格上
「全てのステータスが限界値を超えてる……!? それってつまり……」
「ああ。そのまんまの意味さ。僕の現在のレベルは53620。攻撃力や防御力も、とうに限界値を突破している。無論、魔法耐性もね」
「……なるほど、そりゃ効かないわけだ」
俺は額を流れる冷や汗を拭い、なんとか平静を装った。あー、ここに来てとんでもないチートと出会っちまった。能力こそ単純明快なものの、シンプルに強い奴来ちゃったよ。こりゃ《ファイアボール》どころか、《フラッシュ》とかの不意討ちも効かなそうだ。
だが、俺にはまだエクスカリバーがある。幸いなことに、さっきの試合ではエクスカリバーの本領を発揮していない。そう、まだ隠し続けている、この剣のチート能力があれば……。
「とはいえ、君のエクスカリバーは、問答無用で相手を一撃で倒しちゃうからなぁ。僕の防御力も意味をなさないか」
「……は?」
俺は松田さんから放たれた台詞に、一瞬だけ、焦りがそのまま顔に出てしまった。たった今、まさにそのエクスカリバーのチート能力、『一撃必殺』を、あっさり看破されてしまったからだ。なぜ分かったんだ。いや、それともカマをかけているのか?
松田さんは申し訳なさそうに頬をポリポリと掻きながら「ごめんごめん」と、いつもの緩いトーンで言うと、後を続けた。
「驚かせちゃったね。まぁ、これは僕の《付喪神の加護》のおかげなんだ。この加護のおかげで、僕の扱うアイテムは絶対に壊れないようになっているんだ。それと、『アイテムの効果が見ただけで分かる』ようにもなっている」
そうか……。だからエントリー会場にいた松田さんの防具には、傷一つ付いてなかったんだ。どうやら加護の話も、《アンリミテッド》の話も本当のようだ。
おそらく、あの攻撃力ならエクスカリバーでなくとも、相手を一撃で倒せる。あの防御力なら、隕石が降ってきてもほとんど効かないのだろう。そして、魔力もきっと、ルルカを遥かに越えている。
俺は、初めて自分の『上位互換』を、目の当たりにすることとなった。
ただ、納得いっていないことがひとつだけある。
「……よく喋りますね」
できるだけ口角を上げながら、俺は皮肉っぽく言った。本来、能力なんてべらべらと喋るものではない。だが、松田さんはまるで世間話でもするかのような語り口で、緊張感なくひけらかしている。
――――人が自分の手札を公開するなんて、どういう理屈か、決まってるじゃないか。
「喋った所で、負ける気がしないからね」
そんなの、『勝てる確信』がある時ぐらいだよな……!
どうやらこれ以上語ることはないらしい。松田さんは穏やかな表情のまま、こちらに走ってきた。あの顔ができるのも、そういった自信から来るものなのだろう。ましてや、松田さんが倒すべき残りの相手は、もう俺とイスケだけである。どちらの能力もすでに把握してる以上、もはや松田さんを脅かす存在はないに等しい。
「クソっ……!」
攻略法が思いつかないまま、とりあえずがむしゃらに《アイスランサー》を松田さんの足元へ放った。
「そのやり方はさっき見ていたよ」
走るスピードを緩めないまま、松田さんは冷静に《アイスランサー》を弾いていく。ダメだ、あれでは地面に着弾しない。どうする……どうすれば……!
「こうなりゃヤケだ!」
俺は地面に《剣波》を放つと、反動を利用して空高く飛び上がった。
『おーっと!? コータ選手飛んだああ! これはまさかルルカ選手の模倣なのでしょうか!?』
「あんなの誰が模倣するか!」
実況に思いっきりツッコミを入れると、観客席から「バカにすんなー!」とルルカの声が飛んできた。やべぇ、戻ったらまたあの杖で殴られそう。言葉には気をつけないと。
だが、今気を付けるべきはあのぶっ壊れステータスのおじさんだ。多分、俺の読みが当たっていれば今頃……。
「……くっ、なんて衝撃だ……」
松田さんは、立ってるのもやっと、といった状態でなんとか地面に足を付けていた。そりゃそうだ。《剣波》は、パワー次第では山をも消し飛ばせる、とされている。今まで最大火力で放ったこはないから本当か分からないが、少なくとも……。
闘技場に『地震』を起こすことぐらいはできる。
そのまま、自由落下の勢いで、俺は松田さんの方へと向かっていった。まだ地面は揺れている。このアンバランスな状況では、剣術はおろか、魔法にも集中できないはずだ。問題は空中にいる俺自身も、自由には動けない。ここからは賭けだ。うまくいくことを祈るしかない。
『松田選手、まだ体勢が整っておりません! 果たしてどうなってしまうのか!』
松田さんの頭上付近まで来た俺は、エクスカリバーを構えた。
……いける。
このまま、一撃必殺の剣を叩き込むんだ!
「いやぁ、危ないなぁ」
松田さんは頭を掻きながら『笑った』。
「やっぱり、武器は多く持っていた方がいいみたいだ」
独り言のように、周りに聞こえないトーンで喋る松田さんは、地面に大剣を突き立てると。
「これで、ギリギリなんとかなる」
大剣を支えに、懐からハンドアックスを取り出した。
思考が追い付かないまま、俺は機械的にエクスカリバーを振り下ろす。だが、大剣で体を支えている上、どこから来る攻撃なのか分かりきっている松田さんにとって、もう一方の武器で俺の剣撃を防ぐことなど、造作もないことだった。
ガチン、と鈍い金属音が響いたと同時、俺のエクスカリバーは宙に放り出されていた。相手の攻撃は捌ききれるが、自らの攻撃が防がれた場合までは、獅子王の加護も対応しきれない。あっけなく、手ぶらになってしまった俺は、着地と同時に、慌てて回避行動に移るも……。
「遅い」
大剣は地面に突き刺さったままで、ハンドアックスはたった今、振るったばかり。この状況で、一目散に逃げようとする俺に、最速で出せる攻撃……それは。
『蹴り』だった。
俺に足が触れた瞬間、まるでハンマーで殴ったような、重い音が、俺の全身を伝って、脳内に響き渡った。
「がっは……っ!」
その、まさに『ハンマー』のような一撃を、なんとか両腕で防いだものの、一瞬にしてステージ端まで吹っ飛ばされてしまった。防いだはずの腕は痺れ、感覚が薄くなっている。マジかよ……ただの『蹴り』で? これが『武器』だったら確実に一発退場だぞ……。
「へぇ、よく耐えたね」
「……まぁ、加護があるんでね」
獅子王の加護、もう一つの効果……『ダメージを百分の一まで抑える』によって、なんとか持ち堪えた。だが、逆に言えば百分の一まで下げてこのダメージということである。《アンリミテッド》……あれズルくねえか?
「防御に対して、攻撃はやや劣る……。今まで僕の攻撃を防ぎきれていたのも、加護のおかげかな?」
「さぁ、どうで……しょう……ね……」
とうとう加護の種まで明かされてしまった。腕の痛みがひどく、エクスカリバーを呼び戻そうにも腕が上がらない。あー、なんで呼び戻すのに剣を持つモーションが必要なんだよ。一言「戻ってこーい」って言ったら戻ってこいや。てか痛くて喋るのもしんどい。
「じゃ、そろそろ終わりにしようか」
松田さんは大剣を地面から引き抜くと、右手に大剣、左手にハンドアックスを持った状態で、こちらにゆっくりと歩いてきた。
……もうふざけてる場合じゃねえな。
チート武器は弾き飛ばされ、おまけにステージ端に追いやられる始末。さっきの蹴りで、身体はほとんど動かない。対して、相手の方は無傷。こちらの能力はもう、全て見破られてしまった。
「絶体絶命ってやつか……」
俺は、自嘲気味に、上げたくもないはずの口角を釣り上げながら、自分の状況を口に出した。




