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獣と英雄のイクノス  作者: 樫谷 和樹
第一章 暖かさの欠片
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第一章 19話『狂人の末路』



 異能。

 それは生まれつき個人が所有している物で、魔術とは異なる能力の事だ。誰しもが必ず持って生まれてくる訳ではなく、一部の者しか得られない。その効果は人それぞれで、どれ一つ同じものは無い。

 魔術の色に囚われないセフィラの【時限を謳いし者(クロノス)】のような物から、基礎四色の効果がさらに強力になったものまで。


 そして、異能は人を表しているとまでいわれている。

 

 そんな異能をようやくクロアは思い出す。自分の中に眠る異能、不思議と使い方は自然に理解できた。もしくはリーヴェが教えてくれているのかもしれない。


 クロアは左手でストリーゴの腕を掴み、異能を発動させる。


ストリーゴは油断していた、この男は魔力も無く、自分を害する手段を持ち合わせていないと。確かに先ほどまでのクロアはそうだったのだろう、しかしクロアとリーヴェの語らいなど知る由もなく、それ故にストリーゴはその異能に対する反応が遅れてしまった。


 いや、クロアに触れられた時点(・・・・・・・)でもう遅かったのだ。


 そしてストリーゴは自らに起こった異変にようやく気付く。掴まれている腕を急ぎ振りほどき、クロアから距離をとった。

 掴まれた腕をまじまじと凝視して、わなわなと身を震わせる。


 「貴様――私から魔力を奪ったな(・・・・・・・)っ!?」


 そう、ストリーゴの魔力がごっそりと無くなっていた。もしあのまま掴まれ続ければ、魔力切れになるのは必至だっただろう。

 しかしストリーゴはクロアに視線を向けたところで、またもや驚愕せざるおえなかった。


 「――なぜ、なぜ!? 私の魔力があなたの中にあるのですかっ!? 他人の魔力が馴染むことなどありえないっ!!」


 ストリーゴから奪った魔力がそのまま、クロアの体の中を駆け巡っている。

 なぜ驚いているのか、それは魔力というものは人それぞれの色を持っており、決して他人が扱えるものではないのである。要は血液と同じで、他人の魔力を直接体内に流し込むと拒絶反応を起こし、最悪死に至るほどだ。

 

 しかしクロアの異能はそれを可能にしていた。


 「僕の異能、【三首の煉獣(サーベラス)】は左手に三つの魔力性質を付与することができる。一つ目は≪吸収≫。相手に触れることで魔力を吸収できる」


 クロアは左手を上げ、自らでも確認する。そこにはストリーゴによって貫かれた傷跡は既に無く、白い魔力が左手を包み込んでいた。重力に逆らうように上へ昇ろうと揺らめくそれは、まるで、何もかもを優しく抱擁する炎のようだった。


 「二つ目は≪同化≫。例え他人の魔力だろうが、魔獣の魔力だろうが、自分で扱うことができる。魔力であればなんでもだ」


 「……ふざけるな、ふざけるなっ、ふざけるなっ!! ついさっきまで無力だった若造が、なぜ今になって異能が使える!? 理解不能だっ!?」


 この少年は自分の手によって滅茶苦茶にしてやろうと、どういたぶろうかと、そう思えるほどにはこちらが完全に狩る側だった。なのに目の前に立っている男はなんだ?

 ストリーゴは想定していない窮地に、立場が逆転したと察する。


 しかし、考えれば別にどうということは無いのでは、と頭が冷静になっていく。


 相手の異能はただ吸収するだけ、クロアがそこから魔術を行使することは出来ないと予想できる。魔術はあくまで修練を積んだものしかできない。なぜ今になって異能が発現したのか、原因は不明だが魔術を行使できないのであれば恐れることは無い。


 「だが、だが、だが! 魔力を奪ったところで魔術は発動できまい!!」


 「ああ、僕は魔術は発動できない、基礎四色を使えないから。でも、魔術が発動できなくてもいいんだ。だって僕が司る色は――白だ」


 そう、白の魔力はかつて足の肉が抉れた馬を治した。ログも言っていたが治療が白の魔力の特性なんだと勘違いしていた(・・・・・・・)


 今ならわかる。理解できる。白の魔力特性は――


 「『活性化』、それが白の魔力が出来ることなんだ。だから魔術は発動出来ない、だけどそれを利用すればこんなことだってできる」


 「っ!?」


 ふとストリーゴの目の前からクロアの姿が掻き消える。そして一瞬にしてストリーゴの背後に現れた。何という速さ。ストリーゴが反応できたのは魔力感知能力が以上に高い故である、しかしそれでも反応するのに精一杯だった。


 「これが『肉体強化』っていえばいいのかな? 白の魔力が傷を癒せるのは相手の自然治癒力を『活性化』しているから。そしてそれは自分の膂力を『活性化』して強化することもできる」


 「……」


 ストリーゴは俯き黙り込む。そんな男にクロアは右手で握っている長剣を、目の前の狂人へ切っ先を向ける。

 ようやく、ようやく――


 「お前に勝つための手段がここに揃った!! 覚悟しろ、ストリーゴ。お前を倒して、僕たちは自らの夢を叶えるために、また進みだす!! だからっ、お前なんかに邪魔はさせないっ!!」


 「――クッソがあああぁアあアアぁァっっ!!!!!」


 ストリーゴは先手必勝と言わんばかりの速さで魔術を発動する。岩の針を地中から生やし、クロア目掛けて貫こうと迫る。刺さる直前でしかし、クロアの姿はそこに無く、ストリーゴの背後に再び現れ、その首目掛け長剣を振るう。


 しかし、これでやられてくれるなら苦労はしない。初めてストリーゴに攻撃しようとした時と同じく、手に岩を纏わせ、クロアの一撃を防ぐ。しかし強化されたクロアの一撃は強烈だった。受け止めたストリーゴはその衝撃を受け止めきれず、反対側の壁まで吹き飛ばされ、そこにあった本棚を巻き込み衝突する。


 「ガハッッッ!?」


 たまらずストリーゴは近距離は分が悪いと思い魔術を行使する。


 「くそっ!? 『アルム・バレット』ォォ!」


 拳大の大きさの岩の弾丸が二十程、散弾のように無秩序にクロアに向けて放たれる。それをクロアは躱し、長剣で弾き、対処する。


 しかしその間にストリーゴは次の魔術の下ごしらえを済ませていた。両手を前に突き出し、そこへ周りの砂が集まっていき、巨大な岩の砲弾が出来上がる。人など隠れてしまうような大きさのそれは、男の掛け声で発射された。


 「ヒャハハハハっ!! 避けられるものなら避けてみろ、後ろの二人を犠牲にしてっ!『アルム・クラスタ』ァァ!!」


 巨大な砲弾はクロアに向かって発射される。躱すことは容易だったが、しかしクロアの後ろにはセフィラとログがいる。

 ならば受け止めるしかない、受け止めきれるかわからない、下手をすれば三人まとめて魔術の餌食だろう。しかし、二人を犠牲にするか、それとも見捨てないか、この選択肢は自分の心の中でもう回答済みだった。


 「やらせるっもんっかぁぁぁっっ!!!」

 

 正面から巨大な砲弾を受け止める。強化された体とは言え、この重さに、潰されてもおかしくない質量に、必死に抗う。


 その衝突は均衡している。

 しかし、受け止めるのにクロアは意識を集中しているため、ストリーゴが何か画策していることに気づかなかった。


 ストリーゴは先ほどとは比較にならないほどの魔力を練り上げ、とどめを刺しに来た。

 勝利を確信した男は笑みを隠しきれずに、愉悦に浸りきる。


 「全員、私に出会ったことを悔やみながら、押し潰れろぉぉっ!! 『エル・アルム・メイデン』!!!」


 ストリーゴが両手を下へ振り下ろすと、クロアの真上の天井が意思を持ったかのようにうごめき、表面に大きな棘が幾つも形成されていく。

 そしてそのまま天井が降り注いできた(・・・・・・・・・・)

 

クロアは岩の砲弾を受け止めるのに精一杯で、落ちてくる天井に対処できない。このままでは全員、人を貫けるような針を備えた天井に押し潰されるだろう。

 クロアにはどうすることも出来ない、ならばどうにかできる人たちに頼ろう。クロアは腹から出せるだけの声量を使い、力の限り叫んだ。


 「――セフィラァァっっ!!! ログっっ!!!」


 「【時限を謳いし者(クロノス)】っっ!!!」


 セフィラが迫りくる天井へ手を翳し、異能でその脅威を遅滞させる。体はボロボロで、頭からは血が出てる。今にも気を失いそうな状況にも関わらず、ありったけの魔力を込めてストリーゴの魔術に対抗する。


 「長くは……止められないわよっっ!!」


 「それで十分だっ!! 『エム・ベリル・ラミナ』!!


 ログが魔術を発動させると、クロアが受け止めていた岩の砲弾が見えない刃で切り刻まれ、元の砂塵となり宙を舞う。これでクロアは自由になった。ログとセフィラはそれを見届けてクロアにありったけの思いで送りだす。


 「「いけっっ、クロアァァっ!!!!」」


 「あああああぁぁぁっっっ!!!!」


 そしてクロアは突き進む。強化された肉体を全力で使い、ストリーゴの元まで駆ける。セフィラはストリーゴの魔術に耐え時間を稼ぎ、ログは魔術でこの絶好のチャンスを作り上げてくれた、無駄にするわけには行かない。


 ストリーゴの驚愕する顔がまじかに迫り、奴が手で受け止めようとするのをすり抜け、クロアは長剣をストリーゴの心臓へ突き刺した。


 突き刺した心臓から血が溢れ、剣を伝い床へ落ちてゆく。その時、セフィラが支えていた天井は砂へ変わり、床へと積もってゆく。どうやらすでに魔術の維持は出来ないらしい。セフィラもため息をつきながら、緊張が解けたのか、ぺたんとその場へと座り込む。


 そして心臓を貫かれた狂人の鼓動は徐々に小さくなり、やがて――









 「――まだだっ! こんなところで死ぬわけには行かない!! この世に救世を! 黒い獣による救済を見るまではっ!!」


 最後の足掻きを見せる男は、突き刺さっている長剣を素手で握りしめる。血がそこから滴り落ちるが、その血から闇が、いや夜が広がっていく。この男は最後の最後に底力を見せつけてきた。


 「【不安定な夜の聖母(キス・キル・リラ)】ァァァァッッ!!!」


 黒い空間はクロアを包み込み、ストリーゴの姿は消え、クロアのみがそこに在るだけだった。


 「死ねないッ! 死ねないッ! お前が死ねぇぇっ!!」


 しかしクロアは目を閉じる。何かを感じ取っているようで、追い詰められてるようには見えなかった。


 「……お前の魔力を使ってるからかな、わかるんだ。お前はこの異能空間の中にはいない。――この空間が、お前そのものなんだって」


 クロアはストリーゴの魔力を扱ってる故に、奴の異能と魔力的な繋がりを感じていた。そこからわかることは、この空間全体からストリーゴの存在を感じ取れる。


 奴の異能は閉鎖空間を作ることではなく、空間そのものになることだった。


 「今更、わかったところでぇっ! 貴様にこの異能を破れはしない!!」

 

 そう、【三首の煉獣(サーベラス)】の≪吸収≫は相手に直接触れなければ効果は無い。この空間内にいる限りは奴に触れることさえできないだろう。

 

 そう≪吸収≫は(・・・・・)意味が無いのだ。


 「……僕のこの異能は一度発動すると≪吸収≫はずっと発動しているままなんだ。少しづつ、空気中の魔力や、お前が放ってきた魔術の魔力を≪吸収≫している。そしてどんどん溜まっていく魔力は≪放出(・・)≫しなければならない。それが、【三首の煉獣(サーベラス)】の三つ目の能力」


 白の魔力による『肉体強化』は魔力を纏わせるだけで効果が現れる、故に魔力を消費しないのだ。そしてどんどん溜まっていく魔力は出口を探して外へ溢れ出す。


 クロアの左手が蒼く輝く。これが合図だった。長剣を上に掲げ、両手で柄を掴むと、左手から溜まりに溜まった魔力が長剣へ流れていく。これから放つ一撃はあの黒い獣に傷を作った一撃、そして今はその時よりも上手く扱える気がしていた。


 こんな空間などあの悪魔に比べればなにも怖くはない。

 

 「死ねぇええぇええええっっっ!!!」


 ストリーゴが叫ぶと同時に、あらかじめ準備していた全方位に設置済みの不可視の岩槍が、クロア目掛け飛んでくるのが分かる。


 それを物ともせずに、クロアは自分にできる最大の一撃を放つ。


 「喰らえぇぇぇッッッ!!!」


 剣が眩いほどの蒼い輝きを放つ。クロアはそれを真っすぐ一直線に振り下ろすと、荒れ狂う魔力の奔流は剣閃となり、暗い空間を突き進んでいく。その余波で岩槍が全て吹き飛び、その膨大なる魔力に空間は耐えきれず、亀裂が広がってゆく。


 そして行き場をなくした魔力は爆発する。それはストリーゴの異能空間を完全に破り、元の部屋の容貌が見えてきた。


 クロアが放った剣閃の衝撃が部屋中を駆け抜け、暴風となって暴れ回り、棚が衝撃で倒れてくる。


 部屋の中は戦いの跡で満たされた。


 






 ようやく落ち着いた時には、ストリーゴは肩口から腰の辺りまで切り裂かれ、傷跡が新たに増えた状態で倒れていた。無意味とわかっていても傷口を手で塞ぎ、命が流れていくのを止めようと必死になる。悲しみからか、目からは涙が零れ落ちている。

 

 「いやだ、いやだいやだいやだ、死にたくない、死にたくない、なんでボクなんだ、死ぬべき奴は他にもいるのにどうしてっ! みんな黒い獣に食われて、嫌な奴がいなくなった世界を僕は見たかったのにっ!!」


 子供の様に駄々をこねる男に、クロアは悲哀に満ちた目を向ける。同情も慰めもそこには無く、少しばかりの空しさの様なものがあった。


 「お前の事情なんて僕にはわからないけど……黒い獣に味方している時点で僕たちは、戦う事は避けられなかったと思う。だからこの結果に後悔なんてないよ。だけど……」


 クロアはしゃがみ込み、ストリーゴと目を合わせ、伝えたいことを言葉を口にする。この男は率直に言って嫌いだ。人をいたぶる最低な奴だ。だけど、少し憐んでしまったから――


 「もし生まれ変わりなんてものが在るんだとしたら、その不安定な怒りを捨てて、真人間として次は会おう」


 そんな言葉をクロアは言ってしまう。口が滑るというのはこういうことなのだろう、この言葉に意味は無く、慰めにもならず、むしろ追い打ちを掛けているようなものだった。


 その言葉にストリーゴはヒヒっと小さく笑い――


 「また人間になるんだったら、ボクは……狂ったままがいい」


 どこまでも狂っていた男は息を引き取るのと同時にその体が砂へと変わり、その面影はどこにも、この場所のどこにも無くなってしまった。


 

 




 

 

 

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