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【書籍1巻発売中】魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~  作者: 延野正行
第6章

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第82話 番長は君だ!

本日コミックノヴァ、ピッコマにて

『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』

コミカライズ第5話が更新されました!


ついにハーちゃんが登場。

初々しい2人の初対面をお見逃しなく。


※ニコニコ漫画でも更新されているので、お気に入りを入れていただけると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)

 長かった……。

 とても長かった……。


 我は聖クランソニア学院の学舎へと続く小道を歩きながら、嬉しさを噛みしめた。


 長い長い夏季休暇が終わり、今日から新学期。

 ようやく、やっと、再び学業が始まるのだ。

 最近、友達を作ったり、うっかり魔族を更生したり、我の偽物を退治したりしていたが、我が聖クランソニア学院に来た理由はただ1つ!


 回復魔術を極めるためである。


 その本来の目的が、2カ月以上鍛錬できなかったことに、我がどれほどの焦燥感に身を焼かれていたか。本来、目にはできぬものであろうが、可能であるならば、我に夏季休暇という拷問を与えた【大聖母】アリアルに見てほしいものだ。


 とはいえだ……。


 決して夏季休暇というものが悪かったとは思わぬ。

 時に学校で学ぶだけでなく、自学を取り入れることは大いに結構だ。

 それにハーちゃんやネレム、ついでにエリアナといい思い出を作れたことも僥倖。

 海で遊戯に耽るなど、学院ではできぬことだからな。


 しかし、それでも我にとって学院生活が再開したことのほうが嬉しい。

 本来であれば、飛び上がって喜びたいところだが、淑女としての理性が押しとどめている。それでも、口角がどうしても上がってしまうのだがな。


「フフフ……。ウフフフフ……」


「(ジャアクが笑ってる)」


「(きっと学校生活が始まったことに怒ってるんだ)」


「(怒りを通り越してってヤツ? やっぱジャアクだわ)」


 周りのこそこそ話を耳にしつつ、歩いているとハーちゃんとネレムに出会った。

 我が登校するのを待っててくれたらしい。


「ルーちゃん、おはよ」


「ハーちゃん、おはようございます」


 ハーちゃんが手を振ると、我も軽く手を振り返す。

 久しぶりのハーちゃんとの朝の会話。

 それに、私服や水着姿も良かったが、やはりハーちゃんは学院の学生服がよく似合っているような気がする。


 何より「学校に戻ってきた」という気持ちが強かった。


 対して、ネレムは我の顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。


「ルヴルの姐さん、ご無事で何よりです」


「おはようございます、ネレム。ええ。元気ですよ。今から回復魔術を1万回復唱したいぐらいには。ネレムは何か顔色が悪いですね。私の回復魔術をかけてあげましょうか?」


「い゛! いやいや、結構です」


「それは残念です。腕によりをかけて回復魔術をかけてあげたのに」


「それはまた今度ってことで……。それよりも姐さん、耳に入れていただきたいことがありまして」


「それは回復魔術の深奥に関係することですか?」


 我が食い気味に尋ねると、ネレムは我の言葉を否定せず、少し神妙な顔でこう言った。


「……はい。実は、聖クランソニア学院のピンチです」


「なっ!」


 その言葉は、我――大魔王ルブルヴィムの心を揺るがした。



 ◆◇◆◇◆



「魔術祭?」


 学舎からクラスへ向かう道すがら、ネレムの言葉に耳を傾けた。


 なんでも新学期早々、王都では学生を主体とした学生祭が2つある。

 早春に行われる【剣術祭】。そしてもう1つが、秋に行われる【魔術祭】というわけだ。


 主な目的は日頃の魔術の技術を発表する場として、また魔術を通した若い術士の交流の場として長きに亘って実施されてきたらしい。


「学生が日頃の成果を国民の前で見てもらう。素晴らしい催しではありませんか?」


 我もターザムとマリルを祭りに呼び、日頃の鍛錬の成果を見てもらうとしよう。

 マリルはともかくターザムに、完璧な回復魔術を披露できれば、我を嫁になど2度と考えぬかもしれん。


 ワクワクといった面持ちの我に対して、ターザムはやれやれと首を振った。


「姐さんはそういうと思いました。……けれど、これは単なる祭りじゃありません」


「祭りじゃないなら何なんですか?」


「戦争です」


「はっ?」


 思わず自我を失ってしまった。


 ネレムはときどき思いも寄らない発言をするが、今回のは特に効いた。


 祭りが戦争……?

 どういうことだ?

 それとも、人間の祭りという意味を、我ははき違えているのだろうか?


「1番の問題は、この【魔術祭】は聖クランソニア学院に留まらないことです」


「実はね。【魔術祭】にはもう1つ学校が参加するの」


 王都の下町出身のハーちゃんが補足する。

 田舎のアレンティリ子爵家の出身の我とは違い、ハーちゃんもこの【魔術祭】のことをよく知っているらしい。


「王立ノクス・マギア魔女学院……。聖クランソニア学院が聖騎士、神官、そしてわたしたち聖女を養成する学校なら、向こうは魔女や魔物使い、暗黒剣士を育てる養成機関なの」


 魔女という単語は昔からあったが、それが職業であることは初めて知った。


 ハーちゃん曰く、魔女とは呪術や薬学、占術、魔導具研究などのエキスパートを指すようだ。その専門家を育てる教育機関こそが、王立ノクス・マギア魔女学院というわけだ。


 王都の中でも聖クランソニア学院と肩を並べる大きな教育機関らしい。


「ハーちゃん、詳しいですね」


「聖クランソニア学院と王立ノクス・マギア魔女学院、どちらに入学しようか考えていた時期があったの。あっちでは、薬学を教えることができるから」


 ハーちゃんは病気で亡くなった母親の無念を晴らすために、聖クランソニア学院の門戸を叩いたと言っていた。回復魔術と薬学――どっちにしようか悩んだというわけだろう。


「つまり、その王立ノクス・マギア魔女学院も【魔術祭】に参加する――と。それが、なぜ〝戦争〟という物騒な言葉につながるのですか?」


「それは両校とも長きに亘って、【魔術祭】を通して争ってきたからよ」


 我らが教室で話をしていると、別の人間の声が我らの会話に混じった。


 振り返ると、黒髪ショートの――まるで子どもような生徒が、やや疑惑に満ちた目で我を睨んでいる。


「エリアナさん、おはよう」


「よう。ちっこい先輩」


「エリアナさん、おはようございます」


「ハートリーさんとルブルはいいとして、〝ちっこい先輩〟って何よ!」


 早速、ネレムに掴みかかる。


 エリアナ・ルヴィエ。

 聖クランソニア学院において成績上位8名からなる自治組織【八剣(エイバー)】の第二席にして、17歳にして聖剣【氷華蠍剣(アイスコーピオン)】を賜った天才。ただ今は、聖騎士課程から転科し、我と同じ聖女候補生となった変わった娘である。


 ちなみに手に持った鞄についた人形はマケたん人形なるキモカワイイ物体が、吊り下がっていた。


 我らと顔を合わすなり、エリアナは井戸の穴よりも深いため息を吐いた。


「とうとうこの時期が来たのね。やれやれだわ」


「エリアナさんは、昨年の【魔術祭】に参加してたのですか?」


「ええ。まあね」


「……え? でも、その頃は聖騎士候補生だったんでしょ? 【魔術祭】は魔術に特化したから聖騎士候補生は関係ないんじゃ」


 聖騎士候補生は、主に早春に行われる【剣術祭】が重要なのだそうだ。


「ええ。エリアナもそのつもりだったわ。……でも、どうしてもって言われて。正直に言うと、剣術と比べたら魔術は苦手なのよね」


「エリアナ先輩なのに、昨年〝番長〟を務めてましたよね」


「ええ。不本意ながらね」


 エリアナは肩を竦める。


 聞き慣れない単語がまた出てきて、我は目を丸くした。


「ばんちょー?」


「【魔術祭】のリーダーのことを伝統的に〝番長〟って呼ぶんだよ」


「昔は魔術祭に参加する学生が指名制で、魔術祭()っていう生徒がいて、そのリーダーを〝番長〟と読んだって聞きました。その名残ですね」


「今年は揉めそうでなくて何よりだわ」


 エリアナはニヤリと笑うと、ネレムはうんうんと頷く。

 ハーちゃんも苦笑いだ。


 どうやら、番長を決める方法を話しているようだが、どうやら我以外はみんな知っているらしい。ちょっとなんか仲間外れにされたような気分だ。


「なんですか、みなさん。私のほうを向いて」


「ルブル、【魔術祭】の〝番長〟を決める要素はたった1つだけなの」


「それは……」


 我はゴクリと息を呑んだ。


 エリアナは再びニヤリと笑って、我を指差しこう言った。


「その学院で今、一番強い学生。……――すなわち今年の〝番長〟は」



 あなたよ、ルブル・キル・アレンティリ!


そら。そーよ。


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