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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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「なっ、なんだっ! お前は……、こ、こんなことあり得ねえっ!」

 朱美はありったけの声を張り上げ、吠えるように叫んでいた。

 叫び声は朱美の研究室一杯に響き渡り、天井から吊り下げられている旧式の無影灯をガクガクと揺さぶり、壁の漆喰をボロボロと剥がれ落ちさせた。

 その場にいた新山姉妹と、アイリスは今まで体験したことのない朱美の大音声に、耳を塞ぐこともなくまともに鼓膜に突き刺さり、床に倒れ伏していた。

 平気な顔で朱美の声に耐えていたのは、佐々木藍里一人だった。

 ばったり倒れていた三人は、ふらふらになりながらも立ち上がり、朱美と藍里に視線をやった。

「なんやねん、けったいな大声出して……ウチら、目え、回ったわあ!」

 アイリスはブツブツ文句を口にして、朱美と藍里に近づいた。

 朱美はぎゅっと両拳を握りしめ、口を真一文字に引き結び、藍里を睨んでいた。

「なあ、朱美はん。何に驚いてますのや?」

 朱美は腕を上げ、震える指先で藍里を指し示した。

「こっ、こいつ……、人間じゃないっ!」

「へえ?」

 アイリスはキョトンとした表情になった。

 藍里はにこやかな表情のまま、話し掛けた。

「相変わらず凄い声量ですね。最初に朱美さんの大声を聴いたときは、さすがのあたしも失神してしまいました。今度は準備が出来ていたので、耐えられました」

 朱美は「ふん!」と鼻で笑うと、アイリスと新山姉妹に向き直り説明を始めた。

「オイラの眼鏡は、レーザー発振とニュートリノ・ビームを併用して、ありとあらゆるものを走査する。こいつでスキャンできないものはあり得ない……はずだった」

 わざとらしく朱美は眼鏡を外すと、制服の袖でレンズを磨き始めた。朱美が眼鏡を外すと、驚くほどの美少女だった。

 再び眼鏡を架けると、朱美はジロリっと藍里を睨んだ。

「ところがこの、佐々木藍里という女には、あらゆる数値が〝アンノウン〟となった。オイラと藍里の距離、無限大。表面温度、絶対零度、質量、無限大……」

 言葉を切り、藍里は三人に顔をねじ向け、笑いかけた。

「これがどういうことか判るか?」

 明らかに朱美の口調は、答えを期待するものではなかった。

「つまり佐々木藍里とは、人間の女の形を取ってはいるが、一言で説明するとブラック・ホールなんだ。こいつは生きているブラック・ホールだ!」

 朱美の説明を、アイリス、新山姉妹はまるで理解していないようだった。

 くるっと藍里に向き直り、朱美は吠えたてた。

「さあ、お前の正体を明かせ! お前はいったい、何者だ?」

 藍里は寸毫も動揺を見せなかった。

「わたしは明日辺流可男さんの〝妹〟です。朱美さん、あなたも同じ〝妹〟です」

 朱美は「ぐるるるるる……」と猛獣のような唸り声を上げた。

「さっぱり説明になっていねえぞ」

 藍里はさっ! と腕を上げ、天井を指さした。藍里の動きにつられ、朱美、アイリス、新山姉妹は天井を見上げた。

「今から百三十八億年前、宇宙が誕生しました!」

 藍里の指先から、眩い光が放たれ、四人は眩しさに目を細めた。光の放出が終わると、四人の周りは漆黒の闇になった。

 漆黒の闇に関わらず、朱美やアイリス、新山姉妹の姿はお互い、はっきりと見て取れた。どこに光源があるのかと朱美は見渡したが、目に入るのは真っ黒な闇だけだった。

「面白え……」

 朱美はぽつりと呟き、微かに笑みを浮かべた。

「この宇宙を創造したのは、このわたしです」

 漆黒の闇に、ぽつりぽつりと、蛍のように幾つもの光点が出現した。朱美は光点に目を近づけ、しげしげと観察した。光点は円盤状に見え、さらに小さな光点が円盤に集まっていることが判った。

「銀河だ……」

「その通り。わたしはこの宇宙の誕生からずっと、今に至るまで観察を続けてきました。この地球の誕生も、そして地球に生命が生まれ、徐々に進化して今の人間が生まれる過程も、すっかり記憶しています」

 アイリスは唇を震わせ、囁いた。

「それって、あんた神様ちゅうことか?」

 藍里はアイリスの言葉に首を振り、長い髪の毛がふわりと揺れた。

「あなたの言うような神ではありません。第一、わたしは全知全能ではありませんから。わたしの目的は唯一つ、この宇宙が存在する以前の宇宙から続けてきた戦いに、勝利することです」

 檸檬と蜜柑は声をそろえ、恐る恐る藍里に尋ねた。

「戦いって、敵がいるのよね?」

「神様の戦いだから、敵は悪魔?」

 藍里は二人に向け、艶やかな笑みを浮かべた。藍里の微笑みは、神々しいといってもよかった。

「さっきも言いましたが、わたしは神様ではないのです。したがって、わたしの敵も悪魔ではありません」

 藍里は言葉を切り、周囲を見上げた。藍里の動きに、朱美たちも周囲を見回した。

 漆黒の闇に、ぽつりぽつりと光点が輝くだけだった空間には、今やありとあらゆる光の点が、びっしりと取り巻いていた。

「これが現在の宇宙です。宇宙の全域には、様々な恒星、星雲、銀河系があふれ、無限の可能性が秘められています。わたしがいた、以前の宇宙も同じようでした。ですが、その宇宙には破滅が迫っていました」

 藍里の言葉に、無数の光点で輝いていた空間に、不意に黒々とした闇が侵食し始めてきた。あちらこちらから出現した闇は、周囲の星々、銀河を呑み込み、ついには総ての星々が闇に包まれてしまった。

「これが宇宙の終焉です。宇宙を呑み込んだのは〝虚無〟そのものです。ここでは空間は存在せず、したがって時間も存在しません。絶対の〝虚無〟だけがあります」

「怖い……そんなの考えたくない!」

 姉妹がお互いひし! と抱き合い、小さな声で囁いた。

 朱美は笑い顔のまま、叫んだ。

「オイラたちの宇宙もそうなる。宇宙が始まった時から決まっている運命だ。エントロピーは不可逆的に増大し、総ては宇宙的な斥力で原子すら破壊される。それは決定的なことなんだ」

 藍里はにこやかな表情を保ったまま、朱美の言葉を否定した。

「いいえ。そうではありません。宇宙的な終焉を避ける方法があるのです」

「馬鹿な! あり得ねえ!」

 朱美は吐き捨てた。

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