第七話 カタコ融キノコ!
「……うむ。これで良いじゃろう」
現在のわたしの住み家であるブナの大樹。その根本。
そこからぐるーっと半周すると見える虚。
どうやらここがピプシー・マルモさんのお家らしく、一夜さんは窓と思わしき穴からぽーんと、小瓶を放り込み、手をぱんぱんと叩き、一仕事終えた顔をしていました。
なんか木の中から、「ふぎゃっ!」と、まるで予期せぬところから小瓶が飛来し、その頭に直撃したようなうめき声が聞こえた気がしましたが、たぶん気のせいでしょう。
「して、お主。迷子と言ったか?」
「はい」
「ふむ……。なにか故郷の目印になるようなものはないのか? なにかこう、土地の特徴でも良い」
「……えっと……」
残念ながら、目印になるようなものは持ち合わせていません。
「特徴……と言われても、森がもう少し明るくて、針葉樹林で、じめっぽくない空気に……あ、それと、よく姉と小高い森の丘に足を運びました。風が吹き抜けて、気持ちのいい丘です」
「ぬう……」
一夜さんは考え込んでしまいます。
「そういえば、数日前あった『死神』さんはなにか知っている風ではありましたが……」
「……『死神』?」
「はい、真っ白いキノコなんですけれど……」
「……奴はなにか言っておったか?」
「え?」
「なにか言っておったか、と訊いている」
どこか凄んだ口調。
わたしは真っすぐ見るその目に、たじろぎつつ。
「えっと、ここはあなたのいる場所じゃないから、帰れ……でしょうか」
「ほかには?」
「『吸魂牢』というペンダントで、あなたの魂を取っちゃうぞ?」
「あれにそんな力はない。ほかは?」
「……帰ったら、お姉さんによろしく言っておいてくれるかしら……?」
「ん、なんじゃ? お主の姉は『死神』と親しい仲なのか?」
「それは、わたしもわかりませんが……。けれど、わたしの知る限り、故郷であのような白いキノコを見たことはありませんでしたよ」
ふむ……、と顔を落とす一夜さん。
もしかして、『死神』さんを知っているのでしょうか?
「ほかにはなにも言っておらんかったか? たとえば、『誰かを迎えにきた』とか。どうじゃ?」
「んーと……言っていなかったと思います」
「……そうか、なら良い。いや、つまらんことを訊いてしまったな。悪く思わんでくれ」
ふっと険しかった表情をやわらげる一夜さん。
なにか『死神』さんと確執のようなものでもあるのでしょうか……?
訊きにくいところではありますが、しかし、わたしとしても、故郷について何か知っているかもしれない『死神』さんとは、もう一度会って話したいと思っていたところなのです。
「一夜さんは、あの『死神』さんと知り合いなのですか?」
「知っておるには知っておる。が、知らんと言えば知らぬ」
「はあ」
……なんと曖昧な。
「奴の名は『アマニタ・ヴィロサ』、死期の近いものにしか見えぬ、あやかしのような女じゃ」
「……死期?」
「そう、もうじき死ぬ魂にしか見えぬ……はずなのじゃが、どうしてお主がそれに会うたのか、なぜ見えたのか……」
「…………」
首筋にうすら寒いものを感じました。
ちょっと本当に縁起でもないことを言わないでほしいものです、けど……あれ?
それってつまり……、
「わたし、もうすぐ死ぬですか?」
「……かもしれん」
爆弾発言でした。
ショックでした。
いまのわたしの心境をおわかり頂けるでしょうか?
戦慄です。戦慄が走りましたよ。その速度、マッハです。
脊髄から脳に直撃したそれは、わたしから思考能力を根こそぎ奪いました。
「――が、そうでもないかもしれん」
言葉に意識が回復します。
希望とはいいものです、深い暗闇に差す光が見えた気がしました。
「……それは、どういう意味ですか?」
「と言うのも、わしもよく死ぬのじゃが、見えるときと見えんときがあっての。見えたからといって必ずしも死ぬとは限らんし、見えんからと言って死なんとも限らん。が、あれは縁起のいいものでは決してない。それだけは間違いない」
……どういうこと?
哲学? 難しい話は苦手なのですが……。
「え? え? 言っている意味がよくわかりませんが……一夜さんがよく死ぬとは?」
「ああ、言っておらんかったな。わしはヒトヨタケじゃからの、ようもっても明後日には死んどる」
「…………」
さらっと爆弾発言その二でした。
そんな軽ーく言われましても、リアクションに困ってしまいます。
「まあ、お主らよりサイクルが早いのじゃ、わしは。じゃらからこうして、胞子を捲いておる」
一夜さんはそう言い、袖を上げてみせました。
そこからは黒い液体がぽたぽたと垂れ落ちています。
「それって胞子だったのですか」
「うむ」
「やっぱり溶けてますよね」
「……トケテイルワケデハナイ」
「なぜカタコトですか」
「黙れ」
登場キノコ紹介
・アマニタ・ヴィロサ
【死神?】
以下、公式より抜粋ですしお寿司。
■分類:テングタケ科 テングタケ属
■和名:ドクツルタケ (毒鶴茸)
■娘解説:
リーダー的存在。
服のデザインも全看板娘中最もシンプルになっており、ある意味完成されてる。
全身に白色の衣服をまとう。瞳の色は赤。大きな帽子は傘、髪型は柄の上部のつばを模している。スカートはジグザグとボロボロを交互に段々になっており、ささくれる柄が元ネタ。大きめのブーツはつぼを持つテングタケ属共通。
「死の天使」なので背中に天使の羽を持つ。ちなみに羽根が生えてはいるが、筋肉が有る訳ではなく、飛べない。アクセサリ的な物。
ドクロのシルバーペンダントを愛用。季節によってデザインを使い分ける。目の内部が赤く光る機構付き。銀製なのは「煮汁に銀を入れて黒くなれば毒」と言う迷信を皮肉っているつもり。
意外と暑がりで、涼しい場所を好む。
人の多い場所はあまり好きではないらしい。
天使のような優しい性格である反面、意外と毒の有る発言をするって言うか毒がある。しかもネチッこく、長引くので注意する。
本人は自分の犠牲にならぬよう注意はしている。
「死の天使」と言う呼び名は本人は気に入っている。「天使」と呼ばれてまんざらでもない様子。