Short Holiday(9)
それからというもの、ホテルの中は外観をみただけで大きいことは重々承知のはずだったのだが、あまりの広さと豪勢さに酔ったというか、警備が主任務なのだからと意気込んで隅々まで捜索してようとか思っていたのだが、タワーのある中央部、『セントラルエリア』
の十階まで見て回った所で一端休憩することにした。
もう既に十二時前、一時間半も歩いたのにまだこのエリアの半分も見きれていない。
もう少し人数を増やすべきだと思うが、事情がある以上しかたのないことだ。
軍事委員会がもっと積極的に動いてもいいと思うのだが、今のところそういう情報は入っていない。
中はまるで地下街のような賑わいでテナントがたくさん入っており、まるで、札幌地下街、見た目も考慮すると札幌JRタワーのような感じだろう。
テナントと言っても飲食店も服屋、雑貨屋となんでもありそうだ。
ホテルのイメージが若干崩れる。言うならショッピングモールとカジノとホテルが併合した感じだ。
そういえばカジノはどこにあるんだ?
見回っていて一度もカジノこっちみたな看板はなかった。
「ユー、カジノの場所知ってる?」
「地下よ」
「ああ」
道理でそれらしいものがないわけだ。
それに地下の方が都合は良さそうだ。
「行ってみる?」
「そうしたいが、まずは十階制覇が先だ」
そう意気込んだものの、それから一時間、昼ごはんでユーが騒ぎそうだったので、指定された場所で食事をすることにした。
セントラルエリア展望台十二階『花月』という和風料理の店だ。『月』の文字があるのでまた理事長が経営しているとかそんなもんだろう。
外観の檜とかの木製の枠組みに細い木が何本も等間隔と並べられていて中が見えるようになっており、和紙で覆った四角いランプが壁に数か所、それに床には黒い石が式吊られていて少し大きめの平たい石が店内へと続いている。
またまたコピー用紙の登場だ。
書いてある通り「風紀省で予約した」などと言うとすぐにわかり、通してもらった。
席に案内されると見知った顔がもう既に座っていた。
「遅かったじゃない、待ったわよ」
それは御影先輩と部長だった。
「すみません、意外に広かったものですから」
「だよね~、私は外が暇過ぎたから風紀委員にまかせて中でショッピン……じゃなくて警備していたのだ」
なんか語尾がおかしくなってるが今がそこじゃない。
「部長もしかして満喫してたんじゃあ……」
「警備よ、警備!!」
「じゃあ横に置いてある無数の紙袋は何です? というか御影先輩がいたのに何でこんなんなって……」
「スマン、私はこれに負けてしまったのだ」
これっと言ってすごくカラフルな紙袋から出したのは立派な箱に入った万年筆だ。しかも赤系色でみためが可愛いデザインだった。
「いや、もうわかりましたので、もういいです」
「そうか」
万年筆をしまう。
それをきっかけに女子的買い物に火が付いたらしく、そのまま店を一通り回ったとか。
その後もグダッとした会話をしている内に料理が来る。
会席料理みたいに少しずつたくさんの料理がある。マグロ、サーモン、うに、イカの刺身、筑前煮、海老とレンコンの天ぷら、かにの味噌汁、和牛のすき焼き風煮物、漬物、茶わん蒸しとかかなりの数だ。
それらをものすごい速さで平らげたユーがもの欲しそうな目で見るので、ペットにエサを与える感覚で半分くらいやってしまった。
俺はあげるのが楽し過ぎて自分の分の食べ忘れることがあるが、今回もやってしまった。
それからは再び別れて警備に戻る。
部長たちにはしっかりやるように念を押しておいた。
それからはタワーに食事のため最上階まで登ってはいないが時間がかかるし早く肝心のカジノへ行きたかったので回ったことにして次に行くことにした。
エレベーターで一階まで下りて、案内板とかで確認しながら進むと中央に地下へ行くエスカレーターがあった。
灯台下暗しとはこれだ。正面入り口から見える場所にあったのだが、見落としていたようだ。
エスカレーターを下りて、地下一階、受付とか、換金所があり、最初に見えるのはスロットなどの低レートの機械だ。
地下二階はテーブル系のゲームになっていているようだ。ポーカー、ダイス、ルーレット、パカラ、ブラックジャック、ビッグシックスなど定番のゲームがある。
地下三階からはVIP専用らしく、俺たちでは入ることはできない。
あらゆる所で接客のバニーガールがいる。
あんな恰好で恥ずかしくないのだろうか。
当然だがカジノ内は撮影禁止となっており、さらに監視カメラが多数、死角がないように配置されている。
それに警備員も多く配備されている。帯銃しているようだし、軍事省とかの人を雇っているのだろう。
スロットから出る高音はかなりうるさく響いている。それに騒がしい。
こんな時間だが人はいる。ピーク時の半分くらいだろうが、こんなにいれば十分だろう。
俺たちは高校生なのでカジノで遊ぶこと、現金をチップに替えることができないので遊ぶことはできない。
本当にただの見回りになってしまう。
そのために来たのだから別にかまないのだが……。
カジノも上のフロアと同じ大きさなので隅々まで見るのは大変だが、とりあえず一周回ってみることにした。
スロットが大量に並べられていて迷路のようになっている。
一番奥まで行くと途中、行き止まりの場所を見つける。
見つけたのはユーだ。
「ここ入れるわ」
とか言って看板を押したのだ。
するどい感と言うべきだろう。
まさかスロットとスロットに間にあった可愛いメイド服のアニメCGが描かれた等身大看板を避けると裏に入る道があるなんて誰も思うまい。
スロットの高さは2m近くあり隣同士が固定されているので裏を見られるような隙間もない。
「ただのスタッフ用の通路じゃないか?」
「そうとは限らないわ、ここを見て」
ユーの細くて白い指が床を指す。
「埃かぶってるな」
「この通路は長い間つかわれていないわ」
「なるほど」
「行きましょう」
先はユーの言った通り行き止まりだが、重そうな非常口っぽい金属の扉があった。
鍵がついていて開きそうにはない。
「『Z1192』」
その言葉で今朝のことが蘇る。
「まさか、そこが」
「そうよ、ここが侵入の形跡があった倉庫への扉よ」
「何でこんなところに……」
「何であんな機密情報をわざわざ言ったと思う?」
いつになく真剣な表情で言う。
「なるほど」
「そう、このカジノの地下で隣接する場所、『Z1190』はこの反対側」
カジノの両サイドに侵入の形跡はあるというとは、先客がいる可能性は高い。
「でもここから侵入したわけではなさそうだな」
「そうね」
俺たちが通った後は埃が足跡となって残っている。
さっきまでは誰も通ってないことになる。
だがそんな安心もすぐに失うことになる。
ユーが回したドアノブはギギーッと鈍い金属音を立てて開いたのだ。この先は関係者以外立ち入り禁止のエリア、鍵のかけ忘れなんてありえない。
「鍵が空いているわ」
誰かが先のここから入っている、または出ていっているということになる。
「でもこの通路が使われて形跡はない」
可能性としては、痕跡を消す能力とか壁を這う能力、重力をなくす能力などが考えられるが、周りに与える影響を考えると、どれもここの通過方法としては難しい。
壁に何か痕跡がある訳じゃない。
天井を移動することも考えたが、これも能力としては存在するかもしれないが、天井は4m近くあり、他の通路からを見える可能性がある。
「入ってみる?」
彼女には恐怖心とかそういうものはないのだろうか。正直なところわざわざ敵の居そうな場所に飛び込むことはしたくないが、
「行ってみよう、でも危なかったらすぐに引き返すからな」
「そう?」
『私なら余裕だよ』的な言い方だったが、相手は得体の知れない敵なのだから慎重の動くことに越したことはない。
「そうだ」
「それじゃ行くわ」
何のためらいもなく静かに開かれて扉の向こう、薄暗く冷たい廊下へ、足音を立てずに入って行った。




