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夢戻リダイアル  作者: やまは
現実七日、夢六日
42/63

二章 13夢 様々に様々な様

 現状、ユミの服は三つほどある。

 一つ目が、異世界にやって来た時のパジャマ。だがそれはない。どこにあるのかさえ分かっていない。そこに入っているはずのスマホもまた然り。

 二つ目は、ユミが寝ている間に着替えさせられていた、水色のネグリジェ。今はユミの部屋にある。

 そして最後、三つ目がカジュアルな服。これは今、ずぶ濡れ状態である。

 改めて確認したのには訳がある。つまりそれは――、


「ふ、服がない……」


 ユミは一足先にお風呂場から脱衣場へと来ていたが、その事実に唖然とする。あわてふためいて、脱衣場内を隈無く探すが、それらしいものは見当たらない。あるのはカイとアルメリアの服だけ。


「これはつまり……私はどっちかを選べと。――そういうことですか!? カイさーん! アルちゃーん!」


「……違うからね、ユミ。そんな訳ない」

「……()()。カイさんの()()()()()です」


 遅れること約二分。一人裸で叫ぶユミに、冷徹な二人の双眸が突き刺さる。


「じょ、冗談です。冗談。真に受けないでくださいね――ホントですからね!?」


「……どうだか」


「私の服は()()()()()?」


 若干からかいの糸が見えているカイだが、アルメリアは表情が変わらないためにどちらか分からない。声色もそれに拍車をかける要因の一つであった。


「……わ、分かってるよアルちゃん。そんなことしたら、私が危ないよ」


 しっかりと否定の意思を示すユミ。アルメリアの服は、流石のユミでも入らない。入らないことはないが――ヤバい。


「私の予備の服、貸してあげる。濡れた服が乾いたら、交互に使うといいよ」


 カイは自分の畳んでいた服の下から、似たような服をユミへと見せる。そしてユミは、それらを受け取ると、下着の上から着込んだ。

 襟つきの白の上着。茶色のタイトなスカート。肌を見せない黒のタイツに、膝下まであるブーツ。まるでカイを――女騎士を彷彿とさせるような服装であった。若干ラフな軽装なのは、この上から鎧を身に付けるためであろう――動きやすいのは。


「な、何だか、やっと城に馴染めたような気がします」


 腰に備わるベルトに剣でも携えれば、赤髪の女騎士の爆誕。見た目からそんな異名がつきそうだがその実、ユミの中身はからっきし。異名に見合うほどの実力など伴ってはいない。まだ甲冑の中の空気の方が真がある。

 カイと服装だけはよく似ている分、真の欠如以外にも、ユミには大きくのし掛かる現実がある。


 ――――胸、負けてる。


「何か言いたげだね。なに?」


「い、いえ、何でもないです!?」


 着替え途中のカイから、まるで読心術でも会得しているのかの如く、タイミングバッチリだったその投げ掛けに、ユミは慌てて煙に巻く。「ふふっ」と、カイは嘲笑だけを残して、それ以上詰め寄っては来なかった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 脱衣場からユミ達は、彼女の部屋へと向かっていた。

 廊下の窓の外は既に真っ暗。雨も相まってより深い闇色だが、城内はそう感じさせないほど明るい。そのため窓ガラスには、廊下がそのまま反射しており、もう一つ同じ世界を映えさせていた。


「私はこれから殿下にユミが戻ったことを報告するから、何かあればアルを頼ってね。――それじゃ、お休みユミ。また明日」


「はい。ありがとうございました、カイさん。お休みなさい」


 ユミの部屋へ到着し、客間にユミとアルメリアを入れると、カイはそう言って部屋を後にした。ユミはそれに応える挨拶で――アルメリアは頭を下げてそれに応えている。


 二人きりとなった部屋で、ユミは一先ずソファーへと腰かけた。コウから貰った懐中時計を開いて、時刻を確認。寝るにはまだ早い――はずだ。はずというアバウトな思考なのには理由がある。それは、時計に刻まれている数字が、数字足り得ないためだ。

 これが異世界の数字なのかと、ユミは戸惑いながらも体は微睡んではいないために、そう結論付けた。風呂上がりというのもあるが、そうするしか今は手がない。

 

 準備万端。憂いもない。恐れもない。そうしてユミは一呼吸置いて、アルメリアへと真っ直ぐに切り出した。

 ――文字を教えて欲しいと。

 

「――と言うわけ、何だけど……教えてくれないかな? このとおりっ」


 ユミは立ち上がり、頭を垂れて、両手をその前で合わせた。懇願するポーズを取ったのだ。

 端から見れば、その行為は情けない。だが、恥を忍ばずして何を得ることができるのか。情けないのは重々承知している。自分は無知で、相手は博識――いや、その逆だ。頼み込んだ相手からすればそうなのだ。だから、こう置き換えられる。

 ユミの行動は、端から見れば立派である、と。


 文字を教わることを頼める相手など、ユミにはその人物を除いて他になかった。

 一人は読めると思っている。識字する様を現場を目撃しているためだ。それに―――。

 ならばと、もう一人に頼もうとしたが、それは止めた。本命であったものの、その人物にまた余計なことを知られたくなかった。薄々勘づいてはいそうなものだが――余計な詮索は止めよう。

 彼女はユミを信頼しているからこそ、まだ彼に魔女であると知られていないはずなのだから――。

 ある二人はどこにいるか分からない。恐らくは兵舎であろうが、降りしきる雨の中、どこにあるとも知れないその場所へと辿り着くのは熾烈を極める。今度は着る服が無くなる。

 ある一人も一応の候補であるが――あり得ない。二人きりなどトラウマが掘り起こされるだけだ。


 つまりはユミよりも小さい相手しかいない。年も体も全てが小さくて可愛らしい少女。その人物に白羽の矢――もとい白兎の耳が立った。


「――お願い、アルちゃん。何も聞かないで、私に文字を教えて下さいっ!」


 侍女のアルメリア・スリフト。ウサミミを持つ亜人。

 ユミから頼み込まれたアルメリアは、表情も声の抑揚さえも変えずに、「()()()」という拒否の言葉でそれを承諾し、


「では()()に、ユミ様の()()()()()()()()下さい」


「……ん? んん!? ちょ、ちょっと待ってね」


 突発的に起こる最大瞬間風速という名のアルメリアの相反癖。


 ――――わ、訳分かんない。

 当然ながら、瞬時に理解など不可能。しばらくユミは黙りこくって思考を巡らせることに集中する。

 最後は最初だ。それはすぐに分かった。秘めた力とは――習わすとは――。


「……! そっか! まず最初に、私の実力を教えて欲しいってことね!」


 正解を導き出し、アルメリアへと視線を向けるが、そこに――この客室に彼女はいない。辺りを見渡してもそれは同じであった。


「あ、あれ!? アルちゃーん!」


「ユミ様。こちらへ()()()()()()()


「……えっ!? ど、どうしたの!?」


 アルメリアの声が上がり、その言葉にユミは不安に駆られた。何があったのかと、彼女の声の出所――隣の寝室へと、ユミは急いで駆け出した。思考を放棄し、ただいち早く駆けつけることだけに姿勢を向けた。突如として消えたアルメリアの姿と、その言葉の意があまりにも一致してしまう。守ると約束したはずなのに――。

 だが、来ないで下さい。それが意味するものはつまり――、


「あ、アルちゃん! 何が――」

「――ユミ様。()()()()()|()?」


 ユミは寝室の扉を開けながらに、声を荒らげた。切羽詰まった表情の彼女に飛び込んだのは――そこには何事もなく、大事に至ってはいないアルメリアがそこにはいた。


「ええっ!? 終わるの!? どういうこと!?」


 次から次へと送られる相反癖に戸惑いが止まらない。思いの赴くままに言葉を口に出す。だが、アルメリアにとってその癖は普通なのだ。だから、「……?」と首をかしげて、ユミの言葉にただ困惑な様子なのもまた普通である。何しろ彼女にとって発する全ての言葉の意は、普通なのだから――。


 普通に慣れなければならない。ユミが異世界で普通であるために。その普通を今から手に入れる。一朝一夕で全てを習得するなど不可能だ。だが確実に、着実に、一歩一歩前には進めている。


「オッケー。大体整理したよ。――始めよっか、アルちゃん」


()()()。では、席に()()()下さい」


 促されるままに、ユミは寝室にある一つの机に座った。

 糸はゆっくりと紡がれる真っ只中。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 懐中時計の違和感はもう一つ。その異世界数字をいくつ数えても,『十二個』の数字がない。足りないのだ。それ以外は時計と何ら変わりはないのに――。

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