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異世界転移物語  作者: くろすく
9/10

俺と昔話


いや本当に新生活って慣れなくて忙しかったです……。いや、今も忙しいんですけど。


遅れてすみません。m(_ _)m

少しずつでも書いていきますのでお付き合いいただけたら嬉しいです。






「おー、流石お城の最上階ってとこか…ってか、まんま屋根の上か」


 転移でやってきたのは城の一番高い塔の屋根の上。そっと下を覗き込むと思わず声が漏れる。

だってさ、東京タワーのガラス張りの床以上の恐怖だぜ?ガラスもないんだぜ?落ちたら間違いなく即死だな。落ちねぇけど。


 フィリスの方を見ると、少し驚いたような顔をしてるけど、やっぱ後悔の方が強いんかな、すぐに眉を八の字にして遠くを見ていた。

 今にも泣きだしそうなその顔を見てると思わず、優はお前のやったことなんて気にしてねえって言ってやりたくなるけど、それを俺が言っても仕方ないし、何より信じてもらえないだろうから俺は何も言わなかった。


 俺は何も言わずに適当に平たくなっているところを見つけて座った。フィリスにも座るように促し、寒くならないように、間違って落ちたりしないように、あと、ないとは思うが登頂とかされたりしねえように結界を張った。


「なあフィリス、俺がなんでお前と一対一でこんなところに来たと思う?」


 俺が聞くと、フィリスは俺の方を見て、何回か口を開こうとして止める、というのを繰り返したけど、俺は何も言わないで待った。


「……私の、せい、で…ユウ様が…」

「違う」


 やっと絞り出した蚊の鳴くような小さな声を俺は一蹴した。見当違いにもほどがあんぜ。

優はそんな弱くねえし、第一、もしも優が本気でやばかったら俺はお前を殺してるだろ。たぶんだけどな。


「お前が優を傷つけただの、困らせただのはどうでもいいってわけじゃねえけど、今は関係ねえ。

そんなもんは優に謝るだのなんだのしてなんとかしろっての。

ちゃんと話せばわかってくれる奴だし、あいつは優しいやつだよ」


 身内限定、だけどな。お前は、というか多分、お前も含めてこの国にいる優に関わった奴らは優にとってある程度は気に掛ける対象になってる。そこまで邪険にはされないだろ。…優が勘で嫌な感じとか持ったりしなきゃだけど。


 優を傷つけたことで俺が呼び出したんじゃないと理解したフィリスはじゃあどうして?とでも言いたげな顔をしてる。うるせえな、これから説明してやるから待ってろっての。


「お前、優のこと気になってんだろ?」

「それは…そうですよ。だって、私のせいで……」

「そういうんじゃなくてさ。好きになったんじゃねぇの?」

「えぇ?!」


 俺が聞くとさっきまでの陰鬱な表情から一変して首まで真っ赤になるフィリス。

あーあー、こりゃ一目瞭然だなぁ。圭吾も一ノ瀬も気づいてるし、他の異世界組も気づいてたし、わかりやすいなー。

ま、当の本人にはバレてねえんだけどな。あいつは敵意には敏感なくせに好意ににはとんと鈍いんだよなあ。


「ど、どうして…?」

「馬鹿にしてんのか。見りゃわかるっての。他の奴らも気づいてんだろ。でもまあ、あいつらは良いやつっぽいから何も言わないでいたんだろ?

ああ、ちなみにお前、母親にも気づかれてんぞ?俺が一対一で話すって言った時にそんな感じの顔してたわ」

「……ええと、ユウ様には…?」


 一通り恥ずかしがった後、ためらいがちに聞いてくる。気づいていてほしくないけど、伝わっていてほしいい。そんな顔だった。


「優は気づいてねえよ。あいつは好きだとかそういうの鈍いんだ」


 俺が言うと、フィリスは伝わってなくて良かったけれど少し残念なような感じの顔をしていた。


 悪いが、ここからが本題なんだよな。中途半端にあいつに関わる気だったら俺はお前を排除しなきゃいけない。俺がこんなことするのはおかしいって思うけど、それでもあいつは俺の親友だから、あいつを苦しませたくねぇんだ。


「なあフィリス。お前、俺が……いや、俺も圭吾も、優のことは諦めろって言ったらどうする?」

「え……?」


 何を言うのか、どうしてそんなことを聞くのか、不思議そうな顔をしてるフィリスに、俺はもう一度、今度はもっとわかりやすく、残酷に聞いた。


「俺と圭吾が、お前に優に近づいて欲しくない。優と関わってほしくない。優への気持ちを捨てろって言ったらどうする?

俺と圭吾なら、お前から、いや、この国の人間から優に関する記憶を消して会ったこともなかったことにすることができる。伊達や酔狂で言ってるんじゃない。間違いなくできる」


 俺が言葉を重ねる度、顔色が悪くなっていくフィリス。ふるふると首を振る彼女に俺は言葉を重ねた。


 今のところは本気でやろうとかは思ってねえけどよ。


「俺も圭吾も、お前が優を傷つけたなんて思っちゃいないし、怒ってもいない。ただできることをできると言ってるだけだ。

だから、お前の答えを教えてくれ。お前がこれから優とどうやって関わっていくのか、どうなりたいのか」

「わ、私は……」

「とりあえずさ、優がどんな奴だったのか、俺らがどんな関係なのか、昔話をしよう」


 何も言えずに固まってしまったフィリスに笑いかけ、俺は、俺たちの話を始めた。



◆◇◆◇



 キョウヤさんにユウ様のことが好きなのか、そう聞かれたとき、私は自分の顔が熱くなるのが分かった。

しかもそれがみんなに知られている…お母様にも、だなんて、これからどうしたらいいのだろうと思って、頭が真っ白になった。



 初めてユウ様とお会いした時、私は息が止まるかと思うほどの切なさを感じた。


 ふわふわ柔らかそうな黒い髪に、優しく包み込んでくれそうな眼差し、甘い顔立ち。

国王の妹の娘、ということで今までかなりの数の男性とお見合いをして、顔立ちの整った方とお会いしてきたけれど、あんなにも心を締め付けられるような、この人と添い遂げたいと思えるような感覚はなかった。


 食事の時、目が合ってドキリとした。彼の瞳に吸い込まれそうで、自分が自分じゃないみたいに心臓がなってもしかしたら周りに聞こえているんじゃないかと。目が合ったのは一瞬のはずだったのに、何十秒も見つめあっていたような気がして、とても恥ずかしかった。


 そのあと、彼と少しの時間だけど魔法の練習をして。けれど彼は……私の手助けなんていらないと思う。それだけの力があると思うから。


 しばらくして、急に彼の顔色が悪くなってどうしたんだろうと思うと、ルアン様のお話を聞いて背筋が凍った。私のせいで、彼が死んでしまうかもしれないかと思うと、私は私が許せなかった。浅学な自分を少なからず呪った。


 彼が倒れるように眠ると、キョウヤさんとケイゴさんが何事もなかったように落ち着いた様子でルアン様に空いている部屋がないかを尋ねて、彼を運んで行った。


 そこからの記憶は曖昧で、ずっと耳に何か詰まったかのような、嫌な耳鳴りがしていた。一人になりたかったけど、一人じゃなくて良かったと思う。一人だったら私はたぶん今ここにこうしていられていなかっただろうから。


「俺も圭吾も、優のことは諦めろって言ったらどうする?」


 そうキョウヤさんに聞かれたとき。ああ、私はなんて馬鹿だったんだ。許してもらえるはずがなかったじゃないか。そう思った。


 けれどキョウヤさんはそのあと、俺も圭吾も怒っていないと言った。優は話せばわかってくれる、とも言ってくれていた。


 けれど、それと同時に、俺たちはお前の気持ちをなかったことにできると言った。あの胸が苦しくなるほど切なくて、けれど欲せずにはいられないあの気持ちを、なかったことにできると。


 嫌だ。真っ先にそう思った。あれを恋と呼ばないのなら、あれが好きという感情でないなら、なんて呼べばいいんだろう?


「俺らがどんな関係なのか、昔話をしよう」


思わず口ごもってしまった私にキョウヤさんはさっきまでの無表情な顔から一転して懐かしむような顔で私に笑いかけた。



―――俺と優が初めて会ったのは、中一の冬だった。ああ、中一ってのはこっちで言えば中等部っていうのかね?え、説明しなくていいって?……まあ、それでいいんなら俺も楽だしいいけどさ。


わかんなかったりしたら後で優に聞けよ?俺は二回も同じ話をしたくねえからな。


 で、だ。中一の冬、優が俺のクラスに転校してきた。俺は何でこんな中途半端な時期にって思ったけど、特に気にしちゃいなかった。


自慢じゃねえけど、俺はあの時までは今まで誰にも負けたことがなかった。こんなつまんない人生あんのかよ、あっていいのかよってそう思ってた。


 それからまあ特に優と話すわけでもなく、俺らは中二になった。そこでまた優と同じクラスになって、圭吾も同じクラスだった。


あん時の俺にとっちゃ優も圭吾もそこら辺の石ころと同じだった。なんにも面白くなくて、乾いてたんだ。


そうやって無駄に過ごしている時、事件が起こった。


 夏休みの前だったな。同じクラスの女子が強姦にあったんだ。それも一人じゃない。


一人でも大事件だってのに、被害にあったのはクラスの女子の半分の10人近く。しかも他のクラスの女子は襲われてないと来た。


今だったら不謹慎だって思うけど俺はその時、おもしれえって思った。やっと日常が壊れた。少しは面白いかもしんねえって。


 俺は自分の記憶を探って、被害者の女子がどんな奴だったか、どんな顔で、どこに住んでいて、どのルートで帰っていて、どんな性格だったか、親はどうだったかを思い出した。

そっから出た答えは、犯人は俺らのクラスの担任だった。名前は……ま、どうでもいいし犯人Aとかでいいだろ。


 犯人Aは自分に満足してなかったんだ。欲求不満ってやつだ。そいつは結婚して自分の家庭もあったけど、なんだか物足りなさそうな奴だった。人の好さそうな顔をして、中身は真っ黒でどろどろだったわけだ。


 俺は早速行動に移すことにした。犯人Aの個人情報をできるだけ調べ上げた。


 それから少しして終業式の夜。俺は犯人Aの後をつけた。夏休みに入る最終日、こいつが動かないわけがない。そう思ってな。


 案の定俺の予想は的中した。犯人Aは新しい獲物を捕らえて、適当な人気がない廃ビルに作ったオリジナルスペースとかいう意味の分からない部屋でやらかそうとしたわけだ。女子を誘拐して廃ビルに入ったところで、俺はその犯人Aに声をかけた。


『先生、それ、楽しいですか?』


 俺に気付いたそいつは恐怖に顔をひきつらせた後、相手が子供だと思ったんだろうな、あざけるような顔で俺に向かってきたよ。


刃物をちらつかせて、妙に焦点のあってない目で俺に向かってくるあいつは相当きもかったなあ。


 で、まあ色々あってそいつを潰した後、俺としたことが楽しくて周りが見えてなかったっぽくてさ、気づいたら同じように変な奴らに囲まれてた。


あの廃ビルは麻薬の取引所でもあったらしくてさ、もう暴力団だのヤクザだの堅気じゃないいかにもやばそうなやつがわんさか。


 どうやって切り抜けたもんかと思ったところに来たのが優だった。


『なんだ、まだゴミが残ってたんだ』


 そう言ったあいつは銃を持った十数人の男たちに向かってって……驚いたことに一発も掠らせもせず、全員ぶっ飛ばしちまった。もう二度とまともな生活は送れないだろうなってくらいに男たちを壊したあいつを見て俺は笑っちまった。


『お前、面白いな』

『…そう?』


 それで、助かった良いものの、外から警察の声が聞こえてきてな。どうやって逃げようかと思ったところで電話がかかってきたんだ。


『三神恭弥だな?それと近くにいるのは……笹原優か。俺の指示通りにそこから逃げろ。逃げ切ったらそのあとは俺の言うとおりに進め。後で会おうじゃないか』


 もうわかるだろ?そいつが圭吾だったわけだよ。俺らはどうしようもないからとりあえずあいつの指示に従って逃げて、まんまと逃げきったわけだ。


証拠やなんやらは圭吾が作ったマシンが回収してくれててさ、正直あいつがいれば世界の技術が何世紀分かは進歩してたと思うね。

まあ、学校にいる奴らはあいつを変人だって言って適当に扱ってたけどさ。


 それで、無事に逃げ切った俺らを待っていたのは圭吾が作った家だった。それからだな、俺らが一緒に馬鹿やったり危ない目にあったりしてさ。


でも、めっちゃ楽しかったんだ。テストの点で競ったり、次の角を曲がって出てくるのが男か女か予想したり…そんな普通でどうしようもないことも、あいつらと一緒だったら楽しかった。

 

 俺は、優は最初は冷たいやつだと思ってたけどさ、違ったんだ。少しずつ仲良くなっていってわかったんだよ。

あいつはすげえ不器用なんだ。自分と他人の距離の測り方がわかんねえんだ。信じたら裏切られる。そんなことばっかだったからな。


 でも、だからこそ俺らはあいつに幸せになってほしい。

俺らはあいつの親友として一緒にいられるけど、それだけじゃやっぱ足りねえんだよ。あいつはもっと幸せになっていいはずなんだ。


誰かに好かれて、誰かを好きになって一緒に過ごす。そんな普通があいつにだってあっていいはずなんだよ。


 あいつに何があったのか。それは俺の口からは言えない。もちろん、圭吾だって言わない。あいつ自身の口から聞くべきなんだ。


それくらいにあいつに信じられる、あいつの弱さを受け入れられるようなやつに、あいつを任せたいんだ。


 なあ、フィリス。お前はどうなんだよ?将来、あいつから離れるかもしれない。そんな可能性がお前の中に少しでもあるなら、あいつを諦めてくれ。あいつを裏切らないでくれ。これ以上あいつを壊さないでくれ。


なあ、どうなんだよ。教えてくれ。






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