Sham Battle(1)
4月の中旬となりやっと雪溶けてコンリートが顔を出した。北海道は冷帯なので、4月になっても雪が残っているのは例年並みと言える。
そんな放課後、俺の足はいつも通り『EARTH部』へ歩きだしていた。ユーは『LEGEND』関係の集まりがあるらしく遅れてくるらしい。
第一部室棟の一番近い部屋に入る。
するすぐ目の前の椅子の上から見下ろす小さい女子学生の姿があった。
「よく来たね、少年!! 私と一緒に青春しようではないか」
よく意味の分からないことを言ってでも迎えてくれたのは、部長こと姫神美空先輩である。
「一人でお願いします」
「そんなぁ~、私はこんなにあなたのことがetc」
「大事なところ、端折りましたね」
「とりあえず、座り給え!!」
図書室で借りた本を開き、所定の位置に座る。
部室は教室の半分くらいの大きさで、部室入って右側には2層式の本棚とパソコンデスク、中央には円形のテーブルとイスが4つ、廊下側の壁の方に移動式のホワイトボードが窓際にも椅子が一つあるがそれが俺のニュートラルポジションとなっている。
今日は音子、部長、俺の3人、だけだ。他にも部員が3人いるのだが、来たときに紹介することにする。
「さて、四月も中旬になり、温かくなってきました」
何か校長の朝会の文章みたいだな。
「そこで我々『EARTH部』も野外活動を再開したいと思います!!」
部長が飛んでもないことを言い出した。この部活は活動しない方がいいような危ない活動ばかりしている。
「面倒なことになったな」
「そこ静かに!!」
ビシッと指を指される。
「あ、あ、あのぉ~」
小さく声で右手を半分上げたり、下げたりを繰り返している。やはり、オドオドオしている。
「何だね『男』君!!」
「私は『音子』です!!」
この時だけは声が大きくなり、ハキハキとなる。不思議なものだな。
「失礼、失礼」
「部長が一番失礼だけどな」
「それで何だっけ?」
「あの、えっと、野外活動って一体何するんですか?」
的確な質問だ。俺も入った時にした質問だ。
「いい質問ね。じゃあ我々の行動理念は何か言ってみろ!!」
「えっと、確か『歴史的出来事を記録する』ことでしたよね?」
「はい、正解!! でも歴史的事実は突っ立ってても集まっては来ないわ。よって、歴史的出来事自分たちで探すという結論に至ったわけよ」
部長は難しく言っているが、要は美咲市探索をするということだ。過去数十回に渡って行われているが、成果は皆無で、この部活の中でもっとも非効率的かつ一番無駄な活動のことである。
「俺はやらんぞ」
本を片手に発言する。
「その発言は却下よ。という訳で来週は野外活動します。今日は武器の点検でもしてましょ♪」
どういう訳か、今日は武器の手入れということになったのだった。本当にこの流れは謎だ。前触れは一切ない。
部長はかなり大きい2層になってる本棚の両端についてる鍵穴に鍵を差し込み回した。ガチャッとロックが解除される音がする。
横に前の本棚をスライドすると表面は木製だが、内側は厚さ5㎝くらいの鉄板で覆われていることがわかる。
その中には4つハンドガン(H&K USP)、ナイフが10本、刀一振り、アサルトライフル(M4カービン)一つ格納されていた。
「ほわぁ~」
と音子は驚いている。
「さて、春休み中開けてなかったから整備しないと」
「あ、あの、この部活って銃とか使うんですか?」
「時々ね。でも大丈夫、危なくないから!!」
いや、危ないから。
まず、俺がナイフの手入れ、音子はハンドガンを渡されてオドオドしている。そして部長はアサルトライフルの手入れを始める。
俺が手入れしているナイフはハイスピード鋼製だ。とりあえず、オイルを持ってきて、砥石でブレードを研削することにした。
次にH&KのUSPをオーバーホールしている音子は説明書を読みながら、分解しているとばねの力でスライドが吹っ飛んだ。よく素人とかがやりそうな定番的なシーンを忠実に再現してくれた。だがあれは分解する時じゃなくて、組み立てる時だったはずだ。
俺の作業は単純作業なので、ものの10分もすれば終わってしまう。
俺が音子を手伝いに行こうとした時、ドアが開いた。
「遅くなった」
大人な雰囲気を醸し出している、鮮やかなコバルトブルーの長い髪とダークブルーの瞳が特徴的な理想的なお姉さんは、3年D組の御影乃ノ花先輩である。
クールなだけではなく包容力も兼ね備えている上に、Gカップの爆乳である。まさに神である。
「今日は武器の手入れか、私もしよう!」
本棚の2層目の中にある刀を取り出して鞘から抜いた。
「先輩、危ないので振り回さないようにお願いします」
「それくらい解っているわ」
そうは言っても、前回1月に同じことをしたのだが、その時のことである。
御影乃ノ花先輩は刀を手入れしようとしていることから何となくクづいている人もいるかもしれないが、剣術を習っており、刀を振り回すのが大好きだ。何かものが置いてあると何となく切りたくなるらしい。完全に職業病的な状態になりつつある。
そんな先輩が刀を部室で振り回してことがあったのだ。もちろん考えて振っているので当たることはないのだが、メチャクチャ怖かったのを覚えている。あの時、ユーが止めに入らなかったら大変なことになっていたことだろう。
そういえば、武器を何となく部長の思いつきで手入れしているように見えるが、これをした後は大体こいつらを使うことになることが定番となりつつある。
御影先輩は刀を誇りを払ったあと椅子に座り、その膝上に部長を招き寄せて、頭撫でながら愛でている。
20分程度でオーバーホールを終えて弾薬本棚の端っこにある小さな金属性の箱から持ってきてマガジンに銃弾を装填することにした。