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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第五章 草大会 x 元プロ x 忍者軍団

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33/64

第33話

「向こうはたぶん同じ作戦で来ると思う。こっちもマンツーで追跡と妨害に徹して。いいね?」

「おう」

「了解です!」


 第二セットの開始前。

 わずかなインターバルを利用して、作戦を決めた。

 といっても複雑なものではない。

 相手がバラバラに逃げるのなら、こちらもそれを追うのみだ。

 それぞれがさっき追いかけた相手をマークすることになった。


 向かい合う白線には、第一セットと同じく、くのいち軍団が整列している。

 ちなみに、「財宝争奪戦」ではセットごとのダンジョン再生成は行われず、両チームの探索済みルートがミニマップに記載され、スタート地点は同じ場所からとなる。セット終了時はなるはやでスタート地点に戻るのがマナーだ。野球の攻守交代と同じく、試合進行を円滑にするためである。


『試合開始10秒前。…………5、4、3、2、スタート』


 ブザー音とともに地面を蹴り、全力で距離を詰める。

 また煙玉などを使われては厄介だからだ。

 しかし、シノビリンもこちらの思惑は読んでいたようで、今回は何も仕掛けずすぐさま振り返って通路へとダッシュした。煙玉を投げたところで、煙幕をすぐに突破されては時間の無駄にしかならないからだろう。


 忍者だけに、マキビシなんかも警戒していたけれども、そういうのもなかった。

 冷静に考えたらダンジョンの靴は安全靴が常識だし、マキビシはあまり効果が見込めないのかもしれない。


「待て待て待て待てぇぇぇえええええ!!」


 大声を上げ、プレッシャーをかけながら追い回す。

 その背中は最初のプレーよりもずっと近い。

 これならまた曲がり角でダミーに騙されるようなことはないだろう。

 というか、普通に追いつけるのでは?


 と、思っていたのに。


 なかなか距離が縮まらない。

 前にも言ったが、ダンジョン競技では基本的に逃げる側より追っ手が有利だ。

 逃げる方は罠やモンスターへの対応をしなければならず、追っ手はそれがクリアされた道を辿ればよいからである。


 にもかかわらず、一向に追いつけない。

 それになんだか妙な既視感がある。

 この通路、なんだか見覚えがあるような――


 違う。見覚えどころじゃない。

 第一セットの追跡劇とまったく同じルートを辿っている。

 ほら、さっき飛び越えた落とし穴とか、わたしが間違って発動させちゃったやつじゃん。


 同じ道なんか通ってどうするんだ……と疑問に思い、それから気づく。

 ひょっとして、前に通った通路の近くに宝箱が湧いてる?

 いまさらながら、ミニマップに意識を向ける。

 宝箱を示す青い光点は確かに近づいている。

 近づいてはいるが、最短ルートとは思えない。

 ギリギリまで既存ルートで追いつかれないようにする作戦だろうか。

 あるいは、わたしを引き付けることだけが目的……?

 それじゃ、こうやって追いかけること自体が術中にハマってるんじゃ……。


 なんて疑心暗鬼に陥りかけていたら、先を行く背中が見覚えのない道に入った。

 知らないルートをたどりながらも、ミニマップが示す宝箱の光点は近づいている。

 変なところに誘導しようってわけじゃなさそうだ。

 ふう、まんまと策にハマったわけじゃなくてよかった。


 だが、見知らぬルートに入ってから妨害が始まった。

 まずは初手と同じく煙玉。

 わたしも〈つむじ風〉の胚珠(インスタンス)は持っているものの、キリ先輩みたいにぱっと取り出して使えるほどこなれていない。

 ついては強引に突破する。

 かちり。

 足元に違和感。

 風を切って飛んでくる仕掛け矢を、反射神経で叩き落とす。

 なるほど、通常のトラップと組み合わされると危険度が増すな……。


 続いてマキビシ。

 これも胚珠に込められたものだ。

 シノビリンが放ったピンポン玉サイズの小さな粒が石畳に跳ねた途端、いくつものマキビシに分裂し、通路いっぱいに散乱。

 走りながらかわせるものではない。

 安全靴のおかげでダメージはなかったが、靴底に刺さって邪魔だ。

 引き抜いている間に縮めた距離を離されてしまう。


 胚珠は消耗品で、そこそこ値が張る。

 われらが桜吹雪高校ダンジョン部の財政事情で、日々の練習で贅沢に使えるはずもなく、経験が少ないのでどうしても対応に手間取ってしまう。


 もうちょっと、もうちょっとでシノビリンの背中に指が掛かる――そんなことを繰り返していたら、あるとき、視界が拓ける。


 広場だ。

 その奥には宝箱。

 広場にはトラップはない。

 妨害を気にしている暇もない。

 いや、妨害をするならその隙に抜いてやる。

 加速、加速、加速、全速力。

 シノビリンを肩で弾き、飛び込むように腕を伸ばす。

 指先。

 宝箱に触れる。


【解錠権:温故堂 火ノ坂(ほのさか)朱莉(あかり)選手】


「しゃあっっっ!!」


 宝箱に、解錠用のパズルが浮かび上がる。

 解錠権を無事ゲットした!

 よーし、このまま解錠して同点だ!

 一応、わたしだって練習して1分ちょっとで解錠できるようになったのだ。


「あいたっ!?」


 パズルを解こうと宝箱に向き直ったら、頭をぽかんと叩かれた。

 振り返ると、シノビリンが身長の倍はありそうな長い棒を構えている。

 むむむ、さっきまで持ってなかったのに、復号(アンジップ)したのか。

 いかんいかん、宝箱に夢中になってこっちを忘れていた。

 解錠しながら邪魔をされてはたまらない。

 先にこっちを片付けて、解錠に集中しよう。

 立ち上がり、シノビリンに向かって構え直す――


 ――が。


 その瞬間、シノビリンは全速でバックステップを踏む。

 ちっ、そっちから仕掛けておきながら逃げ腰とはけしからん。

 逃がしてたまるかと踏み込むと、それに合わせてシノビリンも引く。

 むう、相手にしてられん。

 やっぱり解錠に戻って――


「あいたっ!?」


 解錠に取り掛かると、またシノビリンが妨害してくる。

 棒はリーチと軽量性を重視しているのだろう、威力はない。

 ここは無視をして解錠に集中ぽこんぽこんぽこんぽこん……しゅ、集中ぽこんぽこん……ぽこん集中だぽこん……


「ごべえっ!?」


 突然、横合いから大きな衝撃。

 空中を吹き飛ばされながら身をひねると、犯人の姿が目に入る。

 宝箱を守護するストーンゴーレムだ。

 ぐぬぬ、棒の攻撃を我慢することに集中してたら、今度はこっちが意識から抜けていた。


「きえええええええええええええ!!」


 やってられるかっ! と着地するなりシノビリンに飛びかかる。

 シノビリンにゴーレム、一緒になって妨害されたらやっぱり解錠なんてできん。

 しかし、シノビリンはまた間合いを取る。

 こちらが全速で追いかけると、向こうも背を向けて逃げ出す。

 この野郎、戦うつもりがないんなら、ちまちま手を出してくるんじゃ――


 ――ビィィィィィィィィィィイイイイイイイイ


「はえ?」

 鳴り響いたブザー音に、思わずマヌケな声が出る。

 そしてミニマップのスコアボードが更新された。


【温故堂:-1 - シノビリン:2】


「じ、時間切れ!?」

 シノビリンとゴーレムに撹乱されている間に、解錠の制限時間2分が過ぎていたのだ。

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