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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第九章 夏大会 x 後半 x 宿命の対決

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第70話 最終話

 取っ組み合い、である。

 素手と素手との対決になったのだからわたしが優位かと思いきや、泥仕合に突入している。ブランは狙っているのか無意識なのか、間合いを詰めて掴みかかり、頭突きをメインに叩き込んでくる。


 技を使って崩すなり引き剥がすなり試みてはいるのだが、純然たるパワーで撥ねつけられるのだ。圧倒的なパワーは多少の技量差など踏み倒せるという、武の身も蓋もない本質を突きつけられているような気分だ。


 見様見真似の生兵法で挑んできてくれれば対応もしやすかったのだが、なりふり構わず子どものように飛びかかられてしまってはいかんともしがたい。


 とはいえ。


 ラフファイトならこっちだって本領である。頭突きに対しては逆に頭をねじ込んで額で顔面を受け止め、隙を見てはショートフックや肘打ちをボディにこつこつ打ち込む。腰が入らないから大した威力は出せないが、嫌がらせにはなるだろう。ボディに注意が下がったら絞め技を狙いたいところだが、半端な体勢ではパワーで引っ剥がされるだけだろう。あまり期待はしないでおく。


 まあ、スタンドでの取っ組み合いになった時点で作戦の半分は達成できているのだが。

 あとはその時が来るまで耐えるのみ。いや、本音はさっきのバックドロップで仕留めたかったけどさ。まだまだダメ押しが必要なようだ。


「歯ァ食いしばれッ!!」


 鬼嶋の絶叫。瞬間、わたしは歯を食いしばって身を固める。


「ブランッ! 気をつけろ!」

Quoi(クワ)ッ!?」


 剣城さんの絶叫。衝撃。ブランの悲鳴。

 わたしはブランを掴んだまま空中にはね飛ばされる。


「決めろよッ!」


 くるくる回る視界の下、走りすぎていくのは一台のネイキッドバイク。

 ブランの死角から、鬼嶋がアクセル全開で体当たりを仕掛けたのだ。


「もちろん、これで決めさせてもらうよ!」

「ッ!?」


 突然の事態に混乱するブランを空中で拘束する。

 腕の上から抱きしめるように両腕をロック。

 足を絡めるついでに跳ね上げ、逆立ち状態に。

 頭を顎の下にねじ込み、首を丸められないよう固定。


「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 ずん、と重い衝撃が頭頂から足先へと上っていく。

 拘束を解いて離れると、石畳に頭を突き刺したブランが白目をむいて泡を吹いていた。これならトドメは必要あるまい。見立ては正しく、ブランの体は徐々に光の粒子となって消失(ロスト)した。


「……よしッ!」


 小さく気合い。

 ふふふ、一対一にこだわっているとでも思ったかね?

 ダンジョン道はチーム戦。仲間と力を合わせてなんぼなのだよ。

 視野狭窄に陥り、目の前の(わたし)しか見えなくなった時点で君の敗北は決まっていたのだ。


 なんて、偉そうに言っているけどぜんぶキリ先輩が立てた作戦なんだけどね!

 王者聖マグダレナは勝ち方にもこだわる。正々堂々の横綱相撲を好むのだ。だからこそ人気を集めるし、小手先に頼らない実力を育てる源でもあると思うのだが、こちらからすればそれは付け込める隙になったというわけだ。


 ……まあ、本音を言えばわたしも正面からの勝負で決着したかったけど。


 あとの試合展開は劇的さとは無縁のものだった。

 わたしと鬼嶋で聖マグダレナの残る二人を抑え、その隙にキリ先輩が宝箱の解錠に向かってゲームセット。最終スコアは【2-0】。ぎりぎりの辛勝である。


 * * *


「優勝おめでとう。まんまとしてやられたよ」


 試合後、剣城さんが握手を求めてくる。

 負けたというのに爽やかな笑顔。スポーツマンシップを体現してるような態度だ。


「Mmmmm……納得がいかナイです……」


 車椅子で唇を尖らせているのはブランである。

 ついさっき消失(ロスト)したというのに堪えている様子は微塵もない。

 まったく、この娘の精神力はどうなってるんだ。


「次こそは、本当の決着をつけるデスよ! 首を磨いて待ってるがイイです!」

「首を洗ってと腕を磨いてが混ざってるかな」


 ツッコみつつも、こちらも同じ気持ちである。

 今回こそ奇襲でなんとか制したが、もう同じ手は通じないだろう。

 次までに正面から打ち勝てるだけの実力を身につけなければならない。

 とはいえ、素直に認めるのは悔しいので憎まれ口のひとつでも叩いておこう。


「あれ~? 今日は明らかにわたしたちの勝ちだと思うんだけどなあ。それはそれとして、勝者の義務として敗者の挑戦は拒みませんとも。ま、冬大会までせいぜい研鑽を積んでくれたまえ。わたしはわたしで、全国でさらにレベルアップしてくるよ」

「……」


 うん? とりあえず偉そうに挑発してみたのだが、みんな黙ってしまった。

 いや、なんか言いすぎたかな。これは半分冗談で、偉そうにするつもりなんてまったくないんだけれども、言い訳すると逆に本気で言ったっぽくなって嫌な感じになりかねない。やべえ、どうしよう。助けてキリ先輩!


「……えっと、アカリちゃん。夏大会は関東大会までだよ」

「それから各県3位までが参加だな」


 ぱーどぅん?

 キリ先輩が残念そうな、そして鬼嶋が呆れたような顔をして、


「そーゆーわけデス! 関東大会では本当の決着をつけるデスよ!」

「私も次の対戦を楽しみにしているよ。お互い、再戦まで負けないようがんばろう」


 ブランがあからさまな、剣城さんが静かな闘志を瞳に燃やして、


「ど、どうして教えてくれなかったんですか……?」

「ごめん、普通に知ってると思ったから……」

「ま、負けたら次がないと思って気合いが乗ってたんなら結果オーライじゃねーの」


 ただひとり涙目のわたしは、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしていた。


「フ、フハハハハ! ならばブラン君! 再戦を楽しみにしているよ! では、さらばだ!」

「あっ、逃げたデス!」


 会場を走り出したわたしを、ブランやみんなが追いかけてくる。

 赤っ恥をかいたから逃げ出したかった……というのもあるが、体の芯からうずうずしてくる感じが我慢できなかったというのもある。関東大会までどれくらいあるか知らないが、可能な限り練習をして、もっと強くならなければ。またじいちゃんちで合宿するのもいいかもしれない。


「待って、アカリちゃん!」


 キリ先輩の声がするが、止まりたくない。

 一刻も早く部室に戻って、練習をしたい気持ちで一杯だった。


「おい! 待てっつってんだろ!」


 鬼嶋までガチめに叫んでいる。

 どうせ部室で合流するんだから、そんなムキにならなくてもいいだろうに。


「アカリちゃん! 表彰式がまだだって!」

「あっ……」


 こうしてわたしはまたしても赤っ恥をかき、「てへへ」と頭を掻きながら会場に引き返したのだった。


(了)

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