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【書籍1巻発売中】魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~  作者: 延野正行
第6章

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第83話 運命の出会い的な?

本日、コミカライズが更新されました。

ピッコマおよびコミックノヴァにて最新話が読めますので、よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 何事にも選ばれることに対して、我は悪い気持ちはしない。

 一番強い学生というのも、不本意ながらその通りなのだろう。


 ただ我は今、聖女であって、大魔王ではない。

 相手を癒す者であって、痛めつける者ではないのだ。


「やれやれ。我が〝番長〟とは……」


【魔術祭】のコンセプト自体は良い。

 2つの学校が競争し合いながら、日頃の成果を見せることは決して悪いことではない。

 我がそのリーダーに選ばれたことにも不満はない。

 むしろ光栄なことだ。


 ただ祭りをきっかけとして、両校の争いの火種になっているなら話は別である。


 闘争は教育ではない。

 闘争をしないために教育があるといっていい。


 なのに、血の気の多い若人ゆえの過ちか。

 毎年、【魔術祭】が近くなると、聖クランソニア学院とノクス・マギア魔女学院の間柄は不穏となり、ときに血を見るような闘争に発展するという。

 そのため、我は知らなかったのだが、この両校は昔から不仲で、ライバル校だったそうだ。


『そういうわけで、ルブル姐さん。街中でノクス・マギア魔女学院の学生服を見たら気を付けてください。特に姐さんが〝番長〟って聞いたら、絶対潰しにきますよ』


 そう言って、ネレムはノクス・マギア魔女学院の〝番長〟の情報を探るために、授業が終わるなり、王都の中心部へと走って行った。

 なんでも、向こうも〝番長〟が交代したそうだ。


 我はハーちゃんを実家まで送ることにした。

 王都が物騒と聞けば、ネレムはともかくハーちゃんの身が心配だ。

 我と違って、ハーちゃんはか弱いからな。


「ルーちゃん、ありがと。また明日」


「はい。また明日」


 お互い手を振り、ハーちゃんを実家に送り届けたあと、我は少し王都のほうを散策する。

 今日の授業で教官殿から参考にすべき書籍を提示されたゆえ、書店に立ち寄ろうと考えたのだ。


「しかし、こうして王都を歩いてみると、何やら不穏な気配を感じますね」


 子どもの祭りと思っていたが、まるで内戦下のような緊迫した空気を感じる。

 祭りが近いと浮かれる者がいる一方、殺気を隠さぬ学生もいた。

 だいたいが黒い学生服を着ているから、すぐノクス・マギア魔女学院だとわかる。


 聖クランソニア学院と違って、襟元とリボン以外すべて黒で統一され、若干最近のデザインからすると古くささを感じる。まるで昔の水兵のようだ。ただ見る者が見れば、それが奥ゆかしくも見え、学生服としてのデザインの基本に立っているような気がする。


 なるほど。こうして意識してみると、そこかしこに黒い学生服の生徒が立っていた。


 やれやれ。これでは戦時下の都ではないか。


 トラブルは望むところではない。

 書店で書籍を購入したら、真っ直ぐ学生寮に戻ることにしよう。


 教官殿が勧めてくれた書店に立ち寄る。

 戸を開け、「ごめんください」というと、奥にいる店主がひょこっと顔を出す。

 ご自由に、という感じて軽く手で示すと、書店独特の香りに包まれながら、先般の書籍を探した。


 書店は小さいが、教官殿が勧めるだけあって、本がギッシリ並んでいる。

 棚も高く、天井近くまであった。


「文字順では、この辺りだと思うのですが」


「うーーーーーーーーーーん! うーーーーーーーーーしょっ!」


 角を曲がると、いきなり唸り声が聞こえてきた。

 何事かと思い、目線を上げると、黒い学生服が見える。

 ひと目見て、ノクス・マギア魔女学院の生徒だとわかった。


 ややくすんだオレンジ色の髪に、垢抜けないそばかすのついた顔。

 如何にも田舎娘という感じだが、目鼻立ちははっきりしているので、あとは髪型さえ整えてやれば、それなりに見栄えのいい美少女といえるかもしれぬ。

 その不器用な結ばれた三つ編みが今にも解けそうだった。


 エリアナほどではないが、小柄な身体を目一杯伸ばして、高いところにある本へと、手とつま先を伸ばして奮闘している。

 努力は認めるが、手と本の間が、拳2つぶん離れていた。

 とてもではないが、取れそうにない。


 手助けするのが最善なのはわかっているのだが、先ほどライバルといわれた学校の生徒である。果たしてこの場合、助けていいものか。


 自分でも珍しく悩んでいると、学生はついに足を滑らした。

 体勢が崩れると思いっきり目の前の本棚に倒れ込む。

 弾みで本棚の書籍が、一斉に落ちてきた。


「あぶない!」


 我は反射的に飛び出していた。

 元大魔王が人助けなど柄にもない。

 まして回復魔術の深奥を極める我にとって、他校の生徒を助ける義理は一寸たりともないであろう。


 ただそのとき、なぜか身体が勝手に動いていた。

 大魔王であったとき、こんなことはなかった。

 これも人間に転生した影響だろうか。


閾歩(ディスン)


 我は狭い書店の中を駆け抜け、生徒を抱きかかえたまま安全地帯まで退避する。

 本は盛大に崩れたが、なんとか事なきを得ることができた。


「大丈夫ですか?」


「はい。ありがとうございます」


 少女は顔を上げる。

 すると、何かハッとしたように我の姿を見つめた。

 聖クランソニア学院の制服に反応したのだろうと思ったのだが、次に少女の口から漏れた言葉は、ちょっと意外だった。


「綺麗な顔……。まるで女神様みたい」


「女神?」


「あ。ご、ごごごごごめんなさい。そのおら……じゃなかった、わたくし、その……心の中の言葉をつい口にしてしまうというか」


「ん? それって悪いことなのですか?」


「え?」


「裏表のない、あなたの本当の言葉ってことですよね」


 ただ女神というのはやめてくれ。

 我の美しさを称えたものであることは理解しているのだが、女神と聞くとどうしても聖霊エリニュームの顔が浮かんでしまう。


「……そ、そうです」


 少女の顔が、正確に言えば、耳たぶが急激に赤くなっていく。


「あ。怪我をしてますね」


 その少女の額から少し血が出ていることに、我は気づいた。

 おそらく本棚に突っ込んだときだろう。

 顔面から言っていたからな。


 少女は額を指でなぞる。

 血の付いた指先を見て、ホッとした様子だった。


「これぐらい大丈夫です」


「ダメです。化膿したらどうするんですか」


 まして嫁入り前であろう。

 放っておけば、傷が残る。


「大丈夫です。私、回復魔術には自信があるので」


 我は両手に魔力を練る。


 こうなればライバル校だとか、敵とか関係ない。

 目の前に傷があらば、治療するのは聖女にとって必定。

 あらん限りの力を使って、癒すのみだ。


「え? あ。ちょっ……。大丈夫なんですか、それ」


「問題ありません。行きますよ」


「ひぃいいいいいいいいい!!」



 回復してやろう……!



 回復の光がカッと弾け、狭い書店の中を白く染める。

 その中で少女の悲鳴だけが響き渡った。


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そちらもどうぞよろしくお願いします。


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挿絵(By みてみん)

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