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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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「わたしの本当の名前は〝ニュン〟! わたしにはあと六人の〝妹〟がいました。わたしたち七人の〝妹〟と指導者の〝お兄様〟は、迫りくる宇宙の終焉をなんとか避けようと戦ってきたのですが、総ての努力は無駄となりました……」

 暗闇に七つの存在が浮かび上がった。

 どれもこれも、人間とは似ても似つかない姿で、見方によれば恐ろし気な怪物とも言えた。

 生きている炎、どことなく人間の形に似た巨大な植物、ゆっくりと動き回る岩の塊。ぬらぬらとした不定形の生き物。半分が機械、半分が獣のような奇妙な生き物。キラキラと光を反射する、結晶体。真ん中には、真っ黒な表面の立方体が鎮座していた。

「これがわたしたち七人の妹と、指導者のお兄様です。わたしたちは何とか宇宙の崩壊を防ごうとしたのですが、宇宙的な運命に抗うことは出来ませんでした」

 朱美が叫んだ。

「一つ足りねえぞ! 八つのはずだ」

 すかさず、藍里の言葉が響いた。

「わたしもそこに居ました。ただしわたしは、空間そのものに精神を転写した存在のため、姿がないのです」

 朱美は腕を組み、藍里を横目でにらんだ。

「それって、幽霊って言うんじゃないか?」

 藍里は朱美のツッコミを意に介さず、話しを続けた。

「迫りくる〝虚無〟に、わたしたちは次の宇宙に希望を託しました。次の宇宙を産み出すため、わたしが選ばれました。わたしには実体はなく、空間そのもののエネルギーですから、宇宙の崩壊にも耐えられました」

 七つの存在は次々と消滅していった。

 星々が再び輝きだし、銀河系が大きく映し出された。藍里の声が響き渡った。

「わたしは待ち続けました。わたし以外の妹たちは、この宇宙で、何度も何度も、輪廻転生を繰り返しました。その度に〝虚無〟がわたしたちの前に立ちはだかったのです。妹たちと〝虚無〟の戦いは、人間の伝説、神話となって今に伝わっています。プレアデスの七姉妹、ワルキューレ、ノルンの女神、ゴルゴン四姉妹……。日本神話の須佐之男命と八幡大蛇の戦いも、わたしたちの戦いの変形です」

 宇宙と銀河系は消え、周囲の光景はもとの研究室に戻った。新山姉妹とアイリスは、安堵で一斉に「ほーっ!」と、大きく息を吐き出した。

 朱美は腰に両拳を当て、藍里に向き直って喧嘩腰で質問を投げかけた。

「いったいお前の言う〝虚無〟とはなんだ?」

 朱美の質問に、藍里の顔に苦し気な表情が浮かんだ。藍里が初めて見せる、微笑以外の表情だった。

「〝虚無〟には一定の姿、形はありません。〝虚無〟の目的は唯一つ、この宇宙を暗黒に呑み込むこと。それは宇宙的な巨大な規模から、小さいところでは銀河系単位、惑星単位、民族単位、国家単位で存在します。人々の希望を断ち切り、絶望に誘導することも〝虚無〟の仕業です」

 新山姉妹とアイリスは、お互いの顔を見合わせた。アイリスはゆっくりと呟いた。

「それって、もしかして……?」

 藍里は小さく頷いた。

「そう、今日本国を席巻している、オタク排除法も〝虚無〟のひとつの形です。〝虚無〟は朝比奈政権の形を取って、オタクを圧殺し文化の多様性を否定しようとしています」

 朱美は何度も首を振り、肩をすくめた。

「どんどんお前さんの話は神がかってきたな。つまり朝比奈総理は、〝虚無〟に操られているってことか? オイラたちがその話に、どう関わってくるんだ」

 藍里は半眼を閉じ、静かに語りだした。まるで巫女の宣託のようだった。

「わたしはこの宇宙を産み出すとき〝虚無〟とある取り引きをしました。わたしたちが輪廻転生を繰り返し、もしも一度でも〝虚無〟に勝利することがあれば、この宇宙の崩壊の運命を変えられる、と」

 朱美の口許は、ひくひくと笑いの形に歪もうとしていた。しかし完全に笑いの形にはならなかった。

 藍里は両目を一杯に見開き、朱美を真っ直ぐ見詰め語りかけた。

「だから何としても、明日辺流可男さんを救い出さなければなりません。わたしたち〝妹〟だけでは〝虚無〟には勝利できないのですから。〝お兄様〟とわたしたち〝妹〟の力が合わさることで、〝虚無〟に勝てるのです」

 新山姉妹は「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げ、両拳を口許に当てた。頬は赤らみ、何度もその場で飛び跳ねた。

「賛成! 賛成! あたしたち、流可男さんをガッツ島から助け出しましょう!」

 だんっ! と、朱美は床を踏み鳴らした。

「そんなこと、藍里、お前さんがやればいい。お前の力なら、一人でやれるだろう?」

 藍里の顔に、再び微笑が戻った。

「さっきも説明したように、わたしには実体がありません。わたしが出来ることは、〝妹〟たちの能力を引き出すこと、他人の記憶を操作し、鍵を外すくらいです。大きなものを動かしたり、他人を強制することは出来ません。だから朱美さんたちが自ら動いてくれないと、流可男さんは救い出せません。わたしに実体があるように感じさせることは出来ますが、所詮、わたしは幽霊のようなものですから」

 チョコチョコと小走りにアイリスが朱美に近づき、肩に手を置いて揺すぶるように話し掛けた。

「なあ、朱美はん。ウチらに力を貸してくれへんか? これはウチらの運命ちゅうやつや」

「よせ!」

 朱美は煩そうにアイリスの手を振り払った。

 新山姉妹は必死の眼差しで、朱美を見詰めている。アイリスも真剣な目つきで、姉妹と一緒に朱美を見詰めていた。

 無言の圧力に、朱美はとうとう根負けした。

「判った、判った! やるよ、やればいいんだろう? オイラも、流可男という召使いがいないと不便でしょうがねえ」

 朱美はさらに念押しした。

「ただしだ。オイラは宇宙の崩壊を防ぐ、とか、そんなヨタ話は信じちゃいないからな!」

 アイリス、新山姉妹、藍里は顔を見合わせ、笑い合った。「うんうん」と納得顔の四人に、朱美は意地悪く尋ねた。

「だが一つだけ判らねえことがある」

 藍里は朱美に対し、少しだけ首を傾げて見せた。

「藍里、お前は七人の妹と言っていたな」

「はい」

「それじゃ、一人足りねえ。オイラが間違っていなければ、お前の言う〝妹〟はまだ六人しか姿を現していない。新山檸檬、蜜柑の二人は、確か一つの〝妹〟の魂が二つに分かれた結果だしな。だからまだ一人、〝妹〟が足りねえってことだ」

 藍里は大きく頷いて見せた。

「そうです。〝妹〟は全部で七人。あと一人、残っています」

「そいつはどこにいる?」

「それは流可男さんを救い出すときに明らかになります」

 藍里の言葉は、相変わらず謎めいていた。

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