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可愛い邪神から水を操る力を与えられた僕は、楽しい毎日を送っています!

 夢を見た。


 全然知らない、四人の人たちと遊ぶ夢。

 水恩(すいおん)が作った、色んな国の家がある神域で、笑顔で語らう夢。


 夢だから、おかしなことが起こっても何ら不思議ではないんだけど、なんで、あんな夢を見たんだろう。同年代の友達とすら、遊んだことないのに。


 僕の卑屈な言葉にも、嫌な顔も呆れた顔もせず、静かに聞いてくれた。

 ……ああ、一人だけ、ムキになって言い返してきた奴がいたな。


 でも、暴言を吐かれることはなかった。

 きっと、僕が作り出した『都合のいい友達』だったからだろう。


 ×××


 「……久しぶりに、楽しい、と思ったな」

 池を泳ぐ鯉に餌を投げながら、僕はぽそりと呟いた。


 今、僕が……僕と水恩がいる場所は、縁哭(ゆかりな)さんの神域。

 こちらも、力を増したお陰で、すごく広くなってしまった。


 池の周りには、僕たち以外にもたくさんの人がいた。

 皆、縁哭さんが作り出した人たちだ。


 「わぁ!来た来た!!」

 「綺麗ねぇ……」


 二人のお姉さんの声に、僕は振り返る。

 白無垢を着たお姉ちゃんが、縁哭さんと一緒に歩いてくる。


 はにかむ顔を、桜の花びらが撫でてゆく。

 みんな、「ほぅ」と溜息を吐き、お姉ちゃんに見惚れている。


 「長かったわねぇ」

 水恩の言葉に、僕は「そうだね」と素直に頷いた。


 今日は、お姉ちゃんと縁哭さんの結婚式。

 目の前のお姉ちゃんは、十七、八歳くらいの見た目をしている。


 肉塊めいたところはどこにもなく、僕が知っているお姉ちゃんよりも、健康的で明るく、縁哭さんに寄り添い幸せそうに笑っていた。


 ああ、もう、『お姉ちゃん』って言うのも良くないか。

 恨哭(うらな)さん、だ。


 縁哭さんと恨哭さんは、池の中央に建てられた、和風な舞台の上に移動する。

 正直、厳かすぎて肩が凝ってきた。

 

 僕が神域暮らしを始めてから、本当に長い年月が経過した。

 何時の頃からか、数えはしなくなってしまったけど。


 ただ、お父さんとお母さんが転生したという話を、随分前に聞いた。

 でも、生まれた時代は、未来ではなく2000年の僕らが住んでいた県。


 そう、二人が『良い時代に生まれて来たな』と言っていた時代。

 その時の、縁哭さんの行動は早かった。


 二人が生い立ちを知り、『あることに対する嫌気がピークに達したとき、前世を思い出す』という呪いをかけた。


 昔の縁哭さんだったら、こんなことできなかっただろう。

 でも、今は違う。


 多くの参拝者を持つ、『すごい神様』だ。

 二人を守護する神を退ける事くらい朝飯前――。


 ×××


 お父さんは、(ややこしいけど)お父さんそっくりの人が父親な家に生まれた。

 娘として。


 少女漫画、恋愛映画、アイドル、……そう言うのを、鼻で嗤う人。

 そして、とても暴力的で母方の親類縁者を見下すような人。


 外に向けるのは笑顔なのに、家の中(家族)には怒りしか見せない人。

 言ってしまえば、モラハラ内弁慶。


 だから、お父さんは愛を知らずに育った。

 もっと言うと、誰かを愛しては駄目だ、と思いながら怯えて生きてきた。


 父を怒らせない、が一番重要で他は二の次の日々。

 友達の作り方も、将来の夢も、明日を生きる楽しみすらない。


 そして、35年の月日が流れた。

 その頃には、自分の育って来た状況のおかしさを、少しは理解していた。


 けど、染みついてしまった『恐怖』が取れるはずもなく、家では生の父親の怒声を、会社では幻聴の父親の怒声を聞くだけの日々。


 どれだけ『毒親』という本やネットの記事を見ても、逃げられない。

 生まれた『ガチャ』の不運を呪い、お先真っ暗な未来を想像する。


 そんなあるとき、事件は起こった。

 爽やかな秋の風が気持ちいい、日曜日の午後――。


 「お前も早く結婚して、社会に貢献しろ。従妹のKやDを見習え!」

 

 少子化のニュースが流れて、お父さんはお父さんは(娘)にそう言った。

 お父さんは(娘)の頭に、『親ガチャ大成功』の従妹の顔がよぎる。


 そりゃあ、『夫婦』ってものに希望が持てている人は結婚できるでしょうね。

 男を見ても、「どうせ殴って、暴言を吐くんだ」って思えないんだから。


 ……好きになった相手のことを、信じられるから。

 こぶしを握り締めたお父さんは(娘)に、お父さんは続けた。


 「何のために、その腹があるんだ?ただでさえ、クリスマスケーキなのに」

 ぷつん、とお父さんは(娘)の中で、何かが切れた。


 「お前の所為だろうが!お前の所為だろうが!!お前の所為だろうがっ!!……いいよなぁ、お前は!どんな育て方であれ、社会に貢献されたんだからっ!!」


 近くにあった花瓶をぶつけ、何が起こったのか分からない、といった目をしている父親の体を包丁で刺す。

 

 刺す、刺す、刺す、刺す、めった刺しだ。

 悲鳴を上げているだけの、助けてくれなかった母親も刺す。


 前世を思い出したのは、その時だ。

 羞恥にまみれたお父さんは(娘)は、自分の喉を掻っ切った。


 ×××


 お母さんの方は、キャリアウーマンな人生を歩んでいた。

 気が強くて負けず嫌い。


 言いたいことをはっきりという性格、……と言えば聞こえはいいけど、きつい言い方で追い詰めた人たちは数知れない。


 サバサバしているを履き違え、攻撃的な口調と高度な揚げ足取りで相手を追い込んでいるにもかかわらず、それを『ちゃんと話し合った』と思っている。


 一見、話し合いをするように見せかけて、最初から聞く気がない。

 そんなお母さんは大人になり、結婚した。

 

 穏やかで優しくて、少し気弱な人。

 『主夫』になったその人を、お母さんはイジメぬいた。


 いや、『自分は正しい』しかない人だったから、イジメと思ってもいない。

 謝る夫にイラつき、物を投げる。


 冷蔵庫のものの置き方がダメ。

 テーブルクロスが(ほんの少し)ズレている。


 コップを置くときは、とってのある方を――。

 そんな日々が続き、ついに旦那は鬱になった。


 でも、お母さんは『甘え』と突っぱね、今まで以上に苛立った。

 自分の所為でそうなったと、認めたくなかったんだろう。


 自分の行動一つ一つにビクビクする旦那に、更に苛立ち暴言を吐く。

 吐かれる方も、洗脳に近い形になっていたからか、逃げだせずにいた。


 不眠症になり、朦朧とした意識のまま、ベランダから飛び降りた。

 前世を思い出したのは、その時だ。


 お母さんは、お父さんに同じことをされていたとき、「昔は優しい人だったから」と自分に言い聞かせていた。


 でも、心の片隅では「私がこの人の立場なら、絶対に相手に優しくするのに」とも思っていた。……まぁ、結果は最悪なものになった訳だけど。


 『上』の立場が与えられても、お母さんは『優しく』なれなかった。

 むしろ、嬉々として相手を虐げた。


 羞恥にまみれたお母さんは、ベランダから飛び降りた。


 二人とも、似たような思いを抱えて死んだ。

 だが、その『羞恥』が何に対する羞恥なのかまでは分からない。


 自身の行動に対してなのか、それとも別の『何か』なのか――。


 ×××


 とはいえ、前世を思い出したから、反省したから、といって今生の罪が消える訳じゃない。また地獄に落ちて、長い時間をかけて罪を償わないといけない。


 話を聞いたとき、僕は乾いた笑いを漏らしてしまった。

 また人間に生まれ変われたとして、『いい人』になっているかどうか。


 もしかすると、『見込みある魂』として、地獄の人たちから重宝されているのかもしれないけど。だとしたら、また人間に生まれ変われるかもね。


 いや、もう何度も生まれ変わって、似たような人生を歩んでいるのかも。

 でも、縁哭さんの力が発動したのは一回だけ。


 縁哭さん曰く、一回やれば気が済んだ、らしい。

 まぁ、そんなことよりも、お姉ちゃんに集中したいよね。


 僕も、そこまで興味はないし。

 ぱちり、と白無垢を着た恨哭さんと目が合った。


 綺麗としか言いようがない、穏やかな笑顔。

 ほんの少しだけ、懐かしさがこみ上げてくる。


 僕のことを「お兄ちゃん」と呼んでいたのも、もう昔の話。

 今は、お兄ちゃんでないことを理解し、名前で呼んでくれる。


 なんで「お兄ちゃん」だと思ったのかとか、どうして自分の体が肉塊だったのかとか、詳しい説明は何もしていない。


 恨哭さんも、そこまで聞く気はないみたい。

 それが気にならないくらい、幸せなのだろう。


 ×××


 結婚式を終え、僕は水恩の神域へと帰ってきた。

 勿論、隣には水恩がいる。


 時刻は午後五時。

 何度も見ている夕焼けが、今日はやけに綺麗に見えた。


 僕は水を操り、空に夕虹を作る。

 赤い空に浮かぶ虹は、とても幻想的だった。


 このまま家に帰る、というのも気乗りしなかったから、水恩と二人で、初めてであった場所へと向かう。


 神力によって作られた、偽の『初めて出会った場所』。

 それでも、とても懐かしく感じられる場所。


 僕は水恩に、午前中の紅茶『レモン』を差し出した。

 二人して、近くの岩に腰を下ろし、ぼんやりと風に吹かれる。


 「……ねぇ、水恩」

 「なぁに?」


 「僕らが初めて出会った日から、もうずいぶん経つよね」

 「そうね。今思うと、あっという間だったわ」


 「その間に、世の中の価値観って変わったわけじゃん?」

 僕が何を言おうとしているのか分からないようで、水恩は首を傾げた。


 「それでも、僕は水恩と一緒にいたい」

 僕は、神域でこっそり作っていた、腕輪を水恩に渡す。


 長い時間をかけて、細かなビーズ細工を施しに施した物だ。

 正直、美術館に飾られたっていい、とさえ思っている。


 「……貴方こそ、私でいいの?」

 「水恩がいい」


 僕が即答すると、水恩はにっこりと微笑んだ。

 腕輪をつけ、僕に抱き着いてくる。


 「僕たちもさ、縁哭さんたちみたいに結婚式を挙げる?」

 背中に回された腕の力が、少し増した。


 ……すごい人生を、歩んでいるとは思う。

 でも、僕の過ごしている時間は、どことなくしょぼい。


 すごくてしょぼい……すごしょぼい人生だ。

 でも、それでいいのだと思う。


 刺激と言えるものはないけれど、幸せなのだから。

 これからもずっと、僕はこの神域で生きてゆくのだろう。


 もうすぐ、夕日が沈む。

 明日も、綺麗な青空が広がっていることだろう。


                     

 ハッピーエンド。

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