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 僕の、ガッツ島での生活が始まった。

 ここは刑務所だが、塀とか逃亡を防ぐ施設は全くない。また刑務所にあるあらゆる決まりや、罰則もない。収容者は何をしても、どこへ行っても自由だ。突撃隊の隊員はいるが、刑務官のような監視は一切行っていない。

 何しろ絶海の孤島にあるのだ。逃げようがない。一番近くの島は、十キロ離れていて、どうやったって逃げることは不可能だ。

 労働はある。

 ガッツ島では、色々な職種が用意されている。それまで就いていた職業があれば、それに従事することが出来る。無論報酬もあり、金銭も受け取れる。その報酬で、毎日の生活を送る。

 この島にはオタクと、突撃隊隊員しかいない。言い忘れていたが、オタクと言っても男ばかりで、女のオタクは先に述べた十キロ先の島に収容されている。そちらは女オタクを日本女性らしく教育する目的があるので〝ナデシコ島〟と呼ばれている。

 囚人に与えられていないのは、テレビとか情報端末などだ。この島で暮らすと、本土で何が起きているのかさっぱり判らない。だから島に来てすぐ、僕はありとあらゆる質問を受けた。

 質問の大半は、連載されていたマンガの続きはどうなったかとか、アニメの放送はどのくらい進んだのかとか、人気アイドルの現在の活躍についてだった。政治や、経済などの情報は一切、求められなかった。

 もちろんテレビや情報端末はあるが、それらは突撃隊員たちに独占されていて、僕ら収容者は利用できない。また隊員たちも、それらで受けた最新の情報を、僕らに話すことは全然しなかった。

 だから娯楽が丸っきり存在しないわけではなく、収容所には映画館が併設されている。この映画館は無料で、誰でも利用できる。

 もっとも上映されているのは昔のVシネマとか、ツッパリやヤンキーを美化した「不良映画」と呼ばれるジャンルの映画ばかりだ。どれもこれも僕が生まれる前の映像で、最新のアイドルや女優は一人も出てこない。

 こんな映画、オタクたちは一人も観ないだろうと思われるが、結構彼らは楽しんで観ている。ある日、僕が退屈なので映画館に入ると、前の席で黙々と映画を観ながらメモを取っている奴がいた。

 後で聞いてみると、半強制的に観せられているうち、猛然とオタク心が刺激され、映画のストーリーとか、スタッフの名前、登場人物の名前をメモするようになり、いつか本土に戻ったら不良映画の評論をやりたいと語っていた。

 まったく、オタクはどこへ行ってもオタクだ!

 この島で僕のできる仕事と言えば、せいぜい掃除くらいで、小遣い程度の収入しかない。しかし三食は無料で支給されるので(衣服も無料)不自由は感じない。他の社会人だったオタクは色々職業を持っていて、その中でもプログラマーなどの特技を持っていた囚人は優遇されていた。

 自動車の免許を取得していた囚人には、重機や建設機械(クレーン、ダンプトラック)などの運転の教習が課せられた。

 教習が課せられるのは、島で、毎日どこかで、何かしら建物の建設が行われていたからだ。

 なぜかというと、建設などのガテン系の仕事こそが正しい男の生き方であるという教育がなされていて、そういった仕事に従事すれば「根性と気合いが」入るという方針だったからである。

 建物は建設されると同時に、解体班によってすぐさま壊される。壊された建物の資材は、新たな建物の材料として利用される。建設する方は解体班が壊す前に建物を完成させなければならず、解体班は建物が完成するのを阻止しなければならなかった。こうしたイタチごっこが、島のあちらこちらで展開されていた。

 農業も奨励されていた。

 島の空き地には農地が設けられている。もっともガッツ島は元々火山島で、島のほとんどは冷えて固まった溶岩だ。そのため、栽培に適した土壌は存在しないので、本土から運び込んだ農業用の土を利用していた。

 それだけでは稲作は不可能なので、ガッツ島の主な農業生産物はサツマイモや、ジャガイモなどの根菜類だった。だからガッツ島で供される三食の食事には、何かしら芋が出されていた。

 つまりガッツ島では第一次、第二次産業が教育刑の一環として囚人の主な作業となっていた。それらの仕事に従事すれば、オタクから立派なツッパリ、ヤンキーに生まれ変われると考えられていたからだ。

 とはいえ、本土でオタクたちが従事していた仕事はアニメとか、マンガ家のアシスタントとか、ゲームのデバッグ作業などのインドアばかりで、アウトドアの、体力任せの仕事は経験していない。

 そのためほとんどのオタクたちは、作業時間が終わるとグッタリとなって、その場に座り込むか寝転んでしまっていた。

 僕も最初は掃除などの簡単な仕事を与えられていたのだが、徐々に慣れるにつれ、重い荷物を運んだり、コンクリートをこねる作業をやらされるようになった。

 ところが、やってみるとこれが僕にはそうきつい作業ではなかった。一日重労働を終えると、爽快な汗をかいて、その夜はぐっすりと眠れ夢も見なかった。

 最初に出会った阿久津という小男は「あんたは高校生だし、若いからな」と羨ましそうに言うのだが、僕の考えではちょっと違う。

 おそらく、以前の僕だったらガッツ島の生活は毎日が地獄だったはずだ。しかし朱美の薬を投与され、僕の体質が変わったのだ。そのため、きつい重労働にも耐えられるようになったのかも……。

 そうだ!

 そういえば朱美や、他の女の子たちはどうしたんだろう。新山姉妹や、アイリスは……それに藍里は?

 僕はまるで彼女たちのことを忘れていたことに、罪悪感すら感じていた。

 そのようなことを考えるようになった頃、ある事件が起きたのである。

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