3話 屍骸蹂躙
俺は騎槍を構えて突進してくる護衛を見て確信した。
完全に俺のことを敵としてなんとも思っていないことを。
「……傲慢だな」
心を無にし、先頭の護衛に意識を集中させる。
周囲の護衛を統率し、息を合わせて迫りくる3騎の護衛。
それは俺が城壁の内側にいようと変わらない。
「傲慢さ共々、砕け散れっ!」
そう大声を上げて、自身を鼓舞すると同時。
俺は右手で握ってた剣を、勢いよく先頭の護衛へ投げつける。
風を切り、護衛の頭部へ護身用として拾った剣が命中した。
投擲した衝撃によるものなのか、護衛が騎馬から落下する。
地面に落ちる寸前、後を追っていた2頭の騎馬が迫りくる。
2騎の護衛が騎馬を静止させようとしたが、その判断は遅すぎた。
抵抗すら許されず、骸骨は鎧ごと2頭の騎馬に踏み潰された。
『『───ッ!!』』
残こされた2騎の護衛が再度、槍を構える。
その眼窩は先程よりも蒼に染まり、炎のように燃え盛る。
蒼炎が、声に変わって怒りを伝えているようで。
「すまないが、俺も生きるのに必死なんだ」
俺は城の外部と内部を繋ぐ柵を挟んで、護衛に告げた。
激昂している護衛は、騎槍で俺を貫こうとするはずだが。
その場合は、どう対処すれば生き残れるのか。
『───!!』
乗り手を失った骸の騎馬が、柵に向かって突進してくる。
騎馬の予想外の行動に驚愕し、俺は経路上から回避するのが遅れた。
だが、騎馬に柵を壊されることも、突撃されることもなかった。
そのことに疑問を感じ、骸と化した騎馬に視線を移す。
「な、何が起こったんだ……?」
視界に映る光景に、俺は目を見開いた。
乗り手を失ったことで激怒していた騎馬の姿が消えていた。
いや、正確にはその姿が原型を留めていなかった。
全身がバラバラにされ、周囲に馬の骨が飛び散っていたのだ。
「まさか、あの木の根が……?」
現状、最もありえそうな結論を導き出した。
けれど、それにしては不可解な点が多すぎる。
あの木の根は刺し貫くことで、骸骨を絶命させていた。
だが、音もなく全身を弾けさせているのだ。
『『───!!』』
目前で起こった出来事に恐怖するように、2頭の騎馬が身を震わせる。
俺はその行動を見て、この騎馬は何が起こったかを知っていると確信した。
不可思議な出来事について聞き出す術は、俺にあるはずもない。
だが、その恐怖を利用して、今を生きるための障害を倒す手はある。
「───うわぁああああぁぁっ!!」
ヒュンという音の後、大気を揺らすほどの衝撃が生じた。
落下地点には砂煙が立ち込めていて、誰がいるのかはわからない。
確かなのは、人が落ちてきたということだけだ。
「なんで、こんな最悪なときにっ!」
俺は城壁を飛び越え、2騎の護衛がいる花園へ降りた。
落ちてきた人を逃がすための時間を稼ぐために1騎の護衛を蹴り上げて。
急いで、砂煙が立ち込める道へ向かって駆ける。
「やっと会えた! シンちゃん!」
砂煙の中から人が飛び出してきたことに驚愕し、足を止める。
だが、相手が俺に激突したことで、そのまま地面に倒れた。
地面に頭を打つな、と覚悟を決めたのに衝撃はなにもなかった。
不思議に思い、目を開けると女の子が俺を見つめていた。
「お兄ぃ、大丈夫?」
「……ん、あぁ」
月蝕を想起させる赤い瞳が、俺のことを心配そうに見ている。
砂煙に汚されることなく艶めく黒髪が、俺の顔を撫でる。
見覚えのある女の子に会って安堵したのか、視界が漆黒に染まる。
その瞬間、俺の意識はあっという間に闇に沈んでしまった。
「頑張ったんだね、お兄ぃ」
黒髪の少女は、「お兄ぃ」と呼ぶ少年の頭を撫でた。
そして優しく抱えて、安全な城内へと運んだ。
* * *
少年を地面に下ろして、骸骨たちへと少女は振り返る。
「おい、貴様ら」
激情のままに発せられた声は、骸骨たちを震え上がらせる。
それは戦意を削ぐには十分すぎる効果がある。
だが、その声は戦意を削ぐために発せられたものではない。
ただ自身が愛する存在を殺そうとしたことに対する激怒。
「殺そうとするのなら、もちろん殺される覚悟はあるよなぁ!?」
少女は声を荒げ、激情を骸骨たちへと向ける。
その手には白い光を放つ鎖を握りしめられている。
鎖を視認した2騎の護衛は、ゆっくりと後退した。
瞬間、上空に跳び上がった少女は両手に握る鎖を繰り出した。
その鎖は鞭のように自在に動き、護衛を純粋な力だけで消した。
「さぁ、高みの見物は終わりだぞ」
刹那、上空で一部始終を見ていた骸骨は、魔力を圧縮していた。
超高速で飛翔することで、相手を撒こうとしていたのだ。
そのことに勘づいた少女は、鎖を自在に動かして集中力を削ごうとする。
だが、骸骨は最小限に抑えた風の魔術だけで鎖を受け流す。
「あぁ、もう! ウザいっ!!」
あと数秒で、逃げおおせることができると骸骨は思った。
だが、その考えは少女の絶大な一撃によって打ち砕かれる。
「───【幾望崩癒煌】」
骸骨は、世界が闇に呑み込まれたのだと錯覚した。
瞬間、その考えを打ち消すほどの光が世界を照らした。
世界を照らす光球は、少女の手中に存在していた。
少女は冷酷に骸骨へと視線を移して、光球を握りつぶす。
「なっ───この力は!?」
刹那───世界が純白に染め上げられる。
純白の光、それは太陽光の反射によって生じる月光。
敵には破滅をもたらし、仲間には癒やしをもたらす。
それこそが、月煌神の
───
最後まで読んで頂きありがうございます!




