苦手
放課後の教室。夏の始まる前でどこか涼しい空気に私は少しだけうとうとしてしまった。
「ひーちゃん!?なーに眠そうな顔してんの!ちょー大事な議論の最中でしょ??」
船を漕ぐ私にクラスメイトで親友のミヤが私のおでこを突っつきながら大声を出した。
"大事な議論"ね〜と私が茶化すと至極真剣な顔で隣のアキラが口を開く。
「モテないからって拗ねちゃダメじゃんひーばーり?」
私がすれば顔を切り裂くであろうほどに長いネイルを私に向けながらTHEギャルといった風貌のアキラがミヤの味方をした。ここに私の味方はいないみたいだ。
「あ、でもでもひーちゃんは知らないと思うんだけどひーって女の子にはモテモテなんだよ?」
「ええ...?別にそんな嬉しくないな...それっていいことなの?」
私の嫌そうな反応に2人は意外だったようだ。若干戸惑ったような様子でミヤが答える
「わかんないけど、味変的な?」
素っ頓狂な答えに私とアキラは笑いを堪えられなかった。
「なになに!?もういいよその話!本題本題!!」
2人に笑われ、ミヤは顔を赤くして2人の間を遮る。で?と私が聞いてみると、話聞いてないの?呆れた2人の顔がじっと睨んできた。
「だから!誰がモテるかな!?って話!ちなみに私は高身長イケメンの日野くんが一推しかなー!」
ミヤは腕を組みフンと鼻息を荒くして言った。私はーとアキラも続く。
「私は生物の七瀬先生かなー。なんか大人の余裕があるし、金持ってそう」
「先生も入れるの...?てか金持ってそうってどうなの」
私の指摘にミヤも賛同してくれた。
「まーアキラのセンスはぶっ壊れてるからあんま気にしない方がいいよ...ねッ!」
最後の一音が飛び跳ねなんだと目を向けるとそこには十字固めにされたミヤがいた。
「ひ、ひばりは...アッ...だれ!??」
「なに!?私の技が効かないだとッ!?」
床でのたうち回る2人をよそに私は思考を巡らせる。
(男子...そもそも誰がいたっけ...?さっき上がった2人も、あんまり知らないな)
腕を組み真剣に考える私の肩に背後から手が伸びる。ポンと乗せられた手はおそらく私の手より少し大きかった。
「僕でしょ?」
背筋がゾッとした。驚きだけではなく聞き覚えがあるその声に私は良い感情が出ない。
「なぎりんじゃーん。どしたんこんな時間まで教室いるの珍しいね?」
ちょっと用事が...私が立とうとするとワイシャツをくいっとアキラに引っ張られた。ミヤも素早く私を明日に戻すとまた会話を進める。
「たしかに...凛くんモテるもんね。なんと言うかどっちにも...!くー羨ましいっ!」
「あの、私本当に用事あるから帰るね」
「悲しいなぁ。そんなに僕、柳凛くんのこと嫌い?」
廊下側のドアに手をかけたまま大きなため息をひとつ、私は振り向いて答えた。
「嫌い。そう言う態度も、馴れ馴れしいところも」
強めにドアを閉めて私は急足で帰路に着く。腰でスマホが震えているが開く気にはならなかった。夏の夕方はずっと沈まない太陽と一緒に帰る。この時間、私は少し落ち着く。
「ちょっとひばり!?ハァ...やっと...ハァ、追いついたッ!あんた早すぎだよ!」
「あれ、追いかけてたの?気づかなかったごめん。何の用?謝れって話なら断る」
荒い息で汗だくの2人が息を整えながら私の腕を掴んだ。2人がしがみついてきたことにより私はまともに歩けなくなってしまった。
「急に帰るからびっくりしただけだよー!ごめんね?ひーちゃん、柳、ダメだったのしらなくて...」
「前も言いました」
え?あれ?、ミヤは頭を抱えてしまった。
「とにかくごめんね?デリカシーなかった」
こんなに大事になるとは思ってなかったから私はぶっきらぼうな返事しかできなかった。
「うん、じゃ私こっちだから。また明日」
こんなだから彼氏の1人もできないんだろうな...勝手に自己嫌悪に浸りながら、トボトボと薄暗い道を歩いた。
「ただいま」
リビングの方から小さい声でお帰りの返事が聞こえる。靴を雑に放り投げ、鞄も肩から滑り落ちた。
「相変わらず元気ないねーまたなんかあったの?」
キッチンで作り終えた料理を運びながら母は言った。温かい料理が並んだテーブルは食欲をそそるいい匂いを放っている。
「別に何にも...ただちょっと意地悪なことしちゃったかもなってだけ」
「ふーん、まあそう思ってるならいいんじゃない?次しないで済むじゃん?」
楽観的な考えの母の言葉で心臓の重さが少し軽くなった気がする。
夕食の準備を終えて、母と2人の食事が始まる。その中で話される話題は、学校のこと、週末の話、どれも他愛もないものばかりだ。この時間は何も気にしないで済む。付けっぱなしのテレビにある放送が流れる。
"前世の記憶が復活!?織田信長だった女子高生" "バツ2から罰金制度、国が認可"
"LGBTQ"
その単語を聞いた母が貼った何かを思い出したように口を開く。
「あ、そういえば聞いた?」
「何?」
箸で煮物を掴みながら私は返事をする。
「中谷さんちの息子さん、なんて言うか、えっと...ゲイ?だったらしいよ」
「...そうなんだ」
「嫌よねーなんか。ちょっと気持ち悪いって言うかなー」
結構触れづらい内容でもどしどし足を踏み入れていくのが母だ。この話題も公の場で話せば炎上確定。私としてはなんともいいづらかった。
「まあ、人それぞれだしなんとも言えないかな」
「何その反応。あ、もしかして腐《そっち系》?」
違うよ!と大慌てで否定したせいでよりそれっぽくなってしまった。居てもたってもいられなくなりご飯をかき込んで逃げるように食器を片付けた。




