10. 布団の押し売り
あるところに、ケルテースというチンピラがいた。
ケルテースは懇意にしている兄貴分に、安い布団を大量に押し付けられて困っていた。
そこで彼は思いついた。
無理矢理にでも売りつければいいじゃない、と。
【エルシェー】の近くにある、のどかな村。
その位置から、旅人が泊まることは滅多に無い。一息つけるお団子屋さんのほかは、ほとんどが民家である。
外部の人間の干渉が少なく、しかも村人は年寄りばかり。犯罪もまず起こらないため、憲兵も常駐していない。
ケルテースにとって、これほど目的を実行しやすい場所はなかった。
彼が持っている布団の購入価格は、せいぜい1組5,000フォート。それなら、1組あたり5万フォートで売ればいい。
売れないって? 売るんだよ。
彼は荷車にたくさんの布団を乗せ、村まで押していった。
布団はよく売れた。
よく絡むグループの中では実力もからっきしで、組織では下っ端だった。それでも年寄りを相手に若くて長身の男が押しかけたら、大抵上手くいく。
1人暮らしの老婆は、特に良いカモだった。
中には、1人で5組以上買ってくれる婆さんもいた。
「本当は2万フォートなんだ」とか「雲に包まれた寝心地だ」とか言ったら、買ってくれる爺さんもいる。けど、その程度じゃあまり売れない。
相手がなかなか買ってくれないしぶとい爺婆だったら、「買ってくれるまで帰らない」と玄関先に座り込む。
この村は、ほとんどが1部屋しかない狭い家ばかり。玄関からでも家の隅まで見渡せる。
玄関で家の中にいる住人を睨みつけてたら、根負けしてようやく買ってくれるのだ。
ケルテースの兄貴分はどんどん彼に布団を押し付けてくるが、むしろケルテースにとって渡りに船だった。
すでにケルテースは、この村だけで500万フォートを稼いでいた。短期間で庶民の2,3年分を稼いだことになる。
半分くらいは取ってあるが、それでも好き勝手遊ぶには十分だった。
とはいえ、いつまでも同じところに居座ってたら、村の連中がその内危ない奴を連れてきそうだ。
そろそろ引き際だと、ケルテースは考えていた。
♦
「加害者はケルテースという30歳前後の男。不定期で【エルシェー】から布団を大量に持ちこみ、村人に強引に売りつけています。これまでの被害総額は、少なくとも300万フォートにも上る見込みです」
「なるほど」
「不定期とは言っても、前回村に訪れた日を考慮すると、数日以内に再びやってくるものと思われます」
「了解。ご苦労だった、ラウラ」
「はっ。…………ナニコレ?」
ティサさんの家の中で、俺は腕を組んでラウラの報告を聞いていた。
「ん? 刑事ドラマごっこだよ」
「キリル、ふざけてるの? 私は真剣なんだよ」
「ゴメンナサイ、ナンデモアリマセン」
ラウラは村全体が押し売りの被害に遭っていることを聞き、何とか解決したいと言い出した。
そこで、まずは情報を集める必要があると俺が言うと、直ちに村を回って住人に尋ねてきたのだ。
俺よりラウラの方が向いてると思ったから任せたのであって、決して面倒くさいとか、知らない人と話すの怖いとか思ってないんだからね。勘違いしないでよねっ!
「あの、キリル?」
「はい」
「ちゃんとして」
「…………はい」
ラウラの眼光に怯み、俺は胡坐から正座に切り替えて委縮する。
「どうしたんだい。キリル君が浮気でもしたのかい?」
2人が神妙な面持ちで向き合っているところに、ティサさんが帰宅した。
「はい、50年前のティサさんに」
「フフフ、キリル君は冗談が上手だこと。でも50年前じゃ私は70歳だね」
「「…………え!?」」
まだ足腰はしっかりして、頭も全然ボケる気配もない。
顔だってまだまだ若々しい。てっきり今70歳くらいだと思っていた。ところが、そんなティサさんは120歳だという。驚くなと言う方が無理ってものだ。
「ところで、2人は何をしていたんだい?」
「お、そうだった。ちょっくら悪い人を懲らしめてこようかと思いまして」
「おや、正義のヒーローだね。怪我しないように気を付けるんだよ」
「は~い」
そう言うとティサさんは再び家を出ていった。
120歳、かなり活動的だ。
「で、キリル。どうするの? 普通に抗議しても、取り合ってもらえるような相手じゃないと思うわ」
「ま、そうなんだよね。でもそれなら、こっちはこっちのやり方でお金を取り返そうかなと」
「……どうやって? この前みたいに、また変なことするの?」
それは、俺がボチャーナト商会で契約書の記載をごまかしたことを言ってるんですかね。
「でも、その変なことでラウラは助けられたんだよね」
「そ、それはそうだけど……」
不当に取られたものを取り返そうとしているのだから、今からやることも許容範囲だというのが俺の理論だ。
目には目を、歯には歯を。悪徳商法には悪徳商法を。
あ、“悪”って言っちゃったよ。
「それで、具体的な方法なんだけど……」
「ふむふむ、なるほど……」
俺はラウラと頭を寄せ合い、自身の構想について語った。
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