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第五部 第二十章 第二十六話 妖精王の祝福


 ペースが遅くて本当に申し訳ありません。

m(_ _)m


 何とかならんかな、創作時間の確保……。

 

 ロウド世界に住まう者の髪色は限定されている。黒、白、赤、金、銀が基本色となり、それ以外は比率の差はあれど基本二色を混合した色合いになるのが基本だ。


 但し……特例がある。


 一つはそもそも人間でない場合。そしてもう一つは何かしらの因子が入り込んだ場合だ。


 ドラゴン種は人型をとった際の髪色が種族毎に分けられている。火竜なら赤、氷竜なら青、地竜なら茶、といった具合に統一されているのだ。特異個体である黒竜も同様で黒髪になることは確定していた。

 ただ、ディルナーチ大陸側に住まう龍種はその例に当たらない。彼等は後からロウド世界に加わった為にその辺りの法則性は曖昧なのだという。


 聖獣や霊獣の場合、人型になれる者は本来の己の姿に近い印象の髪色が反映される。故に人間に存在しない桃色や紫などの場合もあるが、人との違いにより正体に気付かれぬよう不自然のない姿に擬態していることも多い。これは人型を形成するまで進化した魔物も同様だ。


 そして妖精族……。森と共に存在する彼等の髪色は、やはり濃淡に差はあれど一族全員が緑系統である。


 つまりエメラダは妖精族由来の可能性が高い。が、その体は妖精族の様な掌に乗る大きさではなく人間そのもの……つまり何かしらの変化を起こしたと考えられる。


「……。あまり驚かない様だな」

「ハハハ……。予想外は慣れてますから。その髪は妖精族が関係してるんじゃないですか?」

「貴公は妖精を見たことがあるのか……?」

「住まいに妖精が一緒に暮らしてるんです」

「! そうか……やはり特殊な存在なのだな、貴公は。……。この髪は『妖精王の祝福』と言うそうだ。このまま立ち話もなんだ……茶を飲みながら話そうか」


 エメラダは存在特性を使用し家具を元の位置に戻した後、己の髪色の由来を語り始めた。



 スタグメリント領はドレンプレル領と遠いながら血縁関係にある。それは数代前のドレンプレル領主令嬢が嫁いだ過去からの慣例らしいが、大領主との縁は繋いでおきたいというスタグメリント領の政治的意図もあった。

 特に娘が誕生した際は積極的にドレンプレル領との縁談を進めようとしたという。


 しかし、スタグメリント領主は近年男系の子息が続き長らく縁談を結ぶことができないでいた。


 そんな中で生まれたのがエメラダだった。血の繋がりが薄くなることを避ける為、幼いながらもエメラダは直ぐ様ドレンプレル領への挨拶へ向かうこととなる。


「私がドレンプレル領に向かったのは二度……。最初の挨拶の際にはボナート殿、それとグレス殿と挨拶をした」

「それは覚えている。ただ、エメラダ殿の髪色は金だった筈だ。それに二度目は確か急病で引き返したと聞いているが……」

「その通り……。この髪は生来のものではない。後天的に変化したもの。それが二度目の来訪の時に起こった」


 ドレンプレル領への交流の際、スタグメリント領主は所要でいつもと違う旅路を辿る。そのルートでは領内を通るよりも他国を経由した方が早くドレンプレル領へと入れるので馬車を乗り換え素性を隠し他国の国境を抜けることにしたのだ。


 その国こそがかつてのリーブラ国──。 


 所要の為に予定が遅れ日が傾いてしまいリーブラ国内の旅籠に宿泊することを決めたスタグメリント領主一行。そしてエメラダは不思議な夢を見る。


「気付けば緑溢れる一面の花畑に居た。虫翅に美しい緑の髪の妖精に誘われ幻想的な景色の中を遊んだ」


 やがてエメラダは花畑にいつの間にか現れた高貴な服装の人物に告げられた。


『心清らかなる者よ。君は何が欲しい?』


 この言葉にエメラダが願ったのは両親への恩返しだった。父のように領地と民を守るのだと願いを告げた時、その人物は柔らかな笑顔で答えた。


『その願い、叶えよう。君にはその資格がある。少しばかり苦労はあるが必ず後に願いは果たされるだろう。頑張りなさい』


 宿で目覚めたエメラダの髪は翠玉の輝きに変わっていた。領主は慌てたが夢の話を聞き納得したのか居城に引き返すことになった。

 その夜、領主たる父とリーブラ国出身だった母が諭すように真実を伝えた。


「【妖精王の祝福】とは妖精王が与えるあらゆる災いから逃れることができると言われているとてもありがたい加護なの。でも……大きな力を得られる反面、人と違うものになったという好奇の目に晒されることになるわ。かつては『取り換え子』なんていう迷信もあった程……」


 それからエメラダはその身を守る為に【病】という理由を付けて屋敷から出られないようになった。更に領主はそれだけでは心許ないと念の為に顔を魔導具の仮面で隠すよう命じる。病により顔が爛れ人前に晒せないということにしておけば仮面の理由としては十分だった。


 髪を隠したエメラダではあったがその力は増していった。魔力は高まり存在特性まで目覚め、その上身体能力も向上した。

 だからエメラダは正しく力を使うことを目指した。その結果が領主である。


(妖精の祝福か……。後でウィンディかメトラ師匠にでも聞いてみようかな)


 エメラダの話を聞き終えたライはふとボナートは知っていたのだろうかと視線を向ける。ボナートは何処かうわの空に見えた。


「ハハハ……。ボナートさんも知らなかったんですね」

「あ、ああ……。昔のことは覚えてる。だが、まさかこんなに……」

(ん……? もしや、このパターンは……)


 ボナートの視線はどこか熱を帯びている気がする。ライは素早く事態を察知するも何はともあれ話を進めることにした


「それで改めてなんですが……エメラダさんの俺への認識はどうなります?」

「ああ……貴公を信用しよう、ライ・フェンリーヴ」


 ライがその気になれば魔力不使用の取り決めを破り魔法で洗脳するのも容易だったことはエメラダ自身が理解している。ライは誠実に剣士として向き合い信用を勝ち得たのだ。


「それなら良かった」

「その件に関して、ボナート殿……」


 言葉を区切ったエメラダは突如立ち上がりボナートに頭を下げた。


「済まなかった。私は貴殿の『ライ・フェンリーヴとの交流提案』を無視し対峙した。これはドレンプレル領に泥を塗ったに等しい行為……その責めは幾らでも受ける。だが、領民にはどうか類が及ばぬよう願いたい」


 スタグメリント領での予期せぬ出会いだったが、ボナートはライとスタグメリント領の交流……というより連携を提案していた。それは後々のトシューラ国を考えての申し出ではあるが当然エメラダは半信半疑だった。それも踏まえての手合わせによる確認……この点に付いてボナートも理解している。


 だが……エメラダにとってはそうではない。様々な支援や協力を受けている大貴族メルマー家の言葉を蔑ろにし、あまつさえボナートの友と言える存在へ剣を向けた。これは貴族社会では致命的な侮辱と取られる事案だ。


「落ち着いてくれ、エメラダ殿……。貴公の判断は寧ろ領主としては正しい」

「しかし……!」


 エメラダは頑として譲らない。ライに目配せしたボナートは大きく溜息し穏やかな口調で告げる。


「今後の話をするのだろう、エメラダ殿? 目が合わせられねば本気の会話はできないと思うぞ」


 エメラダが渋々ながら腰を下ろすのを確認し茶を口に含んだボナートは穏やかな表情で語り始める。


「さて……。先ずエメラダ殿は勘違いしているみたいだが……本来ならば国家のお尋ね者になっているライを信じろと言った俺は反逆者だろう。違うか?」

「しかし、それは……」

「まぁ聞いてくれ。俺はトシューラ国に反逆する意思はさらさら無い。しかし、ライは恩人で頼れることは……前も話したと思う」

「ああ……」

「だが、実情それを他領主に言ったところで王家に密告されてドレンプレル領は解体されるのがオチだ。親類であるエメラダ殿でさえ半信半疑だったからな……。しかし、この先の大戦がどの規模になるか分からんから領主の連携はどうしても先延ばしになる。それだと闘神への備えに間に合わなくなる気がしたんだ。とはいえ今回は(いささ)か急ぎすぎた」


 エメラダは黙って頷いた。ボナートの言葉は正しいと思ったのだ。


「ライとの連携については簡単に言えば今後を見据えたドレンプレル領……いや、俺の賭けだ。それに対しエメラダ殿がどう反応していたとしても覚悟はしていた。気に病むことはない」

「だが……」

「いきなり混乱させるような真似をした俺も悪かった──という訳でお互いこの件はチャラにしないか?」

「……。心遣いに感謝を」

「そういうのも無しで願いたいんだ。エメラダ殿はライを認めた時点で協力者と思って良いんだろう? なら、対等であるべきだと俺は思う」

「……では、私のことは敬称を付けずエメラダと呼んで欲しい」

「ならば、俺のこともボナートと呼んでくれ」

「承知した」


 トシューラ貴族二人が固い握手を交わす姿にライは笑みを浮かべた。


「ん……? 何だ……?」

「あ、いえいえ。今のエメラダさんの姿と言葉遣いに少しだけ違和感があったのでつい……」


 一見して慈愛に満ちた顔付きのエメラダはその声も人を和ませるように柔らかなものだ。仮面を付けている間は男の声だったことから魔導具の機能なのだろう。


「それは……流石に慣れて貰うしか無いな。この話し方はもう染み付いてしまっている」

「それって……」

「間違いなく色狂い王子のせいだろ……?」

「……ああ」


 トシューラ国第一王子リーアは女に対する執着が異常だったことはライも聞いている。特に変わった特徴を持つ美女に対してはどんな卑劣な手段を用いても手に入れようとしたらしい。

 エメラダの髪と容姿は明らかにその対象となる。仮面はリーアの魔の手を逃れる手段だったのだろう。


「偽装は父の提案だ。『病の影響で醜い娘』となれば流石にリーアも気に留めなかったのだろう。目を付けられず済んだ。が……」

「何か……?」

「婚期はかなり遅れてしまったな。この言葉遣いも今更簡単に直るものでもない故、子は望めないだろう。領主の地位は親類に渡ることになる」

「あ〜……成る程」


 ロウド世界の貴族の婚姻は基本的に早い。魔物や魔獣がいる厳しい世界で大国同士の睨み合いもある。跡継ぎの確保は一族の繁栄には不可欠な要素ではある。

 聞けばエメラダは齢二十三と若いが貴族としては遅いのだろう。言葉遣いに至っては女性に包容力を求める貴族社会には確かに難があるかもしれない。


 だが……その点に於いてつい今し方解決したことにライは半笑いだった。


「慣れちゃえば言葉遣いなんてのは気にしなくて大丈夫ですよ〜。ねぇ、ボナートさん?」

「えっ? ああ……そ、そうだとも、エメラダ! その程度は些事だ!」

「フフ……。ならば良いのだがな」


 ライの見立てではボナートはそこまで奥手ではない。有力貴族ドレンプレル領主血筋ならば立場の釣り合いにも不足はない筈だ。加えて王女付きだった経歴はそれなりの功績となるだろう。人格的にも気さくであり視野も広いことを鑑みれば文句の付けようが無いと思われる。


 必要なのは二人の時間……『お節介勇者』の性分としてやはり介入したくなるのだった。


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