プロローグ 『ココロの境目』
──声が聞こえる。
燃え盛る炎で木造の家は崩れ落ち、周囲からは悲鳴、怒号、怨嗟の声が響きわたる。
一つの村が燃えていた。小さな村で、いたって普通の村が、つい数分前までは家族と夕食を食べて団欒を楽しんでいたであろうという時間に、家を、人を容赦なく無差別かつ平等に紅蓮の炎が焼き尽くしていた。
───
ざっざっざと大勢の人間が列をなして歩いている。こんな事態にも関わらず表情一つ変えない彼らを傍から見れば異様な雰囲気で目も合わせられないだろう。彼らがこの惨劇を引き起こした犯人であるということは一目瞭然だった。列の先頭にいる、おそらくその集団のリーダーであろう大柄な男が歩みを止め、声を張り上げ周りにいる部下に命令を下す。
「探せっ! ここにあるはずだ。我々が求めていたものが、宿願を果たすための器が!」
そして男は低く呟く。
「それ以外は……全て消せ……」
そして部下たちは散り散りに別れ、己の主の命を果たそうと奔走する。一人残った男は空を見上げ、憎悪に塗れた瞳をそっと閉じる。
「必ず、必ず成し遂げよう。例えこの身、この心が、外道に成り果てようとも我はこの道を突き進むのみ!」
男はそう言い拳を硬く握りしめる。
己にそう言い聞かせ、今まで歩んできた道、そしてこれから切り開いていく未来を確かめるように、自分はその為に存在していると強く刻み付けるように、硬く。そして男はそこにいない誰かの名前を呟き、また歩き始めた。
───
そして一つの村が消えた。残ったのは燃え尽き、もはや炭と化し、原型を保てず崩れ落ちてしまった家屋と、無惨にも殺された村人達の遺体だけが残されていた。しかし、何もかも終わってしまったこの場所で、全てが始まった者もいた。
この惨劇から一人の少年の物語が動き始めた。