4話 竜骸強襲
「…………」
一部が炭化している、と言われても信じれる外見をしたソロモン。
その姿は、太陽の中心核と同等の熱量を当てられて尚、原型を保っている。
一方で真紅の竜は「当然」と言わんばかりに骸骨を見下ろしている。
『仮死状態を装うのはやめよ』
「……ヤハリ見破ラレルカ。ナラバ、我モ本気ヲ出ソウ」
落ち着いた声色が、なんの前触れもなく重々しくなる。
その圧に驚いた真紅の竜は、翼と脚を駆使して飛び退く。
だが、咄嗟の判断としてはあまりにも遅すぎた。
「【怨骸幽厭獄】」
闇黒が花園を侵食し、ソロモンを中心とした一定範囲内が塗り潰される。
そこから無数の掌が伸びると、枷の外れた猛獣が如く骸骨が一斉に這い出てくる。
真紅の竜を捕らえんと群がっていき、津波のように盛り上がった骸は幾重にも重なり、巨大な上肢骨へと変容した。
『な、なんじゃと!?』
驚愕で動きを止めた真紅の竜の右脚を巨大な指骨が掴む。
真紅の竜は咄嗟の判断で咆哮を上げ、大気を震撼させる。
一瞬で上肢骨が砕け散り、吹き飛んだ骨片が闇黒に沈んでいく。
「コレハ、ドウ対処スルッ……!?」
ソロモンが声を荒らげると、闇黒から竜の骸が這い上がってくる。
その骸の眼窩には怨念と形容できるような紫炎が揺らめき、真紅の竜を凝視する。
だが、真紅の竜は悠然と巨躯を誇る竜の骸をただなにもせず見ているだけ。
『そもそも、儂は時間稼ぎをしておるのじゃ。そこを勘違いされては困るのじゃが』
真紅の竜がそう呟くと同時、森から巨大な木の根が幾つも出現した。
森から出現した木の根は、次々と巨躯を誇る竜の骸を貫いていく。
一瞬で原型を維持できなくなった竜の骨は落下し、真下にある闇黒に沈んでいく。
巨躯を誇る竜の骸は、敢えて自身の体を壊させることで追撃から逃れたのだ。
「ナニ……!?」
花園を埋め尽くしていた闇黒が消失し、驚愕する骸骨。
その隙を突くように骸骨に木の根が絡みつき、瞬時に拘束する。
解こうと足掻くが、木の根がより強く骸骨を締め上げ、全身の骨を軋ませた。
いっそ骨を砕かれたほうがマシと感じるほどの激痛が骸骨に襲い掛かる。
「グアアアアアアアッッ───!?」
絶叫する骸骨の背後から、突如として茶髪の少女が現れた。
その少女は顔色ひとつ変えず1人の青年を抱き抱えている。
「煩いわよ、ソロモン」
『当たり前じゃろう。今のコヤツには理性など残っておらぬのだから』
茶髪の少女の八つ当たりに近い声が骸骨に向けられる。
真紅の竜は、すぐに苛立っている少女に当たり障りのない言葉を返す。
少女は頬を膨らましながら、不満に思いつつその発言を受け止める。
「それもそうね。死滅無効のせいで死ぬに死ねず、生きた骸と成り果てた存在なのだから。今は暴走しないように拘束して、安静にさせておかなくていけないものね」
『そのとおりじゃ、と言いたいところなのじゃが……コヤツはなぜ気を失っておるのじゃ?』
真紅の竜はそう言って少女が抱える少年に向かって指を指し、首を傾げた。
すると、茶髪の少女は「面識があるの?」とでも言うように首を傾げた。
そのさまは純粋無垢なものなどではなく、恋敵を排除線とする「女」の目だった。
「……急に黙ってどうしたの? ルフス」
その愛らしい声には確かに絶対強者の圧が込められていると認識しても、疑問が頭から離れない。
少女が抱えている少年の容姿が、ついさっき逃した少年にあまりに似ていたから。
だが、その疑問を解消するための事実を目前にいる少女が開示してくれるとはとても思えなかった。
『い、いやぁ、なんでもないのじゃ。見覚えがあると思うたが、気のせいだったようじゃ』
故に真紅の竜───ルフスは、先程の発現を誤魔化すことにした。
声も上擦っていて、流石に苦しい言い訳だなと思いながら納得させることができるか試す。
すると、曇っていた顔が嘘のように明るくなり、周囲の花園に点在していた蕾が一瞬にして咲いた。
「ルフス、ついて来て」
そう言って少女は、花が咲いていない道が途切れている場所を指さした。
少女が指をさした先には、絶対に開かぬはずの城の門が開き、白亜の城が聳え立っていた。
向かうは、白亜の城───
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