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 アメ車がハイウェイの彼方に見えなくなって、僕はようやく我に返った。

 どうする、どうすればいい?

 ここが仮想現実の世界であることはハッキリした。

 ならば脱出すればいい。

 僕は自分の顔のあたりに手を持ってきて、被っているはずのHMDを外そうと、無茶苦茶に動かした。

 しかしあるはずのHMDは手に触れて来ない。

 つまり僕の神経系は、完全に仮想現実に支配されていて、多分、現実の僕はピクリとも動かず、HMDの見せてくる感覚だけを受け取っているのだ。僕の見えている風景、感覚、あらゆる五感のすべては脳に直接送られる刺激だけだろう。

 これでは自分で仮想現実から抜け出すのは無理だ。どこかで操作している、恐らく免外礼博士が「これでいい」と思った時点で仮想現実から解放されるのを待つしかない。

 僕は路上に停められているバイクを見た。

 赤田斗紀雄は、このバイクを使って来夢を救いに来いと命令した。僕が来夢を救いに行動しないと、仮想現実は終わらないのだ。

 つまり相手のシナリオ通りに行動しないと、解放は見えてこない。

 僕はバイクに近づき、跨った。

 自転車に乗ったことはある。

 しかしバイクの運転など、やったことはない。

 恐る恐る、僕はバイクのアクセルを握った。アクセルは右、くらいは知っている。

 途端に、びっくりするほどの大きな排気音がけたたましく鳴り響き、僕は慌ててアクセルを戻した。

 エンジンは掛かっているが、バイクはピクリとも動かない。どうやって動かせばいいのか?

 えーと、確か左のハンドルがクラッチになっていて、右足がシフト・チェンジ……いや、反対だっけ?

 ともかくスクーターならなんとかなりそうなのだが、こいつはマニュアルなので、見当がつかない。

 やけになって僕はハンドルを握りしめ、叫んだ。

「動け、こら!」

 途端に、弾かれたようにバイクは突進し、僕は慌ててハンドルにしがみついた。

 びゅうびゅうと前方から風が吹き付け、僕は歯を食いしばって加速に耐えた。

 ああ、そういうことか。

 仮想現実だから、僕の「走る」という意思に応じて、バイクは動き出したのだ。細かい操作は必要なく、動けと念じるだけで充分なのだ。

 こりゃ、楽でいいや!

 これでバイクは動いたが、前方から吹き付ける風には閉口した。なにしろバイクは吹きっさらしだし、車のような大きなウインドウはない。まともに風が吹き付けるので、目を閉じないようにするだけで、苦労する。

「ヘルメットが欲しいな」

 試しに呟いてみた途端に、僕はフルフェイスのヘルメットを被っていた。

 あは!

 なるほど、なるほど!

 僕が何か願えば、即座にかなうのか。

 そういえば、赤田が手を振っただけで車が出現し、隊員が現れた。赤田も同じく、この仮想現実を利用しているのだ。

 しかしこんな高度な仮想現実があるのに、なぜ噂にもならなかったのだろう。今体験している仮想現実装置にくらべれば、僕らがゲームで利用している仮想現実なんて、ミシュラン三星シェフのレストランに比較した、百円ショップのままごとセットのようなものだ。

 恐らく、この仮想現実を利用するには、ひどくコストがかかるに違いない。機器を制御する端末だって、最新鋭のものが必要だ。個人で利用することなど、有り得ないのだろう。

 さて、この仮想現実の利用の仕方は判ったが、どれほどの自由度があるのだろう。僕が願えば何でも叶うのか?

「夜になれ!」

 僕は大声で叫んで、待った。

 が、空は変化なし。

 ふん、時間を操作することはできないらしい。

「雨になれ!」

 これもダメ。

 天候や、時制を変える大掛かりな変化はできないらしい。

 じゃあ、出来ることは何か。

「バイクに乗っている格好じゃないな。バイク乗りらしい格好にしろ!」

 言い終わった瞬間、僕は革のつなぎに、ブーツというライダーの格好に変身した。

 なるほど、これくらいなら仮想現実側でサポートしてくれるんだ。

 了解!

 それにしても、いい加減、長い時間走っている。

「いったい、いつまで走っていなきゃならないんだろうなあ……」

 思わず呟くと、前方に目的地らしき景色が見えてきた。

 おやおや、これも仮想現実の魔法か。それとも単に必要な距離を僕が走ったのか。

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