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獣と英雄のイクノス  作者: 樫谷 和樹
第二章 王都獣乱編
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第二章 二話 『強さの象徴』





 「じゃ、ここで解散だな」


 紅色のローブを翻し、ログは後ろ手に手を振り、別れを告げる。露店が立ち並び、酒精に身を任せた人々の笑い声が絶えない中を進み、やがてその姿は喧騒の中に消えていった。


 ログを見送ったクロアとセフィラはログとは別方向に歩いていく。徐々に人々の喧騒は少なくなっていき、周りを見渡しても人の影は無く、街灯だけが道と二人を照らしているような場所まで来た。周囲を確認したクロアは前々から思っていたことをセフィラに問いかける。


 「……セフィラ。ログに僕たちの事、マレイシャ様の事を伝えなくていいのかな?」


 同じパーティーになったものの、未だにクロアが黒い獣に傷を与えることが出来ること、マレイシャから与えられたゆくゆくは黒い獣を殺すという密命、これら一切をログには伝えていなかった。


 セフィラは、ハアとため息をつき、クロアに向けビシッと指を差す。


 「いい、クロア?私たちがマレイシャ様と繋がっているということは、ぜっったい、誰にもバレちゃいけない、最重要機密ってやつなの。貴方の力に関してもそう。おいそれと他人に事情を話して、万が一クリフォトの奴らなんかにでも伝わったらとても不味いの、信用できる人にしか話しちゃダメ」

 

 「でもログだって一緒に戦った仲だし、もっと信頼しても……」

 

 クロアは伏し目がちにセフィラを見つめる。


 「まだ一回だけでしょ。それに、彼が一度は断ったパーティー加入についても、何か裏がありそうなのよね……」


 セフィラはログの言動に疑問を覚えているようだった。


 二人は歩みを進めていくが、突如セフィラは立ち止まり、ハッと顔を上げる。そしてクロアに体を寄せながら詰め寄った。


 「ていうかクロア、貴方、私に相談も無くログをパーティーに入れようとするとはどういうことなの?」


 「えっ……あっ!」


 腕を組み、プンプンと音が付きそうな怒り方でクロアに詰め寄る彼女は、その様子から本気で怒っているわけでは無いようだ。

 しかし思い返せば、その場と勢いに任せてログを引き入れようとした事を今更ながらに思い出す。戦闘後の高揚感からか、そんな軽率な行動に出てしまった。


 「一応……私と貴方で始めたパーティーなんだから、もうちょっと頼ってくれたっていいじゃない……」


 手を組みモジモジしているセフィラを見て、クロアに衝撃が走る。同じパーティーの意見も聞かず、独り善がりの行動をしてしまった。いくらログをいい人だと思い、仲間にしたいとはいえ、一番の仲間を蔑ろにしてしまった。


 クロアの中で後悔が積み重なり、重さに耐えきれず膝から崩れ落ちてしまう。


 「ごめん……セフィラ。僕が、愚かだった」


 「そこまで落ち込まないでよ!?しかも聞いたことある反省の仕方!?」


 ログに怒られた時と同じ様な落ち込み方に、セフィラは動揺してしまう。予想以上にクロアは申し訳なく思っていたのだった。


 そんな談笑の中、通りの奥から二人組が近づいてくる。男女のペアなのだが、一人は無精髭が似合う百九十はあろうかというほどの高身長の男、もう一人は対照的に小さい、全体的に小柄な少女だった。


 「おっ!先輩、あの人らに聞いて見るのはどうだ?俺はもう足が痛くて、立ってるのもやっとな状態なんだよ。な?いいだろ?」


 「ええ~まだ王都を回りきってないよ~。あんた、今日は一日、私に付いてくる約束でしょ~?約束破るやつなんか、これでお仕置きしちゃうよ~?」


 少女は背負っている大剣を右手でコツコツと叩く。可愛らしい仕草なのだが、その叩いている大剣は少女の体を隠してしまいそうな程巨大な物で、それを背負っている光景すらクロア達にとっては違和感しかない。


 「ま、待て!王都がどれだけ広いと思っているんだよ。一日で回れるわけないんだから、今日の所は宿で体を休めて、明日……は無理だから、明後日からまた散策しようぜ、な?」


 明らかに自分より小柄な少女に恐れている男は、体をのけ反り、少女と距離を取りながら宥めようと必死になる。身振り手振りで説得する様が功を奏したのか、少女も顎に手を当て、うーんと唸りながら考えるそぶりをする。


 「……ま、それもそうだね~。もう暗いし私も眠いし~」


 「そうそう。――先輩のお仕置きはシャレにならねえからなぁ……」


 そこでようやく、二人組の視線がクロアとセフィラに向けられる。


 「あーそこのお二人さん。お見苦しい所を見せたな。突然で悪いが、どこかいい宿知らねえかな?」


 男は申し訳なそうに、こちらを見つめ聞いてくる。クロアはまだ王都に来て間もない。故に全てを把握しているわけではない。こういう質問はまだ、答えられるだけの土地勘を持ち合わせていなかった。代わりにセフィラが狼狽えながらも、男の問いに答える。


 「え、ええと、それなら西区の正門側にある、満月亭という宿屋がいいかな?……多少値は張るけど料金に見合ったサービスと、朝と晩のご飯は絶品よ」


 「おお、そりゃいいや!メシは人間の活力、魔力、行動力の源だからな!先輩、そこにしようぜ!――先輩?」


 小柄な少女は何故かクロアに近づいてゆき、クロアの体に顔を寄せ、クンクンと犬のように匂いを嗅ぐ仕草を始める。近づいてくる少女に、クロアは顔を赤くし、狼狽えてしまう。まさか臭かったのだろうかと心配になるほどだ。


 「あ、あの……なんでしょうか?」


 「――きみ、何か、いい匂いがするね~」


 クロアは自分で自分の体を嗅いでみるが、結局分からない。自分の体臭は、自分では分からないというのは聞いたことがあるせいか、クロアは少し不安になってしまう。


 小柄な少女は体を離し、ニヤニヤした笑みを浮かべていた。


 「貴方たち、ギルドの人?」


 「う、うん。そうだけど、なんでわかったの?」


 「武器の携行を認められているのは、騎士団かギルドの冒険者だからね~。騎士団の制服は着てないし、ギルドの冒険者しかないかな~と思って」


 好奇の視線に、クロアはこそばゆい感覚を覚えるが、目の前の二人の背にも武器があるのをクロアは見つける。少女の背には大剣、男の背には機構弓。先ほどの話は二人にも当てはまるだろう。


 「じゃあ、貴方たちも冒険者ですか?」


 「ああ、そうだ。こちとら久々の王都なんだよ。とりあえず暫くはここで依頼をこなすから、同じ生業どうし、何かと関わることになるかもな。これからよろしく」


 ニッと笑う男にクロアは好感が持てた。単純にいい人に見えるから、理由としてはそれだけなのだが。


 「久々って拠点を点々としているの?」


 「いや、長期の依頼でやっと帰ってきたってとこなんだ。そうしたら、王都も様変わりしていてびっくりだぜ。俺たちがいた時よりも栄えてるし、新しい酒も沢山あることだしよ」


 そういう男の顔は、よく見ればほんのり赤みが差していた。


 「後輩~そろそろ教えられた宿に行こうか~私もう眠いよ~」


 「さっき俺が休憩したくても文句言ってたくせに……うちの先輩がおねむみたいだから、俺らはもう行くよ。宿、教えてくれてありがとう。じゃあ、またな」


 少女はよほど眠いのか目を擦り、既にウトウトしており、そんな少女を見て男は不満を漏らす。傍から見れば親子のようで、実際話してみても、親子のようにしか見えない二人だった。


 少女はクロア達の横を通り過ぎ、歩みを進めていく。男もそれに続きこちらに向け礼を言う。


 そういえば、まだお互い自己紹介もしていない。その背に向けクロアは声をかける。


 「あの!お名前は――」


 「明日、ギルドに行くんだろう?その時、改めて自己紹介でもしようや。どうせ会うことになると思うしな」


 そして二人は暗闇の中へ消えてゆく。見送ったクロアとセフィラは再び帰路を歩きだす。


 「……面白い人たちだったね。冒険者にもいろんな人がいるんだ……セフィラ? どうしたの?」


 セフィラが顎に手を当て首を傾げている。何か考えているようで、うーんうーんと唸っていた。


 「……あの二人、どこかで見たことがあるような気がして……気のせい、かな。まあいっか、私たちも帰りましょう。お腹も減ったし」


 二人はマレイシャに報告するために、王城に向け歩き出す。王城といっても、ただの冒険者がこの国のトップに、普通は会えるはずもなく、素直に正門から入ろうとしても、事情を知らない衛兵に捕まるだけなので、以前同様、転移石から移動をする訳なのだが……


 そしてまたしても、セフィラはあっと何か思い出したようで――


 「そうだクロア。王城に泊められるの、今日までだから。明日には宿を見つけておくのよ」


 「……後で僕にもおすすめの宿、教えてください……出来れば安いところで……」


 そうそう甘い話も続くわけが無いと、また一つ勉強になったクロアであった。



 


 




 ――――――――――――――――――――――――









 次の日、クロアとセフィラはギルドに来ていた。黒い獣についての調査を進めたいところなのだが、今のところ手がかりも無く、とりあえずギルドで主に討伐系の依頼を受け、いざ黒い獣と戦う時の為に、修行しているところだった。受付嬢のリリアも、黒い獣について分かったことがあれば、教えてくれる手はずになっているので、現在は情報待ちといったところか。


 今日も依頼をこなそうと二人はギルドに入る。今日は朝にも関わらず、ギルドに多くの冒険者が思い思いに過ごしていた。依頼を受ける者、食堂で朝からエールを飲んでいる者、依頼の事前打ち合わせ等もしていた。


 「ログは――まだ来てないみたいだね」


 ギルド内をくまなく見渡すが、紅色のコートを見つけることは出来なかった。


 「それじゃ、先に私たちで何か依頼を受けましょう」

 

 クロアとセフィラは賑やかなギルドを進み、リリアの受付に辿り着く。


 「おはようございます、クロア様、セフィラ様。ようこそ王都グリザスギルドへ。ご要望を伺います」


 無表情で定型文をそのまま読んでいるような挨拶をされるが、二人は既に慣れていた。リリアは感情を表に出すような人物では無い事は、ここ数日で把握していたので、今更、気分を害されることは無い。


 「おはようございます、リリアさん。……黒い獣について何か情報は?」


 「……残念ですが、目撃情報も無く、資料の方も目新しい発見はありませんでした」


 どうやら、今日も収穫は無いようだ。仕方ないので何時も通り、何か依頼を受けるしか無いようだ。


 「そうですか、じゃあ、また何か討伐系の依頼をお願いします」


 「少々お待ちください」


 リリアは資料を捲り、クロア達に合う依頼を見繕う。その時、ギルドの入口が勢いよく開けられる。バンっと大きな音をギルドに響き渡り、何事かと全員が目を向ける。


 そして開かれた扉より入ってきたのは――


 「おう、お前ら帰ってきたぞー!!」

 

 「たっだいまー!!」


 昨日、帰路で出会った二人組だった。


 クロアは声を掛けようとするが、パサッと何かが落ちたような音がしたので振り向くと、何時も無表情のリリアが目を見開き、口をポカーンと開け、資料が手元から滑り落ちていた。そしてクロアは異常に気付く。騒がしいはずのギルドが物音一つしていなかった。


 しかし、それも束の間、リリアがポツリと呟くと同時に現状は大きく変わった。


 「――フィガロ様、ソフィ様――?」


 次の瞬間、静寂が爆発した。


 「うぉーーーっっ!! フィガロとソフィが帰ってきたーー!!」

 「英雄の凱旋だ!!祝え祝え!!」

 「生きてやがったか、この馬鹿野郎ども!!」

 「フィガロの兄貴ー!会いたかったぜーー!!」

 「ソフィちゃん、愛してるーー!!」

 

 歓声が響き渡る。誰しもが二人の帰還を祝っていた。二人の周りにはあっという間に人だかりができ、埋もれていく。男の方は頭一つ分、常人より身長が高い分、隠れることは無かったが、少女の方は姿が見えなくなってしまった。


 「……なにこの状況。もしかして、有名人、なのかな?」


 「フィガロ、ソフィ……あっ! もしかしてあの二人って――」


 セフィラは、どうやらあの二人の事を知っているようだった。それを補足するかのように、何時の間にかクロアとセフィラの背後にある人物が立っていた。


 「フィガロ・カメリオとソフィ・プロバトン、二人は王都ギルド所属の冒険者だ。ランクは……Sランク、ギルドが認めた、紛れもない――化け物だ」

 

 周囲が二人の帰還に沸き立つ中、一人、冷ややかにその光景を眺める男――ログの双眸は、憎悪の色に染まっていた。








 

 

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