Mind Control(5)
それからしばらくの間ユーと抱き合っていると、後ろから気配がしたので頭だけ少しだけ振り返る。
その先には当然のことだが、部長が呆れた表情でこっちを見ている。
何か言いたげだが、黙って見ているだけだ。
「……放置してすいません」
「……い、いや、別に……いい、のよ」
ユーもそろそろ落ちつてきたので、二人はようやく離れて、立ち上がった。
「悠ちゃんはもう大丈夫?」
「……まだ、ぼーってする」
「なら休んでいいた方がいい、『翠光館』まで戻れますかね?」
あそこなら貸し切りの部屋がある。
「それは難しいと思うわ、現在目立った戦闘が行われているのはここと『翠光館』の周辺だから」
噴水の近くは安全だった。ホテルの方も安全であると考えていいだろう。
来た道を戻って外に出るという手もあるが休めそうな場所はない。
「乃々ちゃんが今こっち向かってるみたいだから、しばらくはここに居ましょう」
携帯の画面を見ながら部長が言う。
大分俺も冷静ではなかったらしく、ふと近くの木の目が行くと、そこには足守がワイヤーで拘束されていた。このワイヤーは高い場所から降りたりする時の使うベルトに付けるタイプのもので先端には小さい鍵爪状のアンカーが付いていて、長さは五メートル、直径が小さい、そのためきつく縛らなければいけないのはわかるが服に食い込んで痛そうだ。
俺たちが抱擁しているうちに部長がやったのだろう。
木を背にユーを座らせる。暗いので鮮明にはわからないがやはりぐったりしているように見える。
「部長」
「何?」
「状況ってどうなってるんですかね? 軍事省の車両とかもあったんですけど」
「今この場で戦闘しているのは風紀と軍事と『REVIVE』からの敵の三者だけど、風紀と軍事で敵を倒しているって構図で間違いじゃないんだけど」
「違うんですか?」
「京四郎は風紀と軍事の仲の悪さはもう知ってお通りだと思うけど、協力と言うより手柄の取り合いって感じかな」
予想通りではある。
「今も三人目をどっちが捕まえるかで三つ巴みたいになってるって情報が入ってるけど、もう一つ別ルートからも得てるわ」
どうやらそのようだが、三人目の詳細な情報は入ってきてはいない。
「事実かどうかはわからないのだけど、悠ちゃんと京四郎で捕まえた一人目、名前は忘れちゃったけど、その子をめぐって戦闘が始まったらしいわ」
「くだらないな」
「まったくよ」
数分後、ガサガサっと木の葉が擦れる音と木が軋む音と共に、木の天辺から突如、月光をバックに御影先輩の姿が見える。
『鋁』の鞘が黒く輝く。
木を伝ってきたのだろう。戦っているところを見たことはなかったが、これを見れば一目瞭然だ。運動神経が良いという域を遥かに超えている。
三メートル近くあるにも関わらずスッと静かに着地した。
「すまないな。遅れてしまった」
少しだけ乱れた髪を整えながら言った。
「やっと来たわね、そっちはどうだった?」
「こっちはもう片付いた。後は『翠光館』付近だけのようだ、早くそっちに応戦した方が良さそうだ」
『こっち』とは展望台の上で確認された三人以外の別動隊のことで、その処理をしていたのだ。御影先輩と部長の二人で戦っていたが、俺たちのことが心配だったらしく、その場の御影先輩に任せてこっちに来てくれたようだ。
「それもそうね、乃々ちゃんは悠里をお願いできる?」
「まかせておけ、ホテルで休ませることにする」
「お願いするわ、私たちはあっちに応戦する!!」
御影先輩はユー背中に楽々と抱える。このへんは流石としか言いようがない。女子であるが、筋力などのステータスは俺よりも断然上なのだ。
中央の噴水の通りまでは一緒に行動し、そこから二手に分かれることにした。
俺と部長はそのまま中央を横断する。
林の手前に風紀省の四人の小隊がG3やM4を持って待機している。
中からは銃声が響き、かなり激しい戦いになっていることが予想される。
そして南門には赤いパトライトが何個も点滅している。あれは救急車だ。この都市にパトカーはない。警察自体がないからだ。その代わりと言ってはなんだが、緑色の車体が特徴的な風紀省の車がある。
怪我人が出たことは間違いないだろう。下手をすれば死人も出ているかもしれない。
相手はターゲットの最後の一人と軍事省の部隊なのだから、当然と言えばそれまでだが、炸裂音も聞こえることから手榴弾やグレネードランチャーなども使用されているようだし、そこにも原因があるように思える。
部長が前に出て、小隊の人に事情を聴く。
「おお、君たちが補助として来た、超能力者か!!」
「そんなところです。状況は?」
袖に付いている校章を見せる。
「敵は一人なんだが、銃弾が効かない。軍事は洋館の表に展開している。こっちは裏側から侵入しているが、前線は壊滅的だ」
表情からも察せるが、あと数十分で撤退しそうな勢いである。
確かに能力者相手では銃はあってないようなものだ。その上、銃弾が効かない能力とななれば、さらに不利になることは間違いない。
「京四郎、前線に私たちが出よう」
「本気ですか、部長?」
「大マジよ」
確かユーから借りている『SIG SAUER P250』の残弾はさっきの戦闘で全弾撃ちつくしている。
そのことを部長に銃を見せて知らせる。
「予備のマガジンくらい持てって、それ悠里のじゃんどうしたの?」
「溺れた時にUSPが水没しまして」
「ああ、あの時!! あれは笑ったわ~」
「知ってるんですか?」
あの時確かユーと九条先輩と生徒会長しかいなかったはずだが?
「実は外にいたのよ」
「だったら助けてくださいよ、本当に死ぬところでした」
「こっちにも諸事情があってね。ところでどうやって助かったの? あんな濁流に呑まれたら普通死んでるわ」
「色々あって生きてます」
あの時助けてくれたのはシルだが、部長の前でそれを言うのは止そう。百パーセント不機嫌になる。
「別に濁さなくてもいいのよ。シルシィでしょ?」
「良くわかりましたね」
「京四郎が行方不明になった後、シルシィ・レイステラと一緒に戻って来た。そんなに予想が難しいわけでもないわ」
「なるほど」
確かに、あのあと一番最初に会った時はシルと一緒だった。
シルが助けたとわかって当然だ。
「銃があれば戦えるってわけね」
「一応は」
「ちょっと待ってなさい」
部長は南門に走って行ってしまった。
それから風紀省の小隊と一緒に待っていると、一分経たずに走って帰って来た。往復四百メートル近くはあるというのに、随分足が速いんだな。
手には『H&K USP』が握られている。
「はい、これ」
「まさかと思いましたけど、風紀省から?」
「そうよ、負傷した隊員から借りてきたわ」
押し付けられるように渡され、俺はやる気はないわけではないのだが、武器がないことを口実に前線に出ないという考えを潰された。
水没した方を小隊に預けて、新しい方をガンホルダーに装備する。
欲を言えば、替えのマガジンが欲しかったところだ、何とかなるだろう。
「それじゃ行くわよ!!」
俺はノリノリの部長の後ろに着いて、林へと突入した。




