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1 鉄壁ガードの婚約者様:公爵令嬢編①

「サリエル様っ!わたくし、公爵家に生まれた娘として、お仕えする覚悟があるんですのよ」


王立学園高等部の最高学年である三年生に上がった初日、ずんずんと私たちに近づいてきた公爵令嬢、ローゼ・シュゼラウト様がそう言った。


――ああ、始まった。


私はこの展開を知っている。そして彼女は次に、私を見ながらこう言うのだ。


「わたくしの方が王太子妃にふさわしいと思いませんか?」


私の隣には、王太子であるサリエル・ルジュエール様がいる。そして私は、その婚約者である。つまり、ローゼ様は私が王太子妃に相応しくないと言いたいのだ。ふい、と視線を逸らす。この後の展開だって知っている。

王太子であるサリエル様は、笑って、ローゼ様の手を……。


「いや、結構。王太子妃はブリーゼと決まっている」

「……え?」


ピシャリ、とそう言ってサリエル様は私の手を取った。


「そんな顔しないで、ブリーゼ。僕には君だけだよ」


知らない展開に、思わず固まる。

ローゼ様が何かを抗議しているけれど、私の耳には届かなかった。




私は、この世界を知っている。

前世というべきか、私にはもう一つの別の世界の記憶がある。そこで私は「女子高生」という存在で、「テレビゲーム」というものが大好きだった。そんな彼女がプレイしていたのが「君に送る花」というタイトルのものだった。

複数の女性がヒロインとして登場し、主人公である男性が、その彼女たちと恋愛をするというもので、人気だったらしい。しかし中には、批判もあったという。それが「ちょろすぎる」というものだった。

ヒロインたちが、とにかく惚れっぽい。ハンカチを拾ってもらったら主人公を好きになる。優しく挨拶されたら好きになる、成績で負けたら好きになる……。理由は様々あれど、そんなことで?という理由で好感度がカンストするのだ。後はもうヒロインを選んで、楽しく学園生活を送り、卒業式典でプロポーズをしてハッピーエンド、というストーリーだった。

そんな主人公には、婚約者がいた。その婚約者は、主人公の気を引くために複数の男性と関係を持ってみたり、ヒロインたちをいじめてみたりとひどいことをたくさんしていた。当然、婚約破棄をされてしまう。ざまあ、要素もあることで、それが好きな層には刺さったらしい。


ここは、そんな「君に送る花」通称「君花」の世界なのだ。


にわかには信じ難いけれど、本当のこと。

なぜわかるか。それは、主人公である王太子殿下の名前がゲームと同じで、私がその婚約者であるから、だった。


記憶を思い出したのは六歳の頃、王太子殿下との婚約が決まった日だった。

「今日から貴女はサリエル様の婚約者よ」とお母様が言った時、びりり、と背中に電流が走った。そこで、前世の記憶が全て頭に降ってきたのだ。当然混乱した。そんな私の、一番大きなショック、それは、将来的に婚約破棄をされるということだった。


『す、捨てないでぇっ』


咄嗟に出た言葉は、それだった。

ボロボロと涙を零しながら言う姿は異様だっただろう。お母様の蒼白した顔は今でも覚えている。しかし、そんな私の手をとって、サリエル様は微笑んだ。


『捨てたりしないよ、君は僕の大事な婚約者だから』


その微笑みに、一目で恋に落ちてしまった。将来的に婚約破棄をされるかもしれない。私よりずっとずっと素敵なヒロインたちに出会って心変わりされるかもしれない。そんなことは頭の隅に飛んでいった。


『うんっ、約束!』


彼のその言葉が嬉しくて、二人で指切りをした。それが、今から十二年前の出来事だ。

あの約束通り、サリエル様はとても優しいし、週に一度の王太子妃教育の後には一緒に過ごしてくれる。


しかし、ある日気づいてしまった。

私もまた、あのヒロインたちと同じなのではないか、と。


あの微笑み一つで、恋に落ちてしまった。ちょろいと言われてしまえば、確かにそうだろう。私は彼の気を引くために他の男性を誑かしたりしない。しかし、それは基本中の基本であって、これから現れるであろうメインヒロインたちに、太刀打ちできるのだろうか。


ゲームの開始は、高等部最高学年になる始業式。そこで最初のヒロインが現れる。それが、公爵令嬢だった。

自分の方がふさわしい、と胸を張っていう彼女に、サリエル様は微笑んで「すごい自信だ、面白いね」というのだ。


……だと、いうのに。


「なんなんですの!わたくしの方が身分も高いのに……!」


納得いかないように、ローゼ様が抗議をしている。私は呆然として、でも、私の手を取り微笑むサリエル様にときめいていた。今この時だけでもいい。私を選んでくれたということが、とても嬉しかった。


しかし、サリエル様はとても素敵な人だから、きっといつかは彼女にも優しくするのだろう。どのヒロインと添い遂げるのかはわからないけれど、その姿を間近で見るのは、きっと辛い。そう思っていた。


「サリエル様、一緒にランチを!」

「すまない、ブリーゼと食べるから遠慮するよ」


「我が家の夜会にご招待いたします!」

「ありがとう、ブリーゼと一緒に伺うよ」


「お茶会を開きますの!」

「その日はブリーゼの王太子妃教育の日なんだ」


……鉄壁、あまりに、そう、鉄壁だった。

ローゼ様が何かをお誘いになるたびに、サリエル様は全て断っていた。最初は私を言い訳に使っているのかとも思っていたけれど、その度に「気にしなくていいからね」とフォローを下さる。


何かおかしい。そう思っていたとき、私の机の中に、手紙が入れられていた。


次回は昼更新です。


新連載になります。よろしくお願いします!

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