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【書籍1巻発売中】魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~  作者: 延野正行
第5章

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第78話 ゴーストと会敵する

本日、コミックノヴァにて「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」コミカライズ第2話が更新されました。

ピッコマのほうでも先行配信しておりますので、そちらでもどうぞ!


挿絵(By みてみん)

 夜になり、我らは泊まっている宿から再び浜辺へやってきた。宿は海の家の主人の知り合いが経営している宿屋で、ゴースト退治のことを聞き、無料で泊めてくれるという。

 元々どこかに宿をとるつもりだから、手間も宿賃も省けた。マリルからもらった宿泊費は、お土産代にしよう。


 そんなことを考えながら浜辺に到着し、ゴーストが出るという海岸端の洞窟へとやってくる。


 夜の海も薄気味悪いが、夜の洞窟もさらに薄気味悪い。幸いヒカリゴケがびっしり生えていて、さほど暗さは感じないが、背後から聞こえてくる漣の音がとても不気味だった。


「海の家の話では、この洞窟は『魔物の口』って言われてて、入った人が2度と出てこない曰くがあるらしいんス」


「普段立ち入り禁止にしてるそうですね」


「ええ。娘を捜しに中に入った父親が出てこなくなって、さらに捜しにいった母親もでてこなくなったって。もう100人以上も行方不明になってるらしいッスよ」


「ちょっと怖いね」


 洞窟の天井を見ながら、ハーちゃんが声を震わせる。我は当然問題ないのだが、年頃の娘にとっては薄気味悪い場所だ。


「大丈夫ッスよ。何かあっても、あたいと六郎丸が守るッス。な、六郎丸!」


 というと、ネレムが連れてきた使い魔が、シャベルを掲げる。ネレムの使い魔はミニワーフだ。小さくとも力持ちで、どんな岩盤にも穴を掘ることができる。たとえ我らが生き埋めされても、ミニワーフがいれば安心というわけだ。


 ちなみにミニワーフは鋭い瞳と、針金のようなひげ面をしていて、決して可愛いとは言えないのだが、ネレムは「六郎丸」と名前を付けて、可愛がっている。名前の由来は内緒だそうだ。


 さすが、穴の中だけあって、六郎丸はテクテクと穴の奥へと向かっていく。心強い味方だ。


 我もケルを連れてきたいところだが、昼からずっと寝入っていて、テコでも動かぬ。よっぽど何か疲れていたのだろう。もしや我に隠れて、秘密の特訓でもしているのかもしれぬ。ああ見えて、執念深い使い魔だからな。今もなお主人の寝首を狙っているのかもしれぬ。さすが我が使い魔だ。


 ちなみにハーちゃんのペガサスは、身体が大きすぎて、洞窟に入らずお留守番となった。


「残念でしたね、ハーちゃん」


「仕方ないよ。……そういえば、エリアナさんを宿に置いてきたけど、大丈夫かな?」


「大丈夫ですよ、エリアナなら」


 エリアナは沖の方に流されながら、夕方には戻ってきた。こちらもよっぽど疲れたのだろう。そのまま爆睡し、今も宿のベッドで寝ているはずだ。


『お……。んん……』


「る、ルーちゃん! へ、変な声出さないでよ」


 突然、ハーちゃんは叫ぶ。


「私じゃないですよ、ハーちゃん」


 我は指差す。


 すると、岩の隙間、あるいは壁、天井から何かぬらりと半透明の顔のようなものがあらわれる。それは尾を引きながら、空中を浮遊すると、あっという間に我らを取り囲んだ。


「こ、これがゴースト……! なんて数だよ」


「100、いやそれ以上いますね」


「ビビることはねぇ! やるぞ、六郎丸。………………六郎丸? 六郎丸どこだ?」


 気勢を吐いたネレムだったが、当の使い魔――六郎丸の姿がない。振り返ると、六郎丸が地面に穴を掘って、隠れようとしている最中だった。


「六郎丸! 自分だけ逃げるな!」


 


「あれ?? 


「キャッ!」


 ハーちゃんは悲鳴を上げながら、かろうじて襲ってきたゴーストを避ける。尻餅をついたところに、別のゴーストが襲いかかってきた。


「【浄火(ホーリー)】!」


 我は浄化魔術をゴーストにぶつける。

 光る炎を浴びたゴーストは、バターのようにとけると、天に召されていった。


 使えないことはないが、回復魔術と同様に聖女が使う神聖属性の魔術はどうも苦手だ。人間になっても、あまり出力が上がらないところを見ると、やはり宿業が大魔王であることが原因なのだろう。


「大丈夫ですか、ハーちゃん」


「うん。ありがとう」


 ハーちゃんは嬉しそうに我の手を取り、立ち上がる。


 それにしてもなかなか数だな。


 海の家の主人が数まで把握していたとは思えぬが、ひよっこの聖女に任せるのはちょっと無理がないだろうか。ゴーストだから質量的な戦力差は感じないものの、これが100体の魔物だとしたら結構な戦力だぞ。……いや、もしかして本物の聖女は、この10倍、あるいは100倍ぐらいの数を相手取っているのかもしれぬ。

 なんと人間の聖女は、大変なのだな。我がなかなかその高みに追いつけぬわけだ。


「相手は私たちと相性がいいゴーストです。怯むことはありません。落ち着いて、力を合わせれば私たちでも対処できるはずです」


「姐さん! わかりやした!」


「うん。頑張ろう!!」


 ゴーストの群体を見て、怯んでいた2人の士気が戻る。我のアドバイス通り、2人は【浄火(ホーリー)】を使って、ゴーストたちを駆逐していく。


 ハーちゃんもネレムも、夏季休暇が始まるまでたっぷり実践訓練をこなしてきた。我ほどではないが、それなりに修羅場も超えている。3人で落ち着いてやれば、教官殿がいなくてもゴースト退治など目ではない。


「この調子です。2人とも油断だけはしないようにしてください」


「キャッ!」


 言った矢先から、ハーちゃんの悲鳴が響く。


 我は振り向きざまに、ハーちゃんの援護をしようと【浄火(ホーリー)】を構える。しかし、立っていたのは3人組の男だった。


 ん? あやつら、昼間に我をナンパした男たちではないか。どうしてこんなところに? もしやこやつらもゴースト退治にやってきたのか?


「ガアアアアアアアアアア!!」


 およそ人の叫び声ではなかった。

 まるで獣みたいに声を上げると、我らの方に襲いかかってくる。


「な、なんだ、こいつらの力……! なんかこいつら尋常じゃないですよ、姐さん!」


「もしかして取り憑かれてる?」


 どうやらハーちゃんの言うとおりのようだ。力が強いのは、我の回復魔術のおかげだろうが、我は回復させただけで獣にしたわけではない。


 何故こやつらが洞窟にいるのかはわからぬが、ゴーストに取り憑かれているのは間違いない。


「どうしよう。ゴーストを追い払う魔術なんて習ってないよ」


 神聖属性には、【戒霊(レミド)】という取り憑いた怨霊を取り払う魔術が存在する。しかし、これはまだ授業で習っていない魔術だ。回復魔術以外の術理を極めている我は使えるのだが、出力が大きすぎて、悪霊ごと男たちの魂まで払ってしまうかもしれない。

 くっ。極めすぎた弊害がこんなところに出てくるとはな……。


 しかし、このままでは我らがゴーストに乗っ取りかねない。かといって、このまま【浄火(ホーリー)】を使い続ければ、取り憑いた人間の魂も傷付ける恐れがある。


 む。どうする? 攻め手がなくなってしまった。


「いや、攻め手がないなら、守り手を使うしかない」


 そうだ。我には圧倒的な守り手の力があったではないか。今、ゴーストに取り憑かれている男たちは、身体に損傷しているといっても過言ではない。ならば、我としてはやるべきことは1つ。



 回復してやろう……。



 カッと洞窟が白く光を帯びる。

 眩い光に、男たちはおろか周りにいたゴーストすらかき消されていった。


 暴力的な光に少々目がチカチカする。

 だが、我は手応えを感じていた。


 光はやがて止み、元の洞窟に戻る。

 我が目を開けた時、男たちが洞窟の地面に倒れていた。ネレムとハーちゃんが意識を確かめる。


「寝てるだけッスね。どうやらゴーストが払われたらしいッス」


「良かった…………って!」


「どうしました、ハーちゃん?」


 突然ハーちゃんが固まったので、我は後ろを振り返る。


 そこにいたのは、沢山の人影だった。

 いや、普通の人間ではない。よく見ると、半透明で透けてみえる。もしかして、こやつらは元ゴーストか。


 ということは、これって我の回復魔術でゴーストが……。



「「「か、回復してるぅぅぅうううう!!」」」



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挿絵(By みてみん)


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