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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘
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「い、今、なんて言ったんだ。俺の聞こえ間違いじゃなかったら幼稚だと言って」


 佐々木は言葉を遮り、椅子から立ち上がってこちらへとゆっくり近づいてくる。


「ええ、ええ。聞こえ間違いなどではありませんよ。今の身体を張った作戦、成功したとお思いですが結果は1人ダウンさせて銃を奪っただけ」


「それで充分だろ!現に俺はこの場を支配している。それ以上近づいてくるなら、あんただって躊躇いなく撃つぞ。その前に俺をここから解放して、もう俺に2度と接触してこないでくれ」


「そこまで拒絶されるほど、私達が何かしましたかね。まあ、良いでしょう。それで接触するなと言っている訳ですが、それは対策課を抜けるという認識で合っていますか」


 どうして急にそんな話になるんだと思ったが、今まさに行っている行為は上層部に対する叛逆行為だと捉えられてもおかしくない。


 逆らうつもりはなく、ただここから解放してくれればそれで良い。もちろん、監視していた事は腹が立つ。しかし、今組織を抜ければ、監視が一生続くだけでなく、異世界へ戻る手がかりを探せなくなる。


 最終目標である異世界への帰還。異能力が集うこの場所に所属していれば、異世界からの帰還者が混じっているはずだ。組織から抜ける行為だけは避けなければいけないので、構えていた拳銃を下ろす。


「その態度、やはり抜けたくはなかったのですね。先の事を考えない。それが幼稚だと私は言っているのですよ。異世界の事も話したくなさそうですが、他の異世界からの帰還者と同様に長い空白期間がある以上、誤魔化しきれませんよ」


「それでも俺は話せません。今の行為については謝ります。異世界についての事以外なら、何でもするので脱退だけは」


 今、話している事が異世界へ行って帰ってきた事を言っているようなものだが、その事についてクロは馬鹿なので気づかない。


 佐々木はまた溜息を吐き、黒服達を一瞥する。すると黒服達は殴られた者を含めて、一歩引いた所に移動した。


「私は何度も言いましたよね。質問に答えてくれれば解放すると。今までは隠している力を使って嚙みつけば、どんな問題でもなんとかなっていたのかもしれませんが、もっと考えを巡らせるべきですよ」


「おっしゃる通りです」


「そうですね。黒様にはそのままアルバイトを続けながら、アハトと共に異能力者の情報でも探ってもらいましょうか。得た情報は全てアハトに話して頂ければ大丈夫なので」


「それだけで良いんですか?俺を解剖したりとかは」


「して欲しいのならそう指示をしますが。ですが例え解剖したとしても、大した情報を得る事は出来ないでしょうね」


 どうしてそう思ったのか知りたい所ではあるが、よく見えない佐々木の顔を見てそれは諦める。これ以上、ここで会話を続けてもボロがどんどん出ていき、立場が悪くなる一方だ。


「わかりました。情報の件は謹んで引き受けさせていただきます」


 大人しく頷き、同意の意を示す。ついでに手をヒラヒラと上げて、降参のポーズを取ってみるが誰もクスリとも笑わないので恥ずかしくなる。


 そんな事など気にせず、佐々木は一歩引く形で佐々木とクロを取り囲んでいる黒服達に指示を与えている。


「では、お願いしますよ。アクシデントはありましたが、約束通り解放しましょう。では皆さん、目隠しと支部までの案内をお願いします」


 指示を受けた黒服達は全員で近寄ってくる。一度抵抗されて、警戒しているのだろう。なのでそのまま手を上げ続けて、何もしないと身振りで伝える。


 目隠しをしなければいけないほど、この場所を秘匿したいのか。ただの窓のない牢獄、もしくは尋問室にしか見えないが、ここが情報課の本部だったりするのなら、いつ襲いにくるかわからない、情報を漏らすかもしれない者にバラしたくないのは当然か。


 目隠しをされる直前に佐々木は立ち上がり、帽子を取って胸に持っていく。一瞬しか見えなかったが、その時佐々木の顔がチラリと目に映った。


「また、どこかでお会いしましょう。次、お会いする機会がある時は、あなた様の異世界についてのお話をお聞かせ願える事、楽しみにお待ちしておりますよ」


 瞬間、体に電撃が流れた。

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