Mind Control(4)
林の中を高速で駆け抜けていた。
服が汚れようが知ってことではない。
今の俺は限りなく冷静であり、冷静ではなかった。
俺には聞こえるその声が、ユーの助けを求めるその声が!!
俺の思考は完全に来た道をフィードバックしているようで、迷うことなどありえなかった。
一分もかからずに林を抜けた。
そこにはユーに触れられる距離にいる足守の姿だ。
やはりその通りだった。
今は洗脳の真っ最中だ。
「――――ユーから離れろ!!」
それ気づき、『再装填されたUZIをすぐに向けた。
そいつはなぜかメガネをかけている。
「邪魔すんじゃねぇよ!! この雑魚が!!」
フルオートで一斉射し9mmパラべラム弾三十二発が宙に舞い、全てが俺だけに降り注ぐ銃弾の雨となる。
その光景は俺の『超思考(High Speed Linker :ハイ スピード リンカー)』は時間の進みを低下させ、三十二発全ての弾道を正確に予測していく。
「そんな弾には当たらない」
俺はすべての弾丸を微妙な上下左右移動だけで通過させて行く。
『当たらなければどうということはない』とはまさにこのことだ。
「バカな」
慌てた足守はUZIを女の子座りで動けずにいるユーへ向けようとすることに気が付く。
「それはさせない」
ユーから借りていた『SIG SAUER P250』をセミオートで一発だ、正確にUZIだけを貫通し、残骸が飛んでいく。
俺はそのままのスピードを維持したまま、距離を詰める。
こんなことは初めてだ。
距離を詰められことはあっても距離を詰めたことはなかった。
できる、この速さなら行ける。
「来んじゃねぇよ!!」
鋭い目つきが洗脳視線を放つ。
「それはもう効かない、その方式をもう既に見抜いている」
「チッ、だからお前とはやりたくなかったんだよ、『回路解析』各務原京四郎!!」
「その名は古い」
再び服の袖から何かを出した。
あれは前に使ったものと同型のC4の起爆用無線機だ。
「させない」
慎重に既に手に持っているユーの『SIG SAUER P250』で冷静に精密射撃をした。
セミオートの一発の銃弾で無線機を破壊した。
それと同時にもう片方の袖から遠心力で出そうとしている。
「それは前に見た」
飛び出したのはグレネード、数は十六ジャストだ。
そう『SIG SAUER P250』の残弾数と同じ、何とか防いでみせる。
すぐさまセミオートからフルオートへ、角度は俺と足守射線上右最大四十七度、左最大六十三度、合わせて百十度の範囲に十六個のグレネードが散らばる。
落ちる順はばら撒いた順、ならば、左から起爆する。
俺左の一番端に照準を合わせる。
手と反動によるブレ、風向き、空気抵抗による減速、重力による銃弾の降下、これらをすべて計算していく。
大丈夫だ。いけるはずだ。俺はできる。
トリガーを引くと同時に銃口が火を噴く。
一発目は照準位置から上方向に実寸で0.8mmの誤差、次を狙う刹那な時間に、アイアンサイトの誤差を計算内に入れる。
グレネードは俺と足守の中間の距離で仲良く左から順に列の成すように次々に連鎖的に爆発していく。
銃をベルトのガンホルダーへしまい、多少の爆風に飲まれながらも、それにかまわず黒煙の中へ突っ込んだ。
風があったせいか、計算よりも3秒以上早く煙が晴れ、足守の鋭い眼光がすぐ近くに迫っていた。
「畜生が!!」
武器を使うのを諦め、手を強く握った。
これは徒手格闘を仕掛けてくることを表しているのは目に見えている。
「それも読んでいる」
表情を一切変えずに、俺も拳を握りしめた。
距離二メートルはない。
先手必勝と言わんばかりに、非戦闘系能力者とは思えないほどの動きで俺の顔面を目がけて殴りかかってくる。
だが、それもすべて予想済みだ。
UZIと言いグレネード、C4、これらを所持していることから、能力的には不向きであるが単独でも普通以上に戦えるように訓練されていることがわかる。
特に俺もその部類なので、それはよくわかる。
俺は軽く握っていた手を開き、顔を右へその場所に右手を、さらに左足を後ろへ下げる。
拳は右手に収まり、その手を捕まえるように強く握った。
そして、左足を真横に出した。
「――――ぐはっ!!」
つま先の鉄心の入っている堅い部分で思いっきり蹴り上げたのだ。
女だからと言って容赦できるような心理状況にはなかった。
相手の行動を読んだり、それら計算することにおいては限れなく冷静であったが、足守がユーにしたことへの怒りは、言葉には表せないほど頭に来ていた。そんな温いことではない。つまり心理的には冷静ではないのだ。
態勢を崩し、お腹を押さえようとするが、それに構わずソイツの右手を思いっきり掴んで、右へ投げ飛ばした。
やったこともない戦闘スタイルだが、頭の中で何回もイメージによる計算を積み重ねたことが経験値となったに違いない。
すべては現実の出来事となり、敵を駆逐した。
「部長はそいつの確保をお願いします!!」
大声で右奥の林に呼びかける。
「了解、了解♪」
部長に悪いが、俺の手で決着をつけたかったので、ピンチだと思わない限り、後方で待機してもらう。というわがままを通して貰っていたから、さっきまで部長の姿が見られなかったというわけだ。
すぐに、投げ飛ばしたあいつにことを見向きをせずに、ユーの元へ一目散に向かった。
「――――ユー!!」
虚ろな瞳が俺をボーッと見つめている。
身を屈めて、膝を地面に着き、俺はユーを抱きしめた。
「もう、大丈夫だよ、ユー」
「……京、京、京、京!!!」
「大丈夫、もう、敵はいないよ」
ゆっくりと優しく、頭にそっと手を置き、撫でる。
ユーは俺の胸に顔を埋る。
「……こわかった、すごくこわかった」
腕の間から見えるユー瞳がキラキラと光る。
泣いているのだ。
「そうか、もう大丈夫だよ、ユー」
ユーが俺の制服に顔を擦るような仕草を見せて顔を上げた。
その少しだけ目が赤くした。表情は、こんな状況でありながらも可愛いと思ってしまったのは事実だ。
「……どこ、にも、行かない? もう、どこにも行かない?」
「ああ、俺はもう逃げないよ」
「ほんと? ずっと一緒にいてくれる?」
「ずっと一緒にいるよ」
「……そう、良かったわ」
その笑顔が俺の鼓動を早くし、赤面させた。
その可愛い笑顔をずっと見ていることもできたが、恥ずかしさの余り、顔を少しだけそむけた。
さらにギュッとさらに強く抱きかれ、俺もそれに答えるように、ユーを優しく、強く抱きしめた。
ユーでこんな気持ちになったのはいつぶりだろうか?
普通に同棲生活をし過ぎて、そういう気持ちが薄れてきてしまったが、今日からはそういうわけにも行かなくなるだろう。
温かく柔らかい感触をそれからしばらくの間ずっと感じていた。




