激突
私は部屋の籠もった。あの話題はあまり触れたくない。私には彼氏ができたことがない。そして好きな人もできたことがない。
「みんな羨ましいな」
青白く光るスマホの画面をスクロールするとそこでは友人たちの楽しそうな顔がいくつもあった。隣には私の手とは違うゴツゴツした大きな手が映り込んでいる。
「これに触られるってどんな気分なんだろ...」
ボソッと思わず口に出てしまった言葉に気づき私はすぐにスマホを閉じて枕に顔を埋めた。何考えてんだ私は。悶々とする気持ちは寝て誤魔化そう。私はそのまま目を閉じた。
◇◇◇
けたたましいアラームが部屋に鳴り響いている。カーテンに遮られた朝日が一筋の線になって私の顔を照らした。
「うるっさ...今何時?」
寝転がったまま目覚まし時計に手を伸ばす。寝起きで霞む目を擦ってクリアになった視界に映し出された時刻は8時。
「え...ふあ!?」
ベッドから飛び起き着地に失敗して足を捻ったがそんなのはどうでもいい。目にも止まらぬ速さでパジャマを脱ぎ制服に着替える。おそらく五段飛ばしで階段を降り、リビングのドアを開けた。
「おはよ!やばい遅刻!なんか、食べるもの...」
リビングには誰もいなかった。あ、そう言うことか。だから寝坊したんだ!一番どうでもいいところが解明したが状況は以前変わらない。朝昼飯は諦めて家を飛び出した。
「やばいやばい!私の皆勤賞がッ!」
ギリギリ自転車よりも速い速度で学校の目の前まで猛ダッシュした。校門につき体が安心したのかどっと疲れが押し寄せる。
「や、ばい...あと1分しかないのに!」
無理やり体を動かして2階の教室の目の前までたどり着く。最後の力を振り絞り全力でダッシュで教室に飛び込んだ。
「おはよッ...」
何かが私の顔面に突撃した。多分人だ。ぶつかった衝撃で私は吹き飛ばされ、廊下に倒れる。気付けば私のを囲うようにクラスメイトが私のことを見下ろしていた。
「え、みんなどうしたの?」
私は意識が曖昧であっけらかんとしたことを喋ってしまった。意識がだんだんクリアになっていくと私の周りにいる人間の顔がどうにも起こっていることに気がついた。
「ひばりいいいい!起きたの!よかった安心したよおお!」
半泣きでミヤが私に抱きつく。アキラも野次馬をかき分けて私の元まで来てくれた。我ながらいい友を持ったなと感慨深い気持ちになる。
「よしひばり。目が覚めたならとりあえず、逃げるよ」
「え?」
アキラはそう言うと私を担ぎ上げて廊下を走り出した。訳もわからず誘拐された私はとりあえずアキラにしがみつく。
「今クラスというかもはや全校があんたの敵になったよ」
「ええ!?なんで!??」
「ぶつかった相手、誰だかわかってないでしょ。柳だよ」
その言葉を聞いた瞬間何かフラッシュバックしてぶつかった時の記憶がスローで再生された。ドアの角を曲がった瞬間柳の顔面が現れ...
全身に鳥肌がたった。それと同時になぜ皆が私に敵意を向けるのかまでもが理解できた。
「アキラ、私のファーストキスってまだ残ってる?」
「...聞かないほうがいいかと」
私は溶けた。
「ちょ!?ひばり!!気をたしかに!!」
「まって...はやッ!ハヤイッ!」
後ろから死にかけたカエルみたいな声が聞こえる。あーでもなんかもうどうでもいいかもしれない。私はファーストキスという人生の区切りを訳もわからん女男もどきに取られたのだ。
「ふぇへやももふふぇぇ...」
「ミヤ!ひばりの破片拾っといて!ひばりも頑張れ!!ファーストは奪われたけど!えっと...まだセカンドはある!」
なんだよそれよくわかんなすぎるわ。だがこれが彼女なりの慰めなんだろう。アキラは言葉足らずというか言葉を理解してないというかなんというかでたまによくわからないことを言う。本人に悪気は一切ない。
「アキラッ!もうみんなッ!ついてきてないッよッ!」
気付けば廊下は静まり返っていた。アキラの全力疾走には一部を除いて追いつくことなど不可能だ。
「ここまでくればもう平気だな。ひばり、ミヤ、お疲れ...様」
ずっと全力疾走をしていたアキラも流石に疲れたようで壁に寄りかかりながらへたり込んだ。私はなんとか体の形を保つことに成功した。アキラの言った通りキスなんて何度もできる。そう気に病むことでもないかもしれないと思い始めた。
「おい!お前たち!」
やっばい。先生が騒ぎを聞きつけてきたのだろう。ああまだ大きな騒ぎになっていれば説教は免れない。私は息切れしたアキラと、死にかけのミヤを見て逃げることを諦めた。




