第二十一話 洞窟探検
山合いを抜ける洞窟とは、いったいどんな難所が待ち受けているのだろうか――
と、身構えていたわたしではありますが。
「いやあ……、真っ暗ですねー」
真っ暗でした。
やはり洞窟ですから、冷静に考えてみればわかることではありましたが、ここまでとは……。
案内役のファロさんは本当に洞窟へ案内するだけで、すでにご帰宅されています。
残されたわたしたち。
けれど、こうも暗いと進むことも出来ません。
「なるほど。真っ暗ね。でも大丈夫、安心して」
かぼちゃパンツを広めるのを防ぐため、という態で同行してくれてい月夜さんは、なにやら両手をぐっと胸の前に祈るように組み、
「ぺかり輝け! 私!」
と、ぺかーっと発光。
「わわ! なんですか、どういう仕組みですかそれ!」
「細かいことはいいんだよ。なにもめずらしいことじゃない。ともあれ、これで真っ暗な洞窟だろうと大丈夫だよね。さあ、いこう」
そこから始まったのは、長くつらい洞窟探検でした。
ホタルのような月夜さんの灯火だけを頼りに、登っては下り、道に迷っては行き止まり、憤りも落胆も積み重なった疲労により上書きされ、疲労困憊の体でわたしたちはまるでゾンビのようにうなだれながら歩くこと約二日。
例えば、これを冒険譚として文字に起こそうとすればきっと四十万字以上の超大作になっていること請け合いです(ただし洞窟内で迷うストーリーのみ)。
タイトルは『地底大冒険』。
ストーリーを平たく言ってしまえば、迷子になりましたin洞窟。
食料などは持ち合わせていませんでしたが、わたしたちはキノコですので、栄養補給には困ることがなかったのが唯一の救いでしょうか。
しかしながら、先の見えない道程を踏むというのは、想像以上に気力を奪うことであり、
「……もう、だめです……」
「私も……流石に疲れたかな……。輝き疲れた……」
わたしたちは地面へとへたり込んでいました。
「まったく切りがないよ。方向感覚も完全に狂った。どっちが出口の方角かもわからない。……これはピンチかもね。もしかしたらこのまま一生暗い洞窟の中で過ごすことになるのかも……ああ、しまったな。君のかぼちゃパンツなんて放っておけばよかった。しまったな。本当にしまったな……」
「……お日様に会いたいです……ぽかぽか……したい……」
「ん? ちょっと待って」
薄く光る月夜さんは、眉をひそめます。
「どうかしましたか?」
「静かに。何か聞こえない?」
わたしは耳をすまします。
すると、さらさらと流れるような、かすかな水音が。
「水源? いや、これは川の音かな?」
「川――とは言っても、しかしここは洞窟の中ですよ。川なんてあるはずが……」
「こっちだ」
言って、駆け出す月夜さん。
わたしもそれに続きます。
やがて見えてきたのは光。自然が奏でる音がわたしたちを迎えます。
「あれは……もしかして」
「外ですか? やっと、やっと洞窟を出れた……うぅ……」
久しぶりの外界。
そのあまりの眩しさに、暗闇に慣れたわたしはまぶたを閉じます。
ゆっくりと目を開くと――わたしは胸の奥底から湧き上がってくるものを感じました。
見慣れた木々。
すんと鼻を撫でる香り。
まっさらな空の下、吹き抜ける風が歌っていました。
緑生い茂った森の中。
そこに見えるのは、わたしが姉と遊んだ丘。
「……ここは……」
「わたしの……故郷……」




