第十七話:海坊主討伐、そして鬼ヶ島へ -4
乙姫が用意した船は順調に進み、鬼ヶ島が水平線に現れる。禍々しい瘴気に包まれた巨大な島影。
空は鉛色に染まり、不吉な予感が彼らを包み込む。
船は島に近づくにつれて速度を落とし、空の色も暗く重々しいものへと一変する。
不気味な鳥の鳴き声が聞こえる。それは、鬼ヶ島の住人たちが、侵入者を待ち構えているかのような、不気味な歓迎だった。
「うわ~、なんか嫌な感じがする~! 空が真っ黒だよ~! 鬼ヶ島って、こんなに不気味なの!? まるで、地獄みたい……! 琥珀、鳥肌が立っちゃったよ~!」
琥珀は、身をすくませ、太郎の袴の裾をぎゅっと掴んだ。その瞳は、恐怖に大きく見開かれている。全身の毛が逆立つような悪寒が走る。
「この瘴気……並大抵の鬼ではない。島全体が、鬼の魔力に覆われています。気を引き締めてください、若様。これまでとは、格が違う……! まさに、鬼の巣窟……! この空気は、我々の気を削ぐ……」
黒鉄は、刀に手をかけ、警戒を強めた。彼女の琥珀色の瞳は、島の瘴気を捉え、その強大さに戦慄していた。刀の柄を握る手が、微かに震える。
「警戒を。この島は、我々を歓迎してはいないようです。いつ、どこから襲われるか……。油断は禁物です。全員、いつでも戦闘態勢に入れるように。この瘴気は、魔力探知を阻害します」
天音は、冷静な声で指示を飛ばした。彼女の白い羽が、微かに緊張に震える。弓を持つ腕に、力が漲る。
◆
太郎たちは上陸する。船から降り立ち、足を踏み入れた途端、隠れていた下級の鬼たちが、まるで地中から湧き出すかのように、海岸線の岩陰や枯れ木の裏から一斉に襲いかかってきた。
その数は、視界を埋め尽くすほど膨大だ。彼らの目は血走り、醜悪な顔には明確な殺意が宿っていた。その体からは、腐敗した肉と血の匂いが漂い、あたりに不快な瘴気を撒き散らしていた。
鬼ヶ島の洗礼とばかりに、一行は最初の戦闘に突入する。
きびだんごがない中、彼らの純粋な力と絆の連携が試される。
「人間どもめ!鬼ヶ島へようこそ! 貴様らの血肉、我らの糧となるだろう! 死ねぇ! この島から生きて帰れると思うな! まとめて喰い尽くしてやる!」
鬼が、咆哮を上げて襲いかかる。その数は、圧倒的だった。彼らは、太郎たちを囲むように、波のように押し寄せてくる。
「来たか!みんな、気をつけろ! 連携を崩すな! 一匹残らず、討ち倒すぞ! この島から、鬼を消し去る! 俺たちの力を、見せてやる!」
太郎は、槍を構え、鬼の群れを見据えた。彼の瞳には、闘志が宿っている。全身から、神力が溢れ出し、桃色の光が微かに輝く。
「へっ、腕が鳴るぜ! まとめてぶっ飛ばしてやるぜ! 来い、鬼ども! 俺の斧で、お前たちを叩き潰してやる! 海の鬼より、やりがいがありそうだ! 八重、本気で行くぜ!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を振りかざした。彼女の全身から、剛力のオーラが迸る。
仲間たちは連携を取りながら、次々と襲い来る下級鬼たちをなぎ倒していく。
黒鉄は、流麗な二刀流で鬼の猛攻を捌き、その隙を突いて鬼の急所を的確に切り裂く。彼女の剣は、まるで嵐の中で舞う蝶のように、無数の鬼の間を駆け抜ける。
「【双剣・犬牙乱舞】! 若様の道を開きます! 八重殿、そちらの鬼を!」
黒鉄の声が、戦闘の喧騒の中に響き渡る。
「おう! 任せとけ、黒鉄! 【大地鳴動・剛斧】!」
八重は、豪快な一撃で地面を叩き、周囲の鬼を一掃する。その衝撃波は、地面を揺るがし、鬼たちを吹き飛ばした。彼女の斧は、まるで巨大なハンマーのように、次々と鬼を粉砕していく。
琥珀は、素早い影移動で鬼の群れを撹乱し、幻惑の魔法で鬼の目をくらませる。鬼たちは互いに攻撃し合い、混乱の渦に陥る。その隙を天音が見逃さず、上空から正確な矢を放ち、鬼の急所を射抜く。彼女の矢は、まるで光の筋のように、闇を切り裂いていく。
「へへっ、どこ見てるの~? こっちだよ、鬼さんたち! 【百花幻影】!」
琥珀は、鬼の群れの中を駆け抜けながら、無数の幻影を出現させた。鬼たちは、幻影に惑わされ、同士討ちを始める。
「琥珀殿、見事です! その隙を! 【追尾の矢・翼閃】!」
天音は、上空から冷静に指示を出し、弓を構えた。彼女の白い羽が、風を切り裂き、矢を放つ。矢は、混乱する鬼たちの急所へと吸い込まれていく。
穂積は、太郎の傍らで「小槌・結界の祝福」を展開し、仲間たちを鬼の攻撃から守る。葛は、後方から「癒やしの魔法陣・雀の涙」で仲間たちの疲労を回復させ、アイテムボックスから特殊な薬を生成し、鬼の動きを鈍らせる。
「【小槌・結界の祝福】! みんなを守るよ! お兄ちゃん、頑張って! 穂積が守るから!」
穂積は、小槌を掲げ、黄金の光を放つ結界を太郎たちの周囲に展開した。結界は、鬼の攻撃を受け止め、彼らを鬼から守る。
『皆さま、体力の消耗が激しいです。回復を急ぎます! この薬で、鬼の動きが鈍ります!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣を展開し、仲間たちの疲労を回復させていく。同時に、鬼の群れに特殊な薬を投げつけ、その動きを鈍らせる。
鬼の数が膨大であること、そして島全体が鬼の勢力圏であることを実感する。彼らの攻撃は容赦ないが、鬼の数は減るどころか、増えているかのようだった。
しかし、太郎たちの連携は完璧で、まるで一つの巨大な嵐のように鬼の群れをなぎ倒していく。
「数が多すぎます、若様! このままでは、キリがありません! どこからでも湧いてくる……! まるで、無限にいるかのようです! しかし、この連携ならば……!」
黒鉄は、息を切らしながら叫んだ。彼女の武士の装束は、すでに血と土で汚れている。
「どこからでも湧いてくる~! もう、嫌だよ~! 鬼、多すぎ~! 助けて~! でも、ぶっ飛ばすのは楽しいかも!」
琥珀は、悲鳴を上げたが、その瞳には、戦闘の興奮が宿っていた。彼女の素早い動きも、鬼の数の前には限界があったが、太郎の鼓舞によって、その限界を超えていた。
「怯むな!一匹残らず討ち倒すぞ! この島から、鬼を消し去る! 必ず、成し遂げる! 俺たちの使命を果たすんだ! みんな、俺に続け!」
太郎は、仲間たちを鼓舞した。彼の声は、鬼の咆哮に掻き消されまいと響き渡る。彼の槍が、次々と鬼の急所を貫き、光となって消滅させていく。
さらに奥へと進むと、幹部クラスの鬼が待ち構えている。
下級鬼とは格の違う力を持つ幹部鬼との戦闘が始まる。
幹部鬼は巨大な体躯と、強力な妖術で一行を苦しめる。
その妖術は、雷や炎、毒など、様々な属性を操り、彼らを追い詰める。
その存在感は、これまでの鬼とは一線を画していた。
「よくぞここまで来たな、人間ども。だが、ここから先は通さん! 我の力、見せてやろう! 貴様らなど、我の敵ではない! ここで、貴様らの命を絶ってやる! 絶望するがいい!」
幹部鬼が、咆哮を上げて太郎たちへと襲いかかる。その巨体から放たれる魔力が、周囲の空気を震わせる。
「貴様のような鬼に、道を阻ませるわけにはいかない! 父の仇を討つためにも、貴様を倒す! 覚悟しろ! この槍で、貴様を貫く! 俺たちの道を切り開く!」
太郎は、槍を構え、幹部鬼を見据えた。彼の瞳には、強い決意が宿っている。
「【大地鳴動・剛斧】! 邪魔だ、デカブツ! 俺の斧で、お前を叩き潰してやる! 海の坊主より、やりがいがありそうだ! 来い、幹部鬼!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を振りかざした。彼女の斧の一振りは、幹部鬼の妖術を打ち砕く。
「【追尾の矢・翼閃】! 弱点はそこです! 一気に決めてください! 好機は二度ありません! 太郎殿、指示を!」
天音は、上空から指示を出し、弓を構えた。彼女の白い羽が、風を切り裂き、矢を放つ。
激戦の末、幹部鬼を打ち破る一行。彼らの全身は傷だらけで、疲労困憊だった。
しかし、その瞳には、勝利への確かな光が宿っている。鬼の城のシルエットが目前に迫る。
空には、不気味な月が浮かんでいる。その月は、彼らの行く末を案じているかのように、赤く輝いていた。彼らは、この先に待ち受ける真の強敵、酒呑童子との戦いを予感し、覚悟を新たにする。
「やった……!だが、まだ終わりじゃない。父の仇は、まだ……」
太郎は、息を切らしながら呟いた。彼の全身は、傷だらけだった。
「若様……鬼の城が、すぐそこに。雷神と風神が言っていた、真の試練が……。いよいよ、最終決戦が近づいています……」
黒鉄は、太郎の傍らに駆け寄り、その無事を確認した。彼女の瞳は、鬼の城を見据えている。
「なんか、もっと強いのがいる気がする~! ゾクゾクするよ~! でも、ちょっと楽しみかも! どんな鬼が待ってるかな~? 酒呑童子って、どんな鬼かな~?」
琥珀は、身をすくませながらも、好奇心に目を輝かせた。
「ああ……父の仇が、そこにいる。そして、この世界を苦しめる元凶が……。必ず、討ち果たす! この世界に、光を取り戻すために! 俺たちの旅は、ここで終わらせる! 必ず、平和を取り戻す!」
太郎は、鬼の城を見上げ、静かに呟いた。彼の瞳には、強い決意が宿っていた。




