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たんば2000分の1―― 人助けをしたはずが、痴女として語り継がれています  作者: 夏乃緒玻璃


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第3話 ゴースト・イン・ザ・シェル

 最初は順調でした。


 カタツムリのカタちゃんは、順調に路地を進み、病院へ向かいます。


 大通りに出た時、それは起こりました。


 カタちゃんの前に、もう一人――いやもう一匹?

 カタツムリがいたんです。

 仮にデンデン虫のデンコと呼びますね。


 ――あ。


 デンコの体が、ひょいと浮きました。


「おー、カタツムリみっけー」


 小学生たちがデンコを攫っていきました。

 ――デンコ、カムバーック!


 どうやら、ここは通学路で――子供達の帰宅時間になってしまったようです。


 私はカタちゃんの中で震え上がりました。


「令和の小学生なら、カタツムリなんかに興味を持たないで欲しいっ」


 カタちゃんには発声器官は無いので、私は脳内で叫びます。


 子供達に見られるのは危険。


 もちろん、デンコは死んだとは限りません。


 むしろ子供の家の虫籠で平穏に余生を過ごせる可能性だってあります。


 しかし、私は虫籠の中で――うら若き生涯を葉っぱ食べながら終えるわけにはいかないのです。


 捕まる瞬間に、霊体に戻って脱出すればいいのでしょうが――霊感のある子には私が見えるわけで、捕まえたカタツムリからボワッと幽霊お姉さんが出てきたら――へたしたら心臓が止まりますよね。


 ――隠れるしかありません。


 私は必死に、葉の裏に移動して、子供達が行き過ぎるのを待ちました。


 子供の姿が途絶えるまで、隠れてまちました。


 子供の姿が途絶えるまで、隠れてまちました。


 子供の姿が途絶えるまで、隠れてまちました。


 ――夕方になるまで、子供たちは次々に通りました。

 じっと耐えるこの辛さ。


 なにせ虫や鳥にも警戒しないといけないのです。


 しかし子供たちは、いなくなりません。


 一斉に教室を出て集団でパーッと帰る――そういうものじゃないんですか普通。


 なんで、チョロチョロ――ダラダラと、バラバラに帰るんですかね。


 寄り道しないで早く帰らないと、オバケが出ますよ!

 こらーって叫びながら、追いかけちゃいますよ?


 薄暗くなった頃、ようやく子供の流れが落ち着きました。


(チャンス到来っ)


 カタちゃん発進――。


 しかしその時、不吉な羽音が。


「カラス!」


 そう、ゴミが落ちていない道で――餌にありつけなかったのか。


 飢えたカラスが襲ってきたのです。



 きゃあああ!


 私は間一髪――。


 カラスがカタちゃんをほじくって食べてしまう前に、脱出しました。


 危うく――世界の終わりまでカタツムリで過ごす羽目になるところでした。


 ――転生してもカタツムリな件。

 洒落になりません。


 考えてみれば、こうして霊体で移動すれば、物理的には食べられたりしないし、死なないのだから安全じゃないですか。


 きゃあああ!


 最初から――そうすれば良かっ……。


 きゃあああ!


 ――あれ。


 悲鳴が止みませんね……。

 これは、私の悲鳴ではありません……。


 わ、私の背後から聞こえてきます……。


 おそるおそる振り向くと、そこには小学生中学年とおぼしき女の子が腰を抜かし、真っ青な顔でその子の手を引いて逃げようとする男の子の姿がありました。


「ゆ、幽霊――!」

「いや妖怪――口裂け女?」


 口なんか裂けてない。


 あまりに酷い。

 私は、もうどうしてよいか分からず、悲しみのあまり呟きました。


「うらめしや……」


「ひいいっ」


 いよいよ怯えた子供たちは、おぼつかない足取りで、よろよろと逃げ去っていきます。


 ――それでいい、早くお逃げなさい……って、私は森のクマさんですか。

 まあなんでもいい、早くここからいなくなって。


 ――しかし。

 ――しかし、間の悪い事は重なります。


 突然、突風が吹き抜けました。


 私の21グラムの体は、なす術なく流されて、子供たちの方へ……。


「ぎゃあああ!幽霊が追いかけてきたああ!」

「怖いよーっ! 助けてー!わあああん」

 子供たちは泣き叫び、走ります。


「私の方が泣きたいよ――わあああーん」


 私も泣き叫びながら、子供たちと、同じ方向へ流されます。


 数分後に風が止むまで、私たちは互いにワンワン泣き叫びながら、夕暮れの道を走り、流されていきました。


 気がつけば一人。


 電柱に引っかかっていました。


 子供たちはいなくなっていましたが――きっともの凄いトラウマを与えてしまいましたね。


 ごめんなさい――でも、二人揃って霊感持ちとか、きっと私に出会わなくても、そのうち別の幽霊に鉢合わせてしまうでしょう。


 ――口裂け女と言われたのを、少し恨んでますから辛辣です。


 「はあー」


 もう今日は無理。


 とりあえず――自販機横の回収ボックスからはみ出た空き缶に入って休みます。


 夜に回収車は来ないでしょう――。


 明日の早朝――まだ人の通らない時間に、霊体で移動する事にします。


 手頃な缶を探して――ああ、なんか私、ヤドカリみたい。


 泣けてきます。


 でも、諦めるわけにはいきません――復活のその日まで。


 私が缶の中で休んでいると、夜半に町内会の夜回りがやってきて、あちこちの壁に貼り紙をしていた。


「痴女出没注意。――何かあったら即通報」


 へえ――物騒な世の中なのね。


 鉢合わせたら怖いし、見回りが増えても困る。

 明日はまだ暗いうちに移動しよう――。


 私は星を見上げながら、缶の中でひと眠りしたのでした。



 ◇◇


 翌朝――。

 私はなんとか中央病院にたどり着きました。


 大人たちとは何人かすれ違ったが、私に気づいた人はいませんでした。

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