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 出現したのは、両腕にサーベルを握った中世のアサシン剣士だった。顔にはぐるぐると布を巻き付け、マントを纏っている。布の隙間から覗く両目は爛々と輝き、握った両刀を振り回して何事かアラビア語で叫んでいた。

 僕は手ぶらで、武器など持っていなかった。

 が、僕は赤田の「仮想現実ではあらゆることが叶う」という言葉を思い出していた。

「武器を!」

 叫ぶと、いきなり右手にずっしりと重みが伝わり、見ると日本刀が握られていた。

 こんなの、使えるわけないよ!

「もっと近代的な武器をくれ!」

 言い終わると、今度はRPG弾発射装置付きの軽機関銃が握られている。

 冗談じゃない!

 こんなの使ったら、人殺しだ!

 僕はやけになって叫んだ。

「スター・トレックのフェーザー銃をくれ!」

 軽機関銃が消えて、注文通りのフェーザー銃が手の中にあった。こいつはレベルを「破壊」から「失神」まで変えられる。目盛りを見たら「失神」にセットされていたので、僕は安心して引き金を引いた。使い方は映画やテレビ版をさんざん見ているから承知している。

 テレビ版と同じく、発射口から光が放射され、アサシン剣士にぶち当たった!

 剣士はバッタリと床に倒れた。

 恐る恐る近づき、鼻のあたりに手のひらを当てると、大丈夫、息をしている。うまいところ、こいつは失神してくれたようだ。

 気が付くと僕の格好は、スター・トレックの宇宙艦隊クルーの制服を着用していた。つまり、スター・トレックに登場するフェーザー銃を要求したので、設定を合わせて来たのだろう。

 そこまで拘らなくともいいのに!

 第一の障害を通り過ぎ、僕は二階の張り出しから三階へと移動した。

 思った通り、第二の障害が出現した。

 今度の障害は、フェーザー銃では処理できない。

 なぜなら、二番目の障害は美少女のメイドたちだからだ!

 十数人の美少女たちがメイドの格好で出現し、僕を見つけると歓声を上げて近寄ってきた。どの娘も僕好みの美少女で、背の高い娘から、小柄な娘。スリムな体形の娘、胸が大きくウエストがぎゅっと締まり、思い切り腰が突き出した娘と、ありとあらゆるタイプの美少女がメイドの格好で現れたのだ。

 きゃあきゃあと黄色い歓声を上げ、美少女たちは僕を取り囲み、柔らかな肉体を押し付けてきた。僕の腕を取り、抱き着き、頬を擦りつけて来る!

 背中に、胸に、腕に彼女たちの胸が押し付けられ、僕は、僕は……。

「よ、よせよ……えへへへへ……そんなにされちゃ、ぼ、僕は……!」

 僕は完全にぐでんぐでんになってしまって、顔は火照るは、身体の一部分が反応してしまうは、もう、どうにでもしてくれっ!

 と、僕の視界に一人の少女が現れた。

 少し離れた場所に、亜麻色の髪の毛を複雑な形に結い上げた、スリムな背の高い女の子が立っている。

 藍里だ!

 藍里は美少女メイドに囲まれた僕を、冷たーい視線で見ていた。

 あんな冷たい視線の藍里など、一度も見たことはなかった。

 途端に僕は、頭から零下二〇〇度の液体窒素をぶちまけられたように冷静さを取り戻し、身体を押し付けてくる美少女たちを掻き分け、掻き分け、前へ進んだ。

 美少女メイドたちは僕を追い掛けたが、藍里の姿を見ると立ち止まった。

 藍里は威厳をこめて美少女たちに叫んだ。

「流可男さんは大事な任務があります! あなたがたはもとのところへお帰りなさい」

 美少女たちは口々に「ちぇっ! 折角、いいところだったのに」とか「固いこと言わないでよ」とか呟きながら、次々と姿を消していった。

 僕はふっと息を吐き出し、額の汗を拭った。もっとも本当は汗など掻いていなかったのだが、こうでもしないと格好つかないじゃないか!

「君、本当の藍里か?」

 藍里は軽く頷いた。視線にはまだ、先ほどの冷たーい視線が残っている。

「おい、そんな目つきをするなよ。だいたい、どうやってここに来た?」

 ここでようやく、藍里はいつもの態度を取り戻し、暖かな笑みを浮かべた。

「流可男さんのいるところ、あたしはいつも存在します。ここは仮想現実なので、本来肉体を持たないわたしには、好都合です」

 うっかり聞き流しそうになって、僕は藍里の顔をマジマジと見詰めてしまった。

「本来肉体を持たないって、どういう意味だ?」

「それはまた、後で」

 藍里はいつものように、僕をはぐらかす。

 そうなんだよなあ、藍里ってどういうわけか肝心なことになると、するりと僕の手をすり抜けるように言葉を濁すんだ。

「とにかく先に進みましょう」

 言うなり藍里は大股で歩き出した。

 僕は思わず、せかせかとした歩き方で、藍里を追い掛けていた。

「この仮想現実から抜け出す方法を教えてくれないか?」

「赤田斗紀雄のゲームを終了させればいいのです。それがルールですから」

「君はどうなんだ? 君はこのゲームのプレイヤーの一人なのか? 赤田のゲームでは、君の存在は〝あり〟なのかい?」

「わたしは仮想現実における〝ワイルドカード〟ですから。どんな役割でも可能です」

「へえ……」

 僕は黙ってしまった。

 つまり藍里の言葉は珍紛漢紛だってことだ。

 遂に僕らは、赤田が待ち受けているであろう、扉の前に立っていた。

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