3-03『一触即発』
濱竹が名護と会談をしている頃、靜あおいは関東統一連邦の東輝国を訪れ、盟主である東輝洋介との会談に臨んでいた。
「どうだ、我々の技術は。扱いやすいだろう?」
洋介の言葉に、あおいはコーヒーを煽ったあとで頷いた。
「そうね。生活の質が一気に向上して、なんだか“文明化”した気がするわ」
あおいが言うと、洋介は「そうだろう、そうだろう」と笑った。
「何せ世界最高水準の、高度な文明力だからな!」
洋介は誇らしげに言ってのけた。
「本当、感謝しているわよ」
あおいは洋介を持ち上げるような発言を続ける。
「今の靜連邦があるのは、関東からの支援が成功して、各加盟国の国力が底上げされ、連邦全体が豊かになったからよ。それは間違いないわ。だから私たちは関東に感謝をしているし、反故にするわけにもいかないことは充分分かっているのよ」
「おう、そうか。関東統一連邦に入ればもっと豊かになるぞ!」
「あはは、何よその勧誘。まるで今が“お試し期間”みたいじゃないの」
あおいが面白そうに笑う。しかしその裏には「靜連邦は関東の所有物じゃないんだから」という明確な意思が見受けられて、洋介からしたら面白くなかった。
「ほう? “お試し期間”とは言い得て妙だと思ったがな、違うのか?」
洋介は真面目な顔をしてあおいに訊いた。
あおいはクッキーに手を伸ばしながら、しかしその顔を洋介に向けて、若干の上目遣いで首を傾げた。
真っ直ぐ向けられた青い瞳が、そんな訳があるかと言っていた。
洋介はあおいを見ながら続けた。
「お前らは、俺たちからの技術支援を受け、その文明水準を底上げされた。つまり関東と同じ土俵に立つ権限を得て、さらにはその水準を体験し、もし関東統一連邦に加盟したならばどんな生活が確約されるのかを擬似体験することになった。それが今だ。つまり今の靜連邦とは、関東統一連邦の影響下に置かれた姿を予期させるものであり、それを喜ばしく思うならば、お前らにとって統一連邦への加盟を拒否する理由がないように思えるがな」
洋介曰く、連邦全土が靜の領土となって“靜国”という扱いになるが、今の国家単位で自治領が設けられ、実質的な国体に大きな変化があるわけでもないとのこと。
それに靜にとってみれば、その領土が連邦全域に広げられ、今いる神々は皆明確に配下となり、靜の権力は絶対的になるのだ。
神々が好き勝手できる世の中ではなくなると同時に、祖神種が好き勝手できる世の中になるのだ。
祖神種にとって、利益だけを見れば関東統一連邦への加盟は断る理由が見当たらないというのも頷けるのだ。
それが、祖神種絶対主義を掲げる関東統一連邦という組織なのだから。
「そうねぇ……」
あおいはようやくクッキーに手を伸ばし、手に持って眺めながら呟いた。
悩んでいるように見せているが、結論は既に出ているのだ。
「丁重に断らせていただくわ」
そう返して、クッキーを口に入れた。
「そうかよ」
洋介は不満な気持ちを隠すことなくぶっきらぼうに返した。
「で、今日は何しに来たんだ?」
加盟する気がないと知った洋介は明らかに不機嫌になったが、それでも用件が済んでいないので追い返すことはせず、あおいに内容を促した。
あおいは、洋介の不機嫌具合など気にしないかのようにクッキーを咀嚼して、美味しそうに頬を緩ませると、
「それよりも、これ、どこのクッキーなのよ。お店教えなさい」
と言う。
「はぁ? んなもん……」
知らねぇよ、と言いかけた洋介だったが、取り寄せたのが自分であることと、当然洋介も気に入っている店であるため、知らないはずもなく、また、会談で用意されるお菓子は大抵その国の神が気に入っている物でなければ提供されないのも事実であるため、隠すことはできないのだった。
「こっから南に少し行ったところに、少し割高な菓子屋街がある。東輝屈指の腕前の職人が集う場所で、その中にある“焼き菓子なごみ”という店のものだ。値段は周りと比べると高いが、その完成度を知れば価格など置いておきたいほどのものだ」
さすがに庶民には手が届かないが、上神種なら贈り物で選ぶ者もいるとかなんとか。
洋介はそんなことをあおいに言った。
「かなり美味しいわね! お土産に買っていこうと思うから、あとで案内しなさい」
「はぁ? 勝手に行けよ」
「嫌よ。私、方向音痴だもの」
「ならば若菜にでも頼め」
「あの子、東輝にいるの?」
「今日は午後に来るぞ。夜には帰ると言っていたから、その時にでも一緒に行け」
「じゃあそうするわ」
洋介とあおいはそんな会話をした。
「それで、本題だが」
雑談に逸れていた話題を洋介が戻す。
「何を言いに来たんだ?」
「んー、そうねぇ」
あおいは考える。どう伝えたものか、どう言えば洋介をあまり怒らせずに済ませられるか。
東輝洋介とは、面倒な男なのだ。
「関東からの技術支援は助かっているけれど、軍を駐屯されるのは困っているのよね。大連邦協商の規約にだって、5050年までの技術支援は確約されているけれど、そこに軍を駐屯することなんて書かれていないわけでしょう? 自国は自国で守れるし、それを他者に依存させてしまうのは、なんだか取り返しがつかなくなりそうなのよね」
「だが、軍を駐屯させねば支援したところで使い勝手が分からんだろう。運用能力の低さだって問題になっているだろう? でなければ、俺らの技術を持っていたのに井谷戦争でお前らが苦戦した理由が成り立たん」
「いや、あれは関東の技術よりも井谷とか濱竹の技術の方が優っていただけで、私たちの運用能力に問題があったわけじゃないと思っているけれど……」
「何をっ!? お前、俺たちの技術がクソ以下とでも言うつもりか?」
「その発言だと、私たちの技術がクソということになるんだけど?」
「そうだろう? 劣等的な集団が作り上げた蛮庸な技術であることに違いなかろう!」
「はぁあ!? その蛮庸な技術相手に尻尾巻いて逃げた奴に言われたくないんだけど! あのまま全軍引き揚げてくれて良かったのに。なんで猪頭に残っているのかしら」
東輝洋介も面倒な男だが、靜あおいもまた、短気で短絡的な女なのだ。
よって、この連中の会話は上のように喧嘩になる。
分かりきっていたはずなのに、靜は何故かあおいを派遣してしまった。
間違いなく、するがが行くべきであっただろう。
もし仮に、ここにするがが居たならば。
また仮に、夏半若菜も居たのならば。
きっとこの喧嘩は未然に防ぐことができただろう。
「ちょっと洋介、何してるのよ」
ドアが開いて、あおいと洋介が言い合う空間に、別の存在が姿を現した。
夏半若菜である。
「気が向いたから早く来てみれば、なんであおいちゃんと口論してるわけ? ってかあおいちゃんも落ち着きなよ」
若菜は冷静で、喧嘩腰の対応をすることはまずない。
洋介のブレーキ役としても機能する。そういう点では南四連邦にとって必要不可欠な存在であると言える。
洋介とあおいを落ち着かせた若菜は、それぞれから話を聞いて内容をまとめていく。
「つまり、靜連邦としては『大連邦協商の規約に則って支援は続けてほしいけど、私たちの軍の駐屯は容認できない』と」
「そうよ」
「で、洋介は『軍の駐屯は支援の一環で、円滑に進めるためにも重要な役割を持っている』と」
「その通りだ」
若菜は「ふむ……」と唸った。そして大連邦協商規約を東輝の巫女に持って来るよう指示した。
規約が手元に届くまでの間、洋介とあおいを見て言う。
「あのさ、まずは冷静に会談できるようになろうよ。感情論だけじゃ絶対に上手くいかないって」
怒られたふたりは何を言い返すわけでもなく、ただ不機嫌そうにしていた。
「はぁぁ」
若菜がため息を吐いたと同時に、大連邦協商規約が渡された。
「お、ありがとう」
若菜はそれを受け取ると、早速ぺらぺらと読み始めた。
「えーっと。支援条項、支援条項……。あった、ここか」
そして支援条項を見つけると、
「そうだね、『関東統一連邦は靜連邦および中京統一連邦に5050年までの支援義務を負う。ただし、被支援連邦がそれを断ればその限りではない。』とあって、靜連邦が支援を望む限りやり続ける必要があるわね」
と読みながら意見した。また、そのまま読み進めて、
「軍の駐屯については『軍事支援において、双方は状況を鑑みて必要な兵器、兵員、食物を置くことを能う。』とあるわね」
と言って、
「つまり、状況次第では軍の駐屯が認められているってことになるわ」
そう締め括った。
「『状況を鑑みて』って。曖昧ね。靜連邦の意見としては必要な状況だとは言えないわ。だから許可できない」
あおいがそう言う。
「そりゃどうだかな。実際に猪頭の連中に聞いたわけでもなし、上がどう思おうが、現場がどうかっていうのがこの場合の“状況”であって、それを踏まえねばならんと思うがな」
洋介がそう言い返した。
またも「ぐぬぬ」と歪み合うふたり。「まぁまぁ」と割って入る若菜。
「その辺は調査してから決めましょう。あおいちゃんの意見は受け取ったから、駐屯させておくか撤退するかは近々決めるわね。こっちでも調査してみようと思うし、総合的、俯瞰的に判断してみるから、ちょっと待ってて」
若菜はあおいに告げた。
「じゃあこっちでも調査するわ。それで改めて提案させてもらうから。改竄とかしてデータでっち上げたらバレると思いなさい」
あおいがそう言った。
「それはお互い様だよ。でも公平でいいね」
若菜はにこやかにあおいに言った。
靜と東輝の会談は、夏半若菜が登場したことによって破綻することなく進み、最悪の事態を逃れて終えた。
そしてそれぞれ調査をし、後日改めて南四軍の駐屯についての是非を問うことにしたのだった。
ーーーーー
ーーー
ー
『ありゃー、それは困るねぇ』
「そうなの。だからキツく言っておいてよ」
『いやいや、そうは言いますけどさ、若菜ちゃん。格の違いを考えたら意見するなんて難しいんだよ?』
「今更なに言ってんの。これまで散々意見してきたんじゃない」
『言いづらいことと言いやすいことがあるんだよ。今回みたいな失態を叱責することは、少なくとも言いやすくはないさ』
「面倒なことを言う。例の件でもそうだけどさ、そうやって選り好みする性格だから尻込みするんじゃないの? もっと覚悟決めなさいよ」
『厳しいなぁ』
「はぁ? それでも私のカレシなの? 私、もっと決断力あって実行力のある奴が好きだなー。そろそろ乗り換えちゃおっかなー」
『あー! そういうこと言うのダメ! メッ。分かる? ダメなの、だーめ』
「じゃあ根性見せなさいよ。私のために尽くしなさいよ。カレシなんでしょ? そのくらいやってよね」
『はい喜んで!』
「いい子ねー、よしよし。忠犬だもんねー」
『ワンッ!』
「ほらほら、お座り!」
『ワンッ!』
「いい子だ。じゃ、靜によろしくー」
『ワンッ!』
そうして私は、笑いながら通話を切った。
あとは任せておけば、なるようになる。
大詰めね、この計画も。
はぁあ、長いようであっという間だったなぁ。
ーーーーー
ーーー
ー
「姉ちゃん、軍からの調査結果が来たけど」
神紀5000年、冬至前36日。
しみずに依頼していた関東統一連邦の駐屯軍に対する民意調査の結果が上がってきた。
それを見て、私は目を見開く。
「ちょっと、どういうことよっ!?」
「ボクも知りたいね。これ、調査に係った連中に媚東派がいるんじゃないかな」
媚東派とは、関東に媚を売るようなろくでもない連中のことを指す。
しかし、そんな連中が関わっていないと説明が付かないような結果だったのだ。
つまるところ……
「何よっ! なんで軍事支援を受けるに当たっては南四軍が必要であると思っている奴らが9割を超えているのよっ!」
「ね。こりゃ大量粛清しなきゃかなー」
「名案ね。しみず、調査に係った奴らを集めて今すぐ媚東派を炙り出しなさい! 粛清するわよ」
「うん」
私としみずがそんな会話をしていたら、
「おっと、もしかしてちょっとお取り込み中かな? 後の方がいい?」
という声がする。
「あら、恭之助じゃない。どうしたのよ」
執務室に勝手に入ってくるのはいつものことだからあまり気にしないけれど、こういう話まで聞かれるのは不用心な気もする。
とはいえ相手は恭之助だから別にいいのだろうけど。
恭之助は「いや、後の方がよければ少し待つさ」などと言って出て行こうとするが、ふと思い出したように、
「あ、でも粛清とか聞こえたんだけどさ。俺としては、あんまり無闇に殺すのはよくないと思うんだよね。後々有効活用できるかもしれないし、投獄くらいにしておくのはどうかな?」
と意見してきた。
「でもね、こればかりは難しいかも。関東に媚び売る輩なんて等しく処す! 神だろうが、臣だろうが、巫女だろうが、綺麗さっぱり消すべきだね」
しみずが恭之助に言う。その言葉に恭之助は苦笑いを浮かべながら、
「だとしたら、より一層辞めておくべきだと言いたいね」
と含みのある言い方をしたものだから、
「どうしてよ?」
と問いかけてみたら、
「だって、靜の立ち位置が中途半端になっちゃうからさ」
と返ってきた。
私としみずは顔を見合わせて、互いに首を傾げた。意味が分からなかったから、その言葉を受け止められなかった。
「どういうこと?」
しみずが訊くと、恭之助は「怒らないでよー?」と説明するのが嫌そうに表情を顰めながら、
「関東からの支援を意気揚々と入れてしまった手前、もはや靜自体が関東に媚びているように見えるからさ。なのに今更粛清するとか、さすがに自分勝手が過ぎる。俺でも庇い切れる自信がない。だから辞めておくべきだと思うよ」
と言うのだ。
私としみずは激昂した。
「恭之助! いくらあんたでも怒るわよ!? 私たちが関東に媚びているとか、冗談じゃないわよっ!」
「一発、いや三発殴らせろっ! また謹慎にするからなっ!」
恭之助はあたふたしながら、
「おいおい、ただの意見だから! そうしろっていう命令じゃないし、そんな権限俺にはないさ! だから一旦落ち着いてくれよ!」
などと言う。
「あーもう! しみず、計画通りに炙り出しなさい! 恭之助、今回の発言は聞かなかったことにしてあげるから、二度と私たちのことを媚東などと言うんじゃないわよ!」
「そうだぞ! 言ったらお前の首、文字通り飛ばすからな!」
私としみずは恭之助に怒りながら廊下を歩いた。
「あぁあぁ、ほんと、ほどほどにしておきなよ……」
恭之助の声が背中に届くが無視をした。
ほどほどになんてできるか。徹底的に潰す。こんな調査結果、裏で関東が何か仕掛けているに違いないんだから。
潰してやる。
叩きのめしてやる。
絶対に、軍を撤退させてやる。
ーーーーー
ーーー
ー
「やれやれ、警告だったんだけどなぁ……」
去り行く背中には、もう届かないだろう声。
俺の呟きなんて、まぁそんなもんだよね。
しっかしまぁ、大粛清とはね。
そんなことしたら、靜の立場が弱くなるだけなのに。
関わっちゃいけないよ、おー、怖い怖い。
関東なんて、ろくでもないんだからさ。
放っておくのもよくないけど、殺すだなんてもっと良くない。
せめて生かしてさえおけば、まだ言い逃れができようものを。
「短絡的だなぁ、本当に」
問題は、消せばいいってもんじゃないんだよな。
解決しなきゃ。
その意思を見せないと、いつまで経っても不利なまま。
少なくともするがならもっとまともに動くだろう。
安久斗とか蛇松とかも、きっと上手くやる。
だけどなぁ、あおいとしみずじゃダメだよなぁ。
ま、いいけどさ。
痛い目見るのは靜だし。
俺としては庇えないって言ったしね。
とりあえず、するがに報告だけしておくか。
これからの対応は任せたよ。
ってか、俺は意見するだけして何様だって話だね。
親族の尻拭いは親族でお願いするよ、本当に。
巻き込まないでほしいね。
……あぁあ、それでもどうせ巻き込まれるんだろうなぁ。
悲しいね、下っ端は。
これだから嫌なんだよなぁ。
ま、いっそのこと関東に吸収されてしまうくらい情勢が変われば、現状も打開されるかもしれないけどね。
ふーん、なるほどね。
どっちに転んでも面白そうだし、別にいいのか、これで。
困るのは靜だし。
自らの首を絞めにいっていることに気づかないとは、なかなかに可哀想な頭してるよなぁ。
……っと。今のは言わないお約束かな。
んじゃまぁ、そろそろするがのところにでも行くかな。
ーーーーー
ーーー
ー
「面白い結果だったな」
神紀5000年、冬至前30日。
靜連邦の南四軍の駐屯を巡る決議が東輝国で行われた。
姉さんやしみずに任せるとろくな結果にならなさそうだったので、俺が出席することにしたけれど、それでも分が悪いのは確かだ。
何しろ、結果としては猪頭半島に住まう9割の国民、および軍事に関わる者が「関東統一連邦の軍の駐屯を願う」としていたのだ。
さすがにおかしいと思うし、不自然だと思う。
お陰様で姉さんとしみずが媚東派狩りをしたけど、ただの虐殺なんだよなぁ。
イチャモンつけて殺しているだけで、得られたものは靜に対する恐怖心と反感だった。
やってくれたよなぁ、本当に。そのせいか、いま目の前にいる関東勢力が心なしか上機嫌に見える。
「そっちは粛清までやって大変だよなぁ。素直に結果を受け止めれば良いものを」
洋介が煽ってくるが、俺はそれを聞き流して、
「にしても、本当驚きの結果だったよ」
と返しておいた。
「で、まぁ当然こんな結果だったわけだ、大連邦協商規約に則って、南四軍は引き続き駐屯する」
洋介は笑顔でそう言う。
だが、靜としては当然受け入れられない。
「いいや。今回の調査対象をかき集めてはっきりしたことがあるんだけどさ、これ、媚東派が多くなるように調整されていたんだよね。どっかの誰かによって」
そうして俺は洋介を見た。
「ん? 何を言うか。無作為に抽出して意見を聞いたんだ。民意以外の何物でもない。そもそもそんな工作、面倒臭くてたまらない」
洋介はそう言う。確かに、この調査対象を集めたのは洋介ではない。
洋介の命令を受けて動いた何者かだ。
姉さんとしみずが粛清した中に実行役の数名が含まれていた。
「というか、おかしいじゃないか。関東の調査でも9割が、靜連邦の調査でも9割が肯定したんだろう? 調査は別々に行なったのに、同率になるってのがなぁ。これは紛れもなく民意だと思うが」
「靜連邦が実施した調査だが、俺たちが依頼した靜軍の中に関東と繋がっていた奴らがいた。そいつらが中心となって、そっちのデータとほぼ同じになるように仕込んだってのが分かってんだ。だから……」
そう言って俺は新たなデータを提示した。
これは改めて靜が自ら調査した結果で、猪頭半島において『関東統一連邦軍の駐屯が必要かの是非』を問うたものだ。
「本当の民意はこれだ。7割の国民が『関東の軍など不要』と思っている」
「ほぅ、逆に3割も俺たちの軍を欲しているのか。なるほどなぁ」
ニタリと洋介が笑った。
そして、その紙を俺に投げて寄越し、
「媚東派を大粛清してもなお3割が欲しがってるんじゃ、本来は9割だって強ち盛りすぎじゃねぇんじゃないか?」
と挑発してきた。
「だが、現状7割は必要ないと言っているんだ。だから関東には靜連邦から撤退してもらう。これはお願いではなく、靜連邦統率国として命令する。靜連邦内においては統率国に絶対的な権限がある。この命令は、南四軍であろうと守ってもらわねばならない」
俺はそう言って、撤退の命令を記した文書を洋介に渡した。
洋介はそれを受け取って一読すると、
「そうかよ。ならば軍に命じておこう」
と引き下がった。
会談は終わった。
最初から命令しておけば、面倒なことにはならなかったのに。
これから姉さんに外交を任せるのは控えておこう。
ーーーーー
ーーー
ー
しかし、するがの思い通りにはいかない。
冬至前27日。会談から3日が経ったこの日から、猪頭半島に造られた関東製の最新鋭大型軍事施設に、南四軍が次々と増備された。
新型兵器や大量破壊兵器など、今まで靜連邦に配備されなかった物が大量に入った。
靜連邦に駐屯する南四軍の数は、4日後の23日にはこれまでの3倍を上回り、かつての井谷軍の総戦力に迫るほどの勢いだった。
これは言わずもがな、靜連邦から絶対に撤退しないという関東の意思表示であり、最大の挑発だった。
「話が違うじゃないのっ!」
そう怒るのは靜あおいである。しみずも便乗するように「そうだ、そうだ!」と強く頷く。
責められているのはするがである。
「俺も困惑しているし、強い憤りを覚えているよ」
しかし、するがも責められたところで怒りが増すばかりで、文句を言うべき相手は明らか関東統一連邦なのだ。
よって彼は、俺に言われても困る、と主張した。
「どうしてこんなことになっているのかは分からないけど、仕方ないわ、それなら強制的に退かせるだけよ。今すぐ関東に軍の撤退を要求し、それを呑まなければ強硬手段もやむなしと伝えなさい!」
あおいは臣の静岡呱々邏に命じた。
関東に向けて靜ができるのは現状それだけで、退かなければ叩きのめすだけなのだ。
「ボクは軍に戦闘準備を命じてくるよ。関東との衝突となれば、濱竹はもちろん、その他加盟国にも参加してもらわないといけないし」
しみずがそう言って動き出す。連邦全加盟国に向けて、緊急事態につき靜へ集まるよう触れを出した。
そうして、連邦神議会が開催された。
議題は当然、関東への対応について。
靜の主張は、
「私たちからの命令を受けてもなお関東が軍を置き続けるようなら、靜連邦の総力を以て奴らを追い出すのみ! そのために靜連邦は、今ある総力を集結させ、対関東戦に向けて団結するべきよ!」
である。
対して神々の反応は、まったく乗り気ではなかった。
「いま関東と事を構えて勝てるとは思えん」
「関東を追い出そうにも軍事力の差がありすぎる」
「戦うだけ犬死にでは?」
「戦って勝てば良いけど、負けたら即滅亡だよ」
「というか戦った時点で険悪になるし」
「勝って退かしても向こうが体勢整えて再戦してきたら滅亡まったなしだね」
「良いことなくない?」
靜の強硬手段をやむなしとする態度に、関東と戦うことに対する疑問が飛んでくる。
この数日で、関東が猪頭に配備した最新鋭の兵器に勝てるなど皆一様に想像できないのだ。
「神々が自ら赴いて、それら兵器を破壊すれば可能性はあるだろう」
マイナスな言葉が飛ぶ中、沼蛇松が意見した。
つまりは、兵器に対して真正面から兵器をぶつけるのではなく、神がその能力を用いて兵器を破壊し軍を撤退に追い込めば可能性があると言うのだ。
「だが、」
しかし蛇松は、その後に続けた。
「それをしたら、激昂した関東との全面戦争は避けられない。武力でぶつかろうが、固有の能力で退かそうが、結局は勝てない戦争へと足を踏み入れることになる」
それに頷く神々。特に安久斗と恭之助は深く頷いた。
「この場合、悔しいけど南四軍の駐屯を認める代わりに、この数日で増備した分の撤収を求めるのが最も円滑に収まるんじゃないかな?」
恭之助がそう提案した。
「そうすれば現状維持で、得る物も特段ないが失う物も最小限で済むだろうな」
安久斗が恭之助の言葉を支持する。
「だがこれをやれば靜連邦の権限が脅かされるがな」
蛇松が言う。しかしそれに恭之助が、
「滅びるよりはマシって考えなきゃ。相手が相手だから」
と発言し、
「主権だとか、権限だとか、そういうのは俺と靜がこの先なんとか抗って取り戻していくしかないな」
と安久斗が言った。
神々もその意見に頷いた。
靜の三大神はイラつきを隠そうとしなかったが、戦争をしても得られるものが滅亡以外にないことを理解し、また神々のやる気から団結が難しいことも理解して、
「分かったわ。関東へ出した命令を撤回して、駐屯を容認し、今回新たに増備した分の撤収を要求するに留めるわ」
と、神々から出た意見に従った。
そうして、靜連邦は大連邦協商規約に則った支援として南四軍の駐屯を認める通達を出した。しかしその代わりに、新たに増備した巨大な軍事力の撤収を求めた。
関東統一連邦は、靜連邦からの通達を受け入れて、今回増備した分の兵力を即座に撤収し、今まで通りの軍を駐屯させた。
一触即発の状態は、靜連邦の譲歩によって解除されたが、それによって靜連邦と関東統一連邦の立場が明確になったのだった。




