二章 20夢 輻輳
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薄れ行く意識の最中、それを受けた時、プツンと突如としてブレーカーが落ちたような感じだったのを覚えている。
だけど、やってきたのは暗闇ではなかった。
目の前は黒じゃない。黒くない別の何か。
――――別の色だった。
この色は見覚えがあった。
何だっけ。どこで見たっけ。どこに――あぁ、そっか。思い出した、思い出した。
何で忘れてたのか。何で覚えてなかったのか。何で――、
この色の名前は確か、
『――』
『――』かった。そうだ『――』かった。
ちょっと黒かった。真っ『――』じゃなかった。
それで目の前が『――』くなっていったんだ。
――――あれ?
ふと疑問に思った。
何で目の前がそうなったんだろう、と。
それでもすぐに答えはやってきて、
――――でもまぁ、いいや。そんなこと、もうどうでもいいや。考えても仕方ない。考えたって仕方ない。どうしようもないことなのだから仕方ない。
出した答えに対し、無力なのを瞬時に悟った。シンプルな答えを今は待つばかり。
それは誰にでも訪れる、
――『死』
今はただ……。
……。
…………。
………………。
――――あり得ない。
あり得ないことを理解した。理解しがたいことを理解できる脳が死んでいないことを理解した。
――闇だった。
周りは見えない、嗅げない、聴こえない、感じれない。味もしない。ただ脳だけが働いている状態。
何がなんだか分からない。分かるための手段がない。情報源がない。
何かが巡っている。何かが廻り、今にたどり着いた。それが今の状況。この脳だけが働いている世界。
だが、こうなった元凶は分かる。そんなの一つに決まっている。
――――『赤』
『赤』だ。
『赤』のせいだ。
『赤』が悪い。
全ての元凶は『赤』だ。紛れもない事実を『夢美』は理解する。
夢美はただ、普通でありたい平凡な女の子だ。
平穏であること。いつもの日常があればそれでよかったのに、何でこうなってしまったのかなど、分かるはずがない。
現実、あり得ないことが起きているのだから、模範解答などありはしない。あるとするなら、あり得ないことがあり得ない事実としてあることだけだ。
いつからこうなったのか。どこでその道に入ったのか。何のために連れてこられたのか。分からない。分からないけど、それでもそこは楽しかった。
――『異世界』は確かに楽しかった。
辛いこともあった。苦しいこともあった。だけどそれ以上の新たな出会いが上回っていた。特に――。
心のどこかでそれを望んでいた分、膨らみ、破裂したギャップは存在している。
強い自分。天才な自分。慕われる自分。
思い描いたものとは違えども、それでも構いはしなかった。自らの立場を受け入れて、立ち位置を形成する。そう、心に決めたはずだった。
それなのにも関わらず、心は揺れている。
『異世界』で過ごすと決めたはずだったのに。
『異世界』で生きると決めたはずだったのに。
『異世界』で自分を示すと決めたはずだったのに。
――もう一度、『現実』に帰りたいと思ってしまった。
あの日々を、と。あの毎日を、と。あの時間を、と。身勝手にも切り捨てたはずの一つを望んでしまった。
無くした記憶。消せない記憶。戻らない記憶。分かっていても、約十七年間、自分の生い立ちが刻まれた世界を渇望してしまう。
お母さんと過ごす日々。お父さんがいる日々。友達と過ごす日々。そんな変わらない毎日。
今さら思っても仕方のないことなのかもしれないけれど、あの日々が恋しい。思えば思うほど恋い焦がれてしまう。皆といたい。甘えたい。
そう思うと自然と涙が出る。出ているのかは分からない。感覚がない。でも流れてる感じがする。誰かが拭ってくれてる気がする。誰かが優しく語り掛けてくれてる気がする。
もう一度言う。夢美は普通でありたい女の子だ。
それもこれも全ては『赤』が狂わせた。普通を乗っ取り、染められた。
――何故、花開いしまっているのか。
嫌気が差す。『赤』に対するぶつけようのない批判。ぶつけても仕方ないことぐらい、夢美も理解している。分かっている。
だって『赤』は、ただ存在しているだけだから。『赤』というだけだから。
現実。これは現実なのだ。受け入れなければならない。
夢美を待っていたのは『無』ではなかった。『死』ではなかった。そんな現実を受け止めなければならない。
『夢』であればと――それこそ夢のまた夢。夢物語。馳せるだけ無駄。『異世界』は『夢』ではないし、『現実』も『夢』ではない。『死』もまた然り――。
追憶する思いの数々。儚く散ることなく輻輳して一つが出来上がっている。
――それが『リダイアル』
目を背けたくなるような答え。たどり着いたあり得ないに、脳が休みを求めだした。
それはつまり、終わることを意味する。そして始まることを意味する。
抜け出したことで、終わったと勝手に思っていた。実際、時は進み始めて、新たな出会いの種が生まれたのは確かだった。
だが、それとは別の種が生まれていた。生まれたがために、味わわされた新たな死。恐怖。弊害。それらは変わることなくこれからもきっと続く。
何も変わらない。何も変わりなどしなかった。
夢美は再び、『掛け直し』が待つ現実の非情さ理解した。
ユミは再び、『掛け直し』が来る夢の有情さを理解させられた。
……。
…………。
………………。




