけなのですよ、ただ」
「ただ?」
「好意的な不戦をお願いしたい」
「「?」」
「ああ話が飛んでしまいましたね、もうすぐ三好方の進行がはじまります。となれば我らも軍を出さなければ体裁が悪い……」
「なるほど……わかりました」
「島殿?」
「大和守様、右近は能力はあるのですが推察が苦手でしてな」
「左近それは確かだが、ここで言わなくてもよいではないか!」
「はは、すまぬ、しかしここでは言わねばな、主家が滅ぶのが目に見えてる今、我々の次の主家は必要だ」
「な、何を言うのだ左近!」
「我の得たところによると、三好は5000、大和守様は3000といったとろこだそうだが、果たして我らの主家は何千出せる? お主は知っておろう、近頃十市殿の反応が悪い、それに援軍を打診した畠山様からの返事もいいものではなかった」
「しかし、畠山殿も三好と事を構えておる! ならば」
「だからなのだ!」
しばらくの間無言が続いた
「三好は主力を我らに回してもなお畠山殿を釘づけにできる力を持っておる」
「しかし、それと我々が大和守殿に身を寄せる話をするのと何の関係が」
「筒井は滅びる」
「島!」
「我々は藤勝丸(順慶)様をお守りせねばならん」
「当たり前だ!」
「左近殿、少しいいですか?」
「なんでしょうか大和守様」
「此度に我々が得るであろう領地はゆくゆくはその方に任せるつもりです」
「……それは」
「順政が三好、順国が兄上方、でしたか?」
「……そこまで」
「そして家中で力が上なのは僅かに順国」
「し、島殿……これは」
「恐ろしいお方だ……」
「はは、何、興福寺は私の家ですから、大和の情報は入ってきますよ」
「「……」」
「さて、どういたします?」
「大和守殿」
「なんですか、松倉殿?」
「今よりそちらへ付くとしたら」
「1000です」
「え?」
「大和守様……わかりました、筒井城を順慶様と脱出致します」
「左近、貴方は……すごいですね」
「大和守様に比べればこれしき」
「そちらが連れ出す数に先の数は含めませんので」
「いいのですか?」
「大和は……興福寺のものなのですよ」
「……なるほど」
この間松倉右近はじっと黙っていた
自らが尊敬し、友である島左近が話していることは何もわからなかったが
(順慶様をお救いする方法は彼に任せるしかなさそうだ)
そう感じでいたからである




