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旧約(改稿前):電子競技部の奮闘歴 →書籍化  作者: 西井 シノ
本篇・PV稼ぎ用の分割&改稿版+α

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⑩脳内計画書

「言いたいことは分かるよ志田錺。君のことは箆鹿君から聞いた。」


 秋刕は陽菜へマウスを引き継ぐと、オペレーター適正キャラ{ガガーリン}を操る錺の後ろへと回り込む。


「箆鹿って誰ですか?」


 秋刕はそっかぁという顔をして話を切り返す。


「生徒会長だよ。隣のふんわりした感じの女の子がそう呼んでた。可愛い娘だったよ。それより...」


 秋刕は錺の画面にあるダメージゲージを指して続ける。


「ここだ。ウィークポイント。この役職は特殊でさ、前衛も後衛も器用にこなせるんだけどHPが低い。」


「知ってますよそんくらい」


 錺は不貞腐れたように言う。


「一番低いんだぞ?」


 秋刕が試すように言うと、錺は「え?」と言葉を漏らした。


(やっぱり)


 秋刕は喋りながら思考する。


「君の動きは上級者が血の滲む思いをして身に着けるような動きだ。君は頭が良いと箆鹿から聞いた。言動を見るにこのチームのブレインなんだろう。エイムもムーブも実に普通。普通に綺麗だ。でもチームには合ってない。」


「なにが分かるんですか貴女に。」


 錺は大王城を漁りながら秋刕を睨んだ。


「君さあ怖いよ。女の子をそんなに強く見つめるもんじゃないよ?あとさっきのプレイ見たでしょ。私は強いんぞリーダー、私を信頼したまへ。」


 しかし錺は興味無いといった顔で画面に向き直る。


「理由を聞いてる訳じゃない。それに俺はその箆鹿を信用していない。つまり俺からしたら、貴女は部活おれらを邪魔する弊害になりえる。」


「そうかい。」


 秋刕は腕を組みながら呟やいて、錺の肩に手をあてる。


「まぁそれでいいよ。むしろそれがいい。なんせ、大人げ無いが寄り集まり、大人の世界は出来ている。それが社会との正しい付き合い方だ。君は信じられるものを信じればいい。」


 そう言うと秋刕は無理やり錺の両イヤホンを耳から引っこ抜いた。


「何すんだよ?」


 錺は振り向く。


「私がプレイする。君が私を信じられるかこのマッチで決めればいいさ、君にはそれを選択をする力がある。時間が無いなら尚さ!」


 錺は屈託のない秋刕の笑顔を覗く。それには既視感デジャヴがあり心当たりもあった。かつて陽菜が見せたような純正の笑顔。瞳には淀みが無く、口元にはブレがない。まさに自分が真っ向から否定したあの笑顔。錺はそれと秋刕を重ねた。


「分かった。」


 錺は席を譲ろうと立ち上がる。


「合理的なのでそうします。有益な情報が得られなかったら俺はチームの為にあんたを追い出す。例え他の部員が制止したとしても」


 秋刕は、満足といった顔で席に座りポケットから高そうなイヤホンを取り出す。


「ゴメンね、断わっておくが潔癖なんだよ悪気は全くなし。」


 早口でそう言うと秋刕はそそくさと席に座った。


「あぁ~、よっこらしょういち~」


(じじいか...)


「錺ちゃん。私の講義は聞き逃すなよ。教えたことないけど多分一級品だ。」


「多分ってなんだよ。」


 錺は眉をひそめる。秋刕はゲーム内マウス感度をだいぶ下げて視点を振りちょっとずつ調整していく。


「DPI(※dots per inch=1インチあたりに可能とするドットの表現数。)は800といった所か…。ハイエンドだけど古いマウスだね。マウスパッドも摩耗が酷い...」


 秋刕はデバイスの感触を確かめながら、自身が操作する環境を脳みそへインプットしていく


「まぁこれは私説なんだけどさ。{極限までに鍛錬を重ねるような業界}の1流っていうのは自分の行動を的確に説明できる気がするんだ。なんでこうしたのか、どうやってそうしたのか。それを詳細に説明できれば成功を意図的に生み出せるしミステイクを修正しやすい。」


 秋刕は武器拾いを引継ぎながら話を続ける。周りは黙りこくって、イヤホン越しと外部アプリのVCから聞き耳を立てていた。


「ただそれは往々にして後の話さ。プロっていうのはゲームの録画をして自分達のムーブを見て反省会を行うんだけど、プレイ中は短時間の内に柔軟で最適な行動の選択を迫られる。本来ならそこには膨大な数の選択肢があるはずなんだけど、プロのプレイを見てると反射的に動けてる気がするよね。」




 秋刕は手慣れた速度で大王城をザっと漁ると新田や陽菜のキャラを抜き去り、迷い無く南西部に隣接するサブシティ{ギルド街}を漁っていく。陽菜は「確かに~」と相槌を打ちながら秋刕の背中へ付いていく。




「それはXシステム。極端に言えば直感力がすごいからなんだ。でもただの直感じゃない。無駄な選択肢を極限まで省いた経験則に基づく鋭利な直感。後から考えても説明が付く程に正確な直感。それが彼らの行動に精密性と俊敏性を付加している。そしてこれが私の求める一応のゴール。」




 秋刕は大王城より北上して位置するサブシティ{かじ家}{領主の館}{教会}から成る「北の三連}へピンを打ちチームを急かす。錺から引継ぎをした無駄な時間があったにも関わらず、その移動速度は彼女のファーム(※落ちている武器やアイテムを拾う事)の精錬さを物語っていた。




「とにかく無駄を削いでいくんだ。無駄な思考、無駄な行動、無駄な言動。それらを無意識の内に削ぎ落とした先に更なるアイディアやムーブを生み出す余裕が生まれる。脳の余裕、思考リソースだ。君らの脳にはもっとキャパシティが必要なんだよ。そして生まれた余裕で考える。射線(射撃時の弾丸の筋道)の通り方。注意すべき方向。次するべき動き。ただの直感を確定的に正しいと言い切る為の後押しとなるような論理のベールで包むんだ。そう、この領域にまで君たちを連れていきたい。」




 秋刕は恍惚な表情を浮かべながら、反重力板を使用し遠くを覗く。北の三連から更に北上すればエントリーゲートと呼ばれる大きな橋が存在する。その先こそダイヤモンド・クロニクル最激戦区{コスモシティ}と呼ばれ、近未来的な街が広がりを見せるハイティアゾーンが姿を現す。




「三連は漁らないよ。」


 秋刕はVCから4人へ知らせる。




「えぇなんで?」


 すっかりとメインオーダーを取られてしまった陽菜が秋刕へ声を漏らした。




「敵が来てるんだよ。検問(※プレイヤーが通りやすく逃げづらい地帯での待ち伏せ)して潰してやろう。」




 秋刕はニコニコしながら言葉を返すがスナイパー役職ロールの恵は顔を曇らせた。




「敵は見えなかった。あと検問って何?」




「へぇ、君は本当に良く見てるな。」




 秋刕は感心しながら北西部への架け橋となる{エントリーゲート}の遮蔽物カバーへピンを指し、率先して身を隠した。




「検問っていうのは言わば待ち伏せだよ。敵が来そうな所で潜伏ハイド(hide=隠れる事)して奇襲するんだ。君の言う通り確かにコスモシティからコッチヘ向かうような敵はいなかったけど、今は条件が抜群に良い。マップを見てみてくれ。」




 秋刕はマップを開き、島を包むように収縮しているダメージリングの南端へピンを指した。




「リング(※収束円、予報円。ここでは次の収束を示す予報円。バトルロイアルにおける収束円の外は通常スリップダメージを喰らう。)は島の南を突き抜けている。かなり南方へ引っ張られるアンチ(安全地帯)であることは間違いない。今はかなり予想しにくいけど、初手は北西部6パーティーで北港被りのコスモは3パーティー被り。後は中央1パーティー。これで銃声の聞こえが悪いんだ。これは来るね。」




 秋刕はしゃがみキーをホールドしながら空いた右手をブラブラさせて言う。




「マップ理解とリング予想は戦術決定の基盤だ。全員が頭に入れておく必要がある。特にIGLインゲームリーダーとメインオーダーやる奴は死ぬ気で頭に叩き込むんだ。後は…」


 


 秋刕は徐々に大きくなる足音が味方陣地の深くまで近づくと反重力板で飛び上がった。




「後は基礎を徹底すること。」




 直後、用意していたグレネードを敵後方へ放り込み退路を断ち、浮遊しながらキャラ2体分程の遮蔽物の上へしゃがみながら乗り込んでいく。




「遮蔽物カバーの使い方一つ取っても上手い下手は別れる。そこには血の滲む様な努力は要らない。意識さえしてれば生存率が上がるような知識も多々ある。」


 


 秋刕はそう言いながら拾ったARアサルトライフルを的確に当てていく。使用武器は500-5A。最も基本的な5mm弾のARであった。




「だから空中で高速にレレレ(※「レレレのおじさん」が語源とされる細かい左右への回避行動。)しながらフルオートでエイムするなんて今は出来なくてもいい。錺ちゃん君のことだよ。」




 敵オペレーターを落した所で、陽菜が敵タンクの横へ滑り込み、飛び跳ねながらストライカーを落とす。




「スナイパー1、対岸の遮蔽物裏!バブル頂戴!!」


 秋刕がオーダーを出すが新田は反応しない。




「あぁ失礼!ドームだよ!」


 新田はハッとしてスキルを投げる。秋刕はそこに滑り込みながら、敵タンクの背中を腰だめ撃ち(=サイトを覗かないで射撃すること)で破壊する。




「ヒーラー、フォーカス!(※フォーカス、焦点を当てる。転じて狙い撃ちをすること。)」




 要請しながら結局自分で落とすと、刹那進行方向を対岸へ変え範囲燃焼型のグレネードを準備した。




「恵けいちゃん。炙り出すから狙って。」




 秋刕は対岸の遮蔽物カバー裏へグレネードを放り投げる。




「ほら出た!」


 秋刕はそう言いながら自分でサイトを覗き頭部へ連続で五発5mm弾を当て残りは全て胴体へ、1マガジンを使わずに敵を破壊した。




「それと、私がどれだけ優秀だろうと覆せないものがある。」




 正面へ更に、敵の存在を示す赤いピンを指しながら、秋刕は小指の爪程度減ったHPを回復しつつ遮蔽物カバー裏へ身を隠す。




「それは時間だ。Xシステムを鍛える経験則にも時間が必要不可欠。やはり時間こそ絶対的な糧であることに相違はない。つまり練習時間こそ正義。」




 秋刕はリロード毎に身を隠しながら、{コスモシティβ(二つある内の南側)}から向かい来る敵をけん制射撃する。




「だから基礎のエイムが伴っていないヒーラーの君とタンク君の2人には、とことんミクロをやってもらう。個人練習では無意識化でキャラクターコントロールとエイム制御を操れるようになるまでは訓練所から出ないことを推奨するよ。もちろん私がプログラムしたカスタム訓練所でだ。結構楽しい。」




「なんで私の名前を知っているんですか...」


 恵は今更ながら不気味そうに、横に座っている秋刕に聞いた。




「まぁ私はPCが好きなんでね、知られたくないなら名前タグは外しといたほうがいい。後は、オタク眼鏡とスポーツ刈りと天才茶髪ッ娘に鼻につく男。聞いた通り五者五様だけど協調性はしっかり有るらしい。」




 秋刕はそそくさ立ち上がると後ろで画面を覗く錺へ、バトンタッチとして肩をポンっと叩いた。




「もういいだろリーダー。私にだってキャリアがあるんだ。すなわち君らを勝たせる事にも当然利が有るんだよ。」




 錺はそれを聞くと、黙って頷き席へ座った。




「分かりました。ただし、、」




 錺は横目で秋刕に呟くように言う。




「箆鹿って奴は信用しないほうが良い。あいつは多分、想像以上に腹の真っ黒な“怪物”ですから。」


 


 秋刕は脳裏に箆鹿の横顔を浮かばせた。




「どうだい。ゲーマーを欺けるほど彼が優秀だとは思わないけどね。」




 しばらく黙って秋刕は再度口を開く。




「まぁ、肝に銘じておこう。」




 すると秋刕は、楽しそうにマウスを動かす陽菜の右後ろまでゆっくりと歩いていく。




「さて、時間は無いんだ。キーマンには頑張ってもらわなくちゃね。」


 秋刕はニヤニヤしながら、広げた脳内計画書の核に手を伸ばした。




「新田海タンクくん。しばらくのオーダーは君に任せたい。」

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