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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第九章 夏大会 x 後半 x 宿命の対決

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第63話

『聖マグダレナ女子学院対、志乃美林女子学院、試合終了。6対4で聖マグダレナ女子学院の勝利です!』


 県立アリーナが「わああっ」という歓声でどよめく。落胆の声も上がるが、それは聖マグダレナを応援する熱狂にあっさりと飲み込まれた。さすがは優勝常連校の人気である。

 オーロラビジョンには爽やかな笑顔でモニター越しの過客席に手を振る剣城さん、そしてプラチナブランドの巻き髪をぴょんぴょんと飛び跳ねて揺らすブランの姿が大写しになっていた。


 高校女子ダンジョン道神奈川県大会準決勝である。

 結果は下馬評通りに聖マグダレナの勝利となったが、フルセットまでもつれ込ませた志乃美林の健闘も観客を大いに沸かせた。テレビ神奈川は存分に視聴率を稼いだことだろう。


 試合後の挨拶を終え、聖マグダレナに取材陣が殺到している。

 剣城さんはイケメン女子高生として熱狂的な女性ファンがついており、ブランは車椅子の美少女として男性ファンのみならずポリティカルにコレクトネスな方面にも受けている。どちらもメディア映えする素材だ。まだ地方大会だと言うのにすごい取材陣である。


 あ、オーロラビジョンが切り替わった。

 これから勝利者インタビューらしい。


『試合お疲れ様でした。決勝戦進出、おめでとうございます』

『ありがとうございます』


 女子アナウンサーが向けるマイクに、剣城さんが白い歯を光らせて応じる。テレビカメラに臆した様子は欠片もない。むむう、さすがはスター選手。メディア対応も手慣れたものだ。


『準決勝を振り返りたいのですが、相手校の志乃美林はどうだったでしょうか? 今大会のダークホースと言われていましたが』

『ダークホースかどうかはわかりませんが、プレイのひとつひとつに工夫があって一瞬も気が抜けなかったですね。すばらしいチームだったと思います』


 コメントにもそつがない。非の打ち所のない流れるような話しぶりで、かといって原稿を棒読みしているような不自然さもない。演じているわけではなく、本心から話しているんだろう。剣城さんは実力者だが、それに驕るようなことはない人格者でもある。完璧超人か。


 そして志乃美林の戦いぶりは実際見事だった。

 見たこともないようなトリックプレイを次々と繰り出して王者聖マグダレナを翻弄してみせたのは、久能井(くのい)姉妹の真骨頂と言ったところだろう。結果としては王道を行く聖マグダレナの横綱相撲に押し切られる形とはなったが、今大会ベストバウトのひとつになることは間違いない白熱した試合だった。


『さて、決勝の相手となる桜吹雪高校ですが――』


 どきりとする。

 会場の視線が集まっていないか思わずきょろきょろしてしまうが、周りの観客たちにこれといった反応はない。


「何きょろきょろしてんだよ。自意識過剰じゃねえか?」

「そ、そうだよ。ボクらなんて、ぽっと出でなんだから、注目してる人なんていないって……」


 わたしの過剰反応を鬼嶋が笑い、キリ先輩はつられてきょろきょろしている。

 この温度差は何なのかと言えば、鬼嶋は小学校の頃は天才モトライダーとしてちょっとした有名人だったらしい。そのせいでテレビやら何やらに慣れているのだ。


 一方、キリ先輩はそんなものとは無縁である。地元地方紙からの取材は何度かあったけれど、インタビューは簡単なものだったし、写真もスマホのカメラだった。新聞の取材がそんな簡単でいいのかと拍子抜けしたくらいだ。


「本当に決勝まで来ちゃったんだね……」

「ハハッ、キリキリもいまさら何言ってんだよ。ネットじゃ『怪盗』なんてあだ名までついてんのにさ」

「ニコちゃんだって『金髪ライダー』とか呼ばれてるじゃん」

「ったく、何なんだよな。あのクソだせえあだ名つけたやつは……」


 とはいえ、まるで知られていないわけでもない。

 ネットのダンジョン道ファンの間では、実績のほとんどない弱小校が突如として勝ち上がったことで、志乃美林と並ぶダークホースとして話題になっているのだ。

 そのせいで変なあだ名までつけられたわけであるが。


 ちなみにわたしは「赤鬼」である。埼玉時代の悪名はもはや隠しようがなくなったわけだが、細工町(さいくまち)巧魅(たくみ)が美談としてカバーストーリーを流布してくれたので問題にはなっていない。いや街中で不良的なサムシングと遭遇すると速攻で目を逸らされるようにはなったんだけど問題はない。ないったらないんだ。


『桜吹雪高校さんですか――』


 それまですらすらと答えていた剣城さんがわずかに言い淀む。

 何を言うんだろう? 「眼中にないっすね」とか言われたらショックだが、そういうことを言うタイプではないのはわかっている。


『アテクシの、宿命のRivale(リヴァル)デスよ!!』


 そこにブランが乱入した。

 車椅子から一生懸命背を伸ばしているその顔にカメラが向く。


『ホノサカ・アカリさん! 今度こそ決着をつけるデスよ!!』


 モニターいっぱいに拡がるブランの指先。

 客席の観客たちが一斉に仰け反る。もちろんわたしもだ。


『ええっと、こんな感じでね。油断するつもりは一切ありません。決勝も全力でぶつかっていくだけですよ。どんな天才が相手でも、簡単に負けてあげるつもりはありませんから』


 大騒ぎするブランを抑え、剣城さんがインタビューを締め切った。

 爽やかな笑顔は一見カメラに向けられているようだが、観客席にいるわたしたちに向けられている気もする。


 それにしても「天才」とはずいぶん持ち上げてくれたものだ。

 リップサービスだとはわかっていても、気分は悪くない。

 いやいや、ダメだぞ。

 調子に乗って勝てるほど安い相手じゃない。


 決勝は明後日だ。

 オーロラビジョンに映るブランの目を真っ直ぐ見つめ、「こっちこそ決着をつけてやるからな」と口の中で呟いた。

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