序章
遙か昔に失われし8つの宝珠─
1つは黒、大地の宝珠。
1つは淡青、水の宝玉。
1つは緋、火の宝玉。
1つは緑、風の宝玉。
1つは白青、雷(空)の宝玉。
1つは銀、星(天)の宝玉。
1つは虹、生命の宝玉。
そして、最後に全ての時を司り、あらゆる時空を渡るの出来る、金、時の宝玉―。
それらは長い、長い時を経てバラバラに離れ、別れ、失われてしまった。
その事によりゆっくりと、しかし確実にこの星は蝕まれていった。
8つの宝玉が失われた事により、この星の抵抗力が弱まってしまったのだろう。
しかし、人々はその事に気付かない。
気付いていたのはただ一人、この世界には無い、真っ直ぐで青い長い髪と、深紅の瞳をした女性だけだった。
女性は薄闇の空間の中で一人、ランプの灯りを見詰めながら呟く。
「…ようやく、私の望む子等が誕生しましたね…。これで、私の役目も果たせます。…さあ、早くここへおいでなさい。この、『時の最果て』へ…」
そう呟く女性の右手には長い杖が握られ、その先端には、金色の石が嵌められていた。
しかし、それは半分に欠けていて、古ぼけた印象を与えている。
彼女はその杖の石突きで石畳を軽く叩いた。
カツン
「ようやく、止まっていた時が動かせる…。ようやく『彼女』が見続けている夢の終わりを、実現出来ますね…」
囁くように、歌うようにして呟く彼女は、とても美しかった。
真青の長い髪と、不思議な光を宿した優しげな深紅の瞳。
紅を差していなくとも紅い唇。
すっとした鼻筋。
細い顎。
白い肌。
彼女はどこまでも、完璧な美を持っていた。
白の様な、淡い紫の様なローブが、よく似合う。
「やっと生まれたのですかぁ?」
舌足らずの子供の声が、彼女に声を掛ける。
「あら、チャンク・ポンク。お昼寝をしていたのではなかったの?」
振り返った彼女の目に、自分よりも巨大なトラ猫が鎧を着て立っている姿が映る。
その異様な姿に動じる事無く、彼女は巨大なトラ猫のふわふわな頬の毛を撫でた。
ゴロゴロゴロ
巨大なトラ猫はご機嫌で喉を鳴らす。
「お腹が空いて目が覚めちゃったからご飯にしようよ♪」
「そう? 少し早いような気もするけど、そうしましょうか」
ふんわりと微笑み、彼女は薄闇の空間を滑るように移動して行ったのだった。