メイドの告白 (この日、私は妹を失った)
とあるパーティーにて一人の令嬢が婚約破棄を告げられた。
会場内はざわめきにより覆い尽くされる。
婚約破棄を告げる者と告げられる者共にこの国では有名な二人であったからだ。
婚約破棄を告げるのはこの国の第一王子ミカエル殿下。
婚約破棄を告げられているのはフォークス公爵家グレイシア令嬢であった。
この日、二人は婚約を破棄された。
しかし、それだけでは終わらなかった。
パーティー会場で婚約破棄とされた理由で裁かれる事となったグレイシア令嬢に下された刑は断頭の刑であった。
数日後、民衆に晒されるように現れるグレイシア令嬢。
罪人に許された最後の言葉を聞きとげようと皆が静まり返る。
「殿下、共に歩む約束を守れず申し訳ございません」
罪人が語る言葉は罵る言葉でも罵倒する言葉でもなかった。
そして誰もが令嬢の姿に戸惑う。
木枠に差し込まれた令嬢の顔は笑顔のままであった。
本当に令嬢は悪女なのかと囁かれる中でミカエル王子は立ち上がり手を上げる。
それは執行の合図であった。
執行人により綱が切られ大きな刃が落とされた。
本来なら籠の中に入るはずの生首が籠から転げ落ち、ミカエル殿下と聖女がいる方を見つめていた。
それはまるで何かを訴えかけようとしているかのようであった。
これは、この断罪に関わりのある者が語る告白の話である。
私の名はメイジー・ブラウン。
ブラウン子爵家5人兄弟の一番年下として生を受けました。
家は裕福であり普段の生活には困らなかったのですが、子爵家の五子となると良い嫁ぎ先が見つからない限り平民の道しかございません。
よって、将来的の事を考え寄り親であるフォークス公爵家のメイドとして働く事となったのです。
新人の仕事など裏方の裏方。
公爵家の方々にお会いする機会など殆んどありませんでしたが、たまにヒョコっと私達の仕事を除き見ている小さき妖精がおられました。
私が小さき妖精の方へ近寄ろうとするとスタタタッと走りさってしまいます。
流石は公爵家。
高貴な方のお屋敷には妖精もいるのだと信じておりました。
その妖精の招待を知ったのは一年後の事でした。
「メイジー、明日から貴女をグレイシアお嬢様の専属メイドとします」
フォークス公爵家で働くこと一年。
私に新しい仕事を任される事になりました。
グレイシアお嬢様の専属メイドに選ばれたのです。
「私、グレイシア、宜しくね」
「メイジーと申します」
グレイシアお嬢様にお会いして驚きました。
あの妖精がお嬢様だったのです。
お嬢様は年の近いメイドが屋敷にいる事を知り度々会いに来て下さったそうです。
今回の人事もお嬢様のたっての希望だったとか。
姉のように思って下さるお嬢様。
私も末っ子であったため昔から妹が欲しかった私もお嬢様の事を妹のように思うようになりました。
そんな私がお嬢様を悪女に仕立て上げ裏切ってしまった事を告白したいと思います。
お嬢様はとてもお美しい。
まだ、子供ですが、シルバーゴールド色の髪は絹糸のようにさらさらとしており、風が吹けば煌めく髪がそのお姿と相まって誰もが見惚れてしまいます。
だからなのでしょう。
暫くして第一王子より婚約の釣書が届く事となりました。
公爵閣下はまだ早いと嘆いておられましたが王家からの申し出という事もあり、この婚約を引き受ける事となったのです。
婚約者として並ぶ二人は誰からも不平不満の言葉が上がる事なく誰しもが納得した婚約でした。
初めて公爵邸で行ったお茶会では頰を染めたお二人の姿を初々しく見ておりました。
終始お嬢様を慕う殿下と二人は仲睦まじく将来が楽しみでした。
だから許せなかったのです。
お嬢様を裏切る殿下の事を。
だから、私は・・・
お嬢様を殺してしまいました。
二人が学園に通い出す頃までは良かったのです。
ですが、進学され新入生として聖女様が入学されますと殿下は変わられてしまいました。
お嬢さまの傍から離れ、常に聖女様の傍にいるようになったのです。
ここからお嬢様の孤独が始まる事となりました。
お嬢様は王命だから仕方がないと言われます。
ですが、王命により学園で傍に聖女に付き添う事になったとしても手紙も届かなくなるのは違うのではないでしょうか。
お嬢様も薄々は気付いておられたのか、お嬢様から笑顔が徐々に消え失せていかれました。
私は許せない、お嬢様から笑顔を奪った殿下の事を。
そんな私の心は悪意がある者に見透かれてしまいました。
「断罪ですか?」
公爵家にはお嬢さま以外にお子はおりません。
お嬢様が殿下と婚約を結んだ事で公爵家に跡継ぎが必要となったため、カミュ様を養子へと迎えることとなったのですが、そんなカミュ様からお嬢様を断罪する計画を持ち掛けられました。
カミュ様からミカエル王太子殿下がお嬢様との婚約を破棄する計画を立てている事を知らされ、あのお優しいお嬢様が裁かれるなど巫山戯た事をという思いと共に、あの男と離れる事が出来る事への安堵感もありました。
「君には二人が別れ易くなるように証言して欲しいんだ」
お嬢様を裏切るような事など出来ません。
裏切ればお嬢様が悲しんでしまう。
これ以上、お嬢様が悲しむ顔を見たくない。
だけど・・・
私が裏切る事でお嬢様が王太子殿下から解放される。
お嬢さまから笑顔が取り戻せる。
ならば私は・・・
「今すぐ返事しなくてもいい。よい返事を待っているよ」
カミュ様は直ぐに答えをお求めになりませんでした。
本来なら直ぐに断る事を顔を顰め黙り込んだ事でカミュ様は余裕な態度を示しされたのかもしれません。
そして、カミュ様の考えは間違いではありませんでした。
私はカミュ様をさほど待たせる事もなく提案に頷いてしまったのです。
裁判所。
ここで私は証言しました。
既にお嬢様はパーティーで断罪され囚われてしまっておりましたのでお会いするのは久しぶりでした。
久しぶりにお会いしたお嬢様のお姿は公爵令嬢とは思えない格好をされておられ心が折れそうになりましたが、後少しでお嬢様を解放する事が出来ると思った私は計画通り進める事にしました。
私の行った事は1の出来事を100にして伝えただけ。
それだけで印象操作には十分でした。
証言台に立つ私に驚かれていたお嬢様は、私が証言する度にお嬢様が私の名を呟くのが聞こえます。
お嬢様のお顔を直視する事が出来ず真っ直ぐ裁判長の方を見て話しました。
心がズキズキと軋むような痛みを感じるも私はこれもお嬢様のためと最後まで嘘を貫いたのです。
結果、お嬢様は処刑されてしまった。
何故?
どうして?
私のした事は1を100にして伝えただけ。
たったそれだけ。
だけど、それがお嬢様の印象を変えてしまった。
印象が変わったから処刑されたのかもしれない。
私はただ、王太子殿下からお嬢様をお救いしたかっただけなのに。
王太子殿下から解放して差し上げたかっただけなのに。
だけど、結果は処刑となりお嬢様ともう会うことは叶わなくなってしまいました。
私がお嬢様を殺してしまったのです。
カミュ様に詰め寄るもカミュ様もこうなるとは思っていなかったらしく取り乱しておられました。
カミュ様も操られている一人だったのです。
カミュ様を操る者の真意など解りませんが、その者はお嬢さまに生きていられるとお困りだったのです。
ただそれだけ、それだけの理由でお嬢様は死ぬ事となったのです。
お嬢さまが処刑の判決が出ると公爵閣下よりクビを宣告されました。
親からも勘当され戻る事も出来ません。
仕方がないのです。
私は裏切ってしまったのだから。
私は妹のように思っていたお嬢さまを裏切って殺してしまったのです。
その事実を拭い去る事など出来ません。
謝る事ももう出来ません。
お嬢様は処刑される事になりました。
お嬢様を裏切った私には生きる資格などございません。
お嬢様が処刑されるという日に自死する事に致しました。
願わくば、私の罪を書き写したこの手記によって一人でも良いのでお嬢様の無実を知って頂けませんでしょうか。
一人の高貴な令嬢が公開処刑された日、人の通りも疎らとなった橋の欄干下で一人の若き女性がガラスの破片にて喉を切り裂き亡くなった。
血は勢いよく吹き出し川を赤く染めましたが誰にも気付かれることなく遺体は翌日に見つかる事となりました。
遺体の手には一冊の手記が握られていた。
しかし私は生きていた。
首を擦るも切付けたはずの傷がない。
見渡すもあれほど勢い良く吹き出した血の後がどこにもない。
手元にはガラスの破片も手記も握られていなかった。
それどころか、私が今いる所は公爵の屋敷。
私は橋の欄干の下にいたはず。
公爵の屋敷は追い出されていた。
ここにいるはずがない。
公爵家の方が治療して下さった・・・
いや、最後にお会いした公爵様の態度を考えるとそれは考えられない。
ならば・・・
夢!?
しかし、夢にしてはリアル過ぎる。
皆が眠る中、ベッドをおり、鏡を覗く。
どうしてそうしたのか?
特に理由はない。
理由を上げるとしたらなんとなくであった。
何気なく鏡を見ると、若い自身の姿が映っていた。
数年前の自身の姿を見て私のとる行動は一つであった。
お嬢様に会えるかも・・・
深夜の公爵家屋敷。
一人のメイドが礼儀を忘れ走る。
無我夢中に。
お嬢様が生きているという期待をこめて、お嬢様が眠るドアの前に立つ。
荒れた息を整えお嬢様の扉のドアノブに手をかけようとした瞬間に今の状況について考える。
夜も暮れ、警邏の者以外は皆が就寝されている時間帯。このような時間に訪れるなど失礼この上ない。
しかもお嬢様が生きておられたとして何と言えば良いのか解らない。
答えを見つけることが出来ず、お嬢様の部屋の前に立ち、どれくらいの時間が経っただろうか。
部家の中から物音がした。
躊躇していた体が動き、ドアをノックした。
「お嬢様?」
「・・・どうしたの?」
嗚呼、生きておられる。
お嬢さまがここにおられる。
もう怪しく思われてもいい。
咎められてもいい。
一目、一目だけでもいい。
無性にお嬢さまにお会いしたくドアを開けるとお嬢様は鏡の前に立っておられた。
生きておられるお嬢様のお姿を見て私は涙をこぼすと、お嬢様は私の姿を見て何かを察した。
「そう、貴女も記憶があるのね」
お嬢さまのお言葉で確信した。
あの夢は真実なのだと。
私はお嬢様の近くまで歩むと両膝を付き頭を垂れてお嬢様に謝罪した。
自身の行いを神に懺悔するかのように包み隠さず話し頭を床に着けた。
お嬢様の手が私の肩に優しく触れる。
その手からは憎しみや恨みの熱は感じられなかった。
顔をゆっくりと上げお嬢様の顔を見ると、お嬢さまのもう一つの手にはハンカチが握られていた。
「仕方がないわ。正しき国のためですから」
正しき国のため?
時折、お嬢様が口にするお言葉。
申し訳ないがお嬢様が何を申されているのか解らなかった。
ただお嬢さまが許して下さった事が嬉しかった。
「ただ、そうなりますと貴女もあの後(処刑後)どうなったか解らないのですね」
「・・・・はい」
「そう、困りましたわ。少し調べなくてはなりませんね。場合によっては修正も必要かもしれません」
「修正!?」
「何でもないわ。もしかしたら貴女にも調べて貰う事があるかもしれないけど、その時は頼んでしまってもいいかしら」
「はい!」
正直言ってお嬢さまが何を考えられているのかこの時は解りませんでしたがお嬢さまの頼みを断るなど、この時の私には選択肢として考えられなかった。
だからこの時は気付かなかった。
お嬢さまから私を姉として慕う心が消えてしまっていることに。
今のお嬢さまは、『雇い主と使用人』
ただそれだけの関係となってしまった。
もう昔のように戻る事は出来ない。
これは私が償うべき罰。
私は受け入れなくてはいけない。
失ったものを。
この日、私は妹を失った。
メイドの告白でした。
メイドは主を思って裏切ってしまいましたが結果は主の死でした。
懺悔として書かれた手記。
その手記に誰かが気付いてくれたのか解りません。
全ては過去の事なので。
メイドは誓う。
もう主の事は裏切らないと。
次の告白者は罪人のご友人です。




