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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第七章 受肉 x 家元 x 四つ子再び

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第46話

「すみませんなあ。うちの顧問、エリート意識が強すぎてですな。綾小路流の家元もされているもので、格式や礼儀作法にうるさいのですぞ」


 冷たい視線にたじたじしていたら、一賀さんがこっそり耳打ちしてくれた。

 綾小路流……というのはわからないけれども、家元と言うからにはなんか伝統的ですごい感じなんだろう。これまでわたしはスポーツという観点でしかダンジョン道に触れてこなかったけど、考えてみたら茶道華道と並ぶお嬢様教養のひとつでもあるんだよなあ。


一賀(いちか)さん、内緒話なんてはしたないですよ。マネージャーなのですから、合同練習がつつがなく進むようきちんと準備を進めなさい。心配りも礼の内。先回りの精神もおもてなしの――」

「はい! 失礼致しました! すぐに準備をします! ……というわけで、またのちほどよろしくお願いしますぞ」


 一賀さんは綾小路先生にぴしっと真顔で返事をし、それからわたしたちに振り返って片目をつむった。何やら含みを感じさせる笑顔だが、一体何を企んでいるのやら。


 準備を命じられた一賀さんが用具倉庫から持ち出してきたのは、なんと高枕だ。時代劇などでお武家様が寝るときに使うあれである。それが、バスケットボールなどを入れるカートに満載でがらがらと運ばれてくる。


「当校の練習では、綾小路流の作法に則りこの高枕を使用します。リクライニングチェアのような下品なものは使いませんのが、よろしいですね?」


 とのこと。

 うーん、首が痛くなりそうで嫌だなあ。昔の人はなんでこんな枕で寝たんだろう。奇襲を警戒して熟睡しないためだとか聞いたおぼえがあるぞ。それなら寝心地が悪くて当然なのか? ダンジョン道をやるならこういうのにも慣れなきゃいけないんだろうか。

 そう思ってキリ先輩にちらりと目をやると、若干頬をひくつかせていた。鬼嶋に至っては露骨にしかめっ面をしている。そうだよね、嫌だよね高枕……。


「では、こちらを」


 そして高枕とセットで巻いたマットを渡される。

 マットは茶道の敷物に使う毛氈で、広げればヨガマットくらいの広さになりそうだ。


「当流の作法はご存知で?」

「い、いえ。すみません……」


 綾小路先生はあからさまなため息をついて、


「まずは見様見真似で結構です。伊藤さん、開始の礼からお願いします」

「はい」


 三年生とおぼしき生徒がこちらに座礼して起立。

 楚々とした所作でイミテーションの前に毛氈を広げ、すっすっと埃を払うようにしわを伸ばし、高枕を置いた。それから毛氈の脇にまた正座して、居住まいを正してイミテーションに一礼。そしてこちらを向いて、


「どうぞ」

「えっ」


 どうぞと言われましても……。

 助けを求めてキリ先輩に視線を送るが、「頼んだよ」という視線を返されてしまう。鬼嶋はちょっとにやにやしながらこちらを眺めていた。この野郎、高みの見物を決め込みやがって……。どうせあとからお前もやることになるんだからな。


 仕方がないので覚悟を決めて、見様見真似を始める。

 えっと、まずはこうすっと毛氈を広げて……、ううむ、ひどいしわになってしまった。これをすっすっと伸ばして……、んぐぐ、伸ばしてら毛氈が斜めってしまった。それを直して、またしわになったから伸ばして、高枕をセットして……。


「できた!」


 だいぶわたわたしたが、とりあえずセッティングが済んだので思わず快哉を叫んでしまう。すると綾小路先生が銀縁眼鏡をくいっとさせながら、


「高枕の表はこちら」と枕の向きをひっくり返し、「それから上には帛紗(ふくさ)を被せます。あなた、帛紗(ふくさ)は?」


 え、帛紗(ふくさ)? 持ってないし、っていうかそんなもの被せてたっけ? うぐぐ、すっかり見落としていたようだ……。


「も、持ってないです」

「ではハンカチは?」

「あっ、あります!」


 とハンカチを差し出すと、眼鏡の向こうの目がすっと細まって、小さく咳払いをして、


「結構です。帛紗(ふくさ)は部の備品を貸しましょう。一賀さん、桜吹雪高校のみなさんに帛紗(ふくさ)を貸して差し上げて」


 ううう、そりゃアイロンとかかけてるわけじゃないけど、洗濯はちゃんとしてるんだからそんな汚物を見るような目で見なくってもいいじゃないか。ワンポイントの猫ちゃんが泣いてしまうぞ。


 ええっと、これで毛氈の横に正座して、イミテーションに一礼すればいいのかな?

 なるべく背筋を伸ばして、きちんと見えるように礼をする。


 古流武術の家なんだから正座には慣れていると思われるかもしれないが、そんなことはまったくない。うちの流派は百姓向けの護身術が主であるので、礼儀作法にはうるさくない。他流試合なんかも基本的にやらないし、特殊な礼法を身につけたところで披露する機会もないのだ。「礼儀など気持ちが伝われば十分だ」というじいちゃんの方針でもある。


 それでは古流同士の交流に困るのではと思うかもしれないが、じいちゃんはあちこちの格闘技ジムに顔を出しているものの、古流同士のつながりはあまりない。曰く、「古い技術から取り入れるものはいまさらない」とのことで、一部の人が聞いたら血管がブチギレそうな放言をしている。わが祖父ながら、そんなだから他の古流から嫌われてるんじゃないかなあって気もしている。


 とはいえ、これでやっと準備が整った。

 他校との練習なんて初めてだし、どんなことをするのか楽しみだな。

 なんてのんきに思っていたら――


「ではそれを片付けて、また始めから。ああ、片付け方も指導して差し上げますから安心なさって。ダンジョン道は礼に始まり礼に終わります。まずは着座から離席の流れをきちんと身につけましょう」


 うええ!? また敷物からやるの!?

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