私と想い
「なあ、どうなんだよ、教えてくれ」
そう真剣な表情で問いかけてくるキョウヤさんは、ここ最近で見てきたものとは全く違っていて、本当にユウ様を特別に思っているというのが伝わってきました。
私が彼をどう思っているのか。ただ好きなわけではないというのはわかっている。この人しかいないと思っているけれど、会ってすぐそう思ったところで、それを伝えただけでキョウヤさんが納得するとは思えなかった。
だけど、他にどう言えば良いのか私にはわからなかった。
「私は…ユウ様のことが好きです。一目惚れだなんてあの時までは信じていなかったけれど、初めて会った時から彼に惹かれている自分がいました。
彼の姿を見たとき、胸が締め付けられるように苦しくなってひどく恥ずかしいような感覚に襲われました。
彼の声を聴いたとき、とても安心した自分に気が付きました。
彼と目が合った時、私の気持ちが伝わってしまったか、胸の高鳴りが彼に聞こえてしまっているんじゃないかと不安になりました。
けれど、私はただ純粋に、この人が、私が待っていた人だって思ったんです」
私はキョウヤさんに正直に私の気持ちを伝えることにしました。あの時感じた私の気持ちの一端でもわかってもらえればいいと思って。
私の言葉が嘘ではないと私以外には証明できません。この気持ちが嘘ではないと、信じてほしいと思いました。私は、真剣な顔の彼から目をそらさずに素直に告げることしかできませんでした。
私の言葉を聞いたキョウヤさんは首をかしげました。
「待っていた…?」
「そのままの意味です。私は、国王の妹の娘です。こう言ってはなんですが、政治的に利用できるということで、物心ついた頃から、多くの男の人とお見合いといいますか…縁談がありました」
「……まあそうだろうな。それだけじゃねえとは思うけどよ」
それだけじゃない?とキョウヤさんに目を向けると、彼はわかってねえなら気にすんなと言って私に続きを話すように促しました。
「……ええと、それで、色々な男の人とお会いしたんですけど……その、皆さん、違うって感じがしたんです。
どれだけ格好良い人が私に結婚を申し込んできても、どれだけ素晴らしい性格の方がやって来ても、どれだけお金を持っていて私のために装飾品を贈ってくださる人がやって来ても、この人じゃないんだって心が叫んでいました」
心が叫ぶだなんて、おかしいですよね?とキョウヤさんに苦笑交じりの顔を向けると、彼は微かに笑って首を振りました。
「おかしくはねえだろ。ま、難しいよな人の心って。ただ嫌なだけって言ったらそれまでだけどよ、お前のそれがどういうものなんかは俺にはわかんねえ。でも、きっとそれでいいんだと思うぜ?」
「そう…でしょうか。幸い……と言っていいのかは分かりませんが、私に結婚を強要するような人はいませんでした。けれど、今までの人の中には私のことを本当に好ましく思っていた人がいたと思うんです。そんな人たちを振り切って、会って数日も経たないような人を……」
他の国の王子だとか、国内の有力貴族だとか。何回断っても申し込んでくる人はいました。
けれど、物語のように何回も話す中でだんだんと相手のことが気になっていく……そのようなことにはなりませんでした。ただ申し訳なさと、しつこすぎる人には嫌悪感が湧いてくるだけで、もしかしたら私は誰かを好きになるようなことなんてないのかもしれないと思っていました。
曲がりなりにも気持ちを告げてくれていた人たちに私はとてもひどいことをしてきたと思います。そんな私がユウ様に自分の気持ちを告げるなんて……。
「ああもうめんどくせぇなあ‼そんなことはもうどうだって良いんだよ‼
俺が聞きたいのは、お前が、優とどうなりたいかなんだよ‼
他のことは俺も圭吾も何とかしてやるっての。……ま、いいや。俺はもうわかったから」
急に大きな声を出して立ち上がるキョウヤさんを私は呆然と見上げました。
いったい何が分かったんでしょうか。私…まだ、何も言ってないですよね…?
◇◆◇◆
恥ずかしそうに、けれど真っすぐに俺を見て優への気持ちを告げるフィリス。
まったく、胸焼けしそうだっつーの。好きじゃねえから結婚できない。別にいいじゃねえか、それが普通ってもんだろ。こんな世界じゃ政略結婚なんて普通にあるんだろう。でも、それでも自分の好きな人と添い遂げたい。そんなエゴくらい突き通させてやりたい。
もういいか。俺はこいつだったら色々ありつつなんとか優とやっていけるんじゃねえかと思うよ。
呆気にとられた様子で俺を見上げるフィリスを見て、フィリスを初めて見たときの優を思い出す。
あんときはすげえ驚いたっけなあ。圭吾のやつでさえ驚いてたしな。
そういや、異世界に来る前からあいつはモテてたな。転校してきた初めての方は冷たい感じがしてたけど、俺らとつるむようになってから柔らかい雰囲気が目立って、もともと顔は良いもんだから結構大変そうだったな……本人は気づいてなかったけどよ。俺とか圭吾とかはまあおかしなやつってことでそう言うのとは関係なかったけど。
『恭弥?終わったか?』
昔のことを思い出しながら懐かしんでいると、圭吾から念話が届いた。
『おう圭吾。終わったぜ?まあ、結果は予想通りってことだ。そっちは?』
『そうだな…。まあ、それなりだ。こっちはこっちでうまくやっておくから、お前はフィリスを優のところに届けて戻ってこい』
『あいよ』
圭吾との念話を終えてフィリスに目を移す。まだポカンとした顔でこっちを見てるフィリスをちらりと横目で見て笑う。
「俺らの用事は終わったから、あとは全部優に任せるわ」
正直そろそろめんどくさくなってたりするっていうのが本音なんだけどな。
「え、っと……いいんですか?もっと…試練とかあったりするものだと…」
「試練?あー…やってほしいんならやるけど?」
「いえ、いいです‼大丈夫です‼」
一体何を想像したのか、少し顔色悪く首と手を振るフィリス。なんだよ、そこまでひどいことはしないっての。
「ま、いいや。…それで、そろそろ優のところに連れてってやろうと思うんだけど心の準備はどうよ?」
俺がそう声をかけるとさっきとは違う意味で顔色が悪くなるフィリス。顔が強張って、いかにも緊張しています、といった様子だ。
「別に無理やり行かせようってつもりはねえから今じゃなくたっていいけど? まあその場合は一人で俺らの助けなしで行ってもらうことになるだろうけどな」
「いえ、えっと……い、行きます」
「そっか」
無理やり告白させるような展開にもっていってんな俺ってば…ま、これくらいやんないとなんにもできなさそうだしなあ。
「そんじゃ、いきまーす。転移」
「え、まだ心の準備が…っ‼」
うるせ、心の準備なんか一々してっから自分の本音をぶつけらんねえんだよ。
◆◇◆◇
『あいよ』
そう言って念話を切った恭弥。声色から察するにあっちはまあそれなりに上手くやったようだな。
「ふむ」
俺がそう一言発すると先ほどみんなに説明を終えたルアンや他のみんなが注目する。
「? 何か?」
「いえ、先ほどから黙り込んでいたようですから…何かありましたか?」
急に注目を集めたことに疑問を抱いていると、ルアンが問いかけてきた。
言っても良いが、どうするべきかな。恭弥がもう少しで来るだろうからあいつに任せるか、それとも俺が自分で説明するか。
「実際に話を進めたのは恭弥だから詳しくは知らんが、どうやらフィリスは優に会いに行ったらしいな」
少し考えた結果、俺から話すことにした。恭弥から直接話を聞くことになると、フィリスが話したことも漏れることになってしまうかもしれない。勝手に自分の気持ちが他に知らされる。それはおそらく良くないだろう。
俺が告げると、みんなそうなってよかったと言わんばかりの表情をしていた。ただ一人を除いては。
「キリナシア公爵夫人、仮に、フィリスが優と添い遂げたいと言った場合、貴女はどうしますか?」
「そうですね……」
ただ一人、無表情を貫いていたキリナシア公爵夫人に問いかける。彼女がどう考えて、どう行動するかによってフィリスの今後が大きく変わる。
俺の言葉に考え込んでいる様子の彼女。ルアンはそれを少し苦い顔で見ているが…何かあるのだろうか?
「私は、フィリスが選んだ方なら特に反対するようなことはしませんよ。
今まで多くの方からの縁談をお断りしてきて…もしかしたらこの子は結婚する気がないのではないかと思っていましたしね。最悪、養子を取ることも考えていました」
「…ああ、だから色々と調べていたわけですか」
ルアンは納得したと言わんばかりに頷いていて、キルツとシルヴィもほっと息をついていた。
「自分はてっきり、フィリスを見限って捨てようとしているのかと思っていましたよ」
「私が?フィリスを? …ルアン、貴方は私がそんなことをする人間に思えて? あの子は私が大事に育てた大切な娘よ。だからこそ、あの子には自由に生きて欲しいの」
ルアンが咎めるような声で夫人に話しかけると、何を言っているんだと彼女は反論した。その表情からは、ただ娘に幸せになって欲しいという母親ならではの思いが読み取れた。
「フィリスは幸せだろうな」
俺はそう呟いて、なんとなく上を見上げる。そこに何があるわけでもないが、思わず自分の過去を思い出してしまう。
なんだかしんみりとしてしまった空間。さて、これからどうしたものかと思っていると、ゆっくりと入口の扉が開いた。
「たっだいま〜」
意気揚々と部屋に入ってきた恭弥はずかずかと空気を読まずに歩いてテーブルの上にあるお菓子を食べ始めた。
俺はそれを見て、こいつは計算してるのかしてないのかハッキリしないやつだと笑い、同じように食べ始めた。
「どうせ今は他に何にもやりようがねえんだ。だからとりあえずのんびり待とうぜ?」
屈託のない笑顔で辛気臭い空気を払った恭弥に触発されるようにして、俺たちは少しずつ明るくなっていった。




