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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第五章 秋(二年目)

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第27話:時間切れ

――継続の限界


秋の空は高すぎるほど高く、

その青は、どこまでも残酷だった。


再評価枠一期生の卒業まで、あと七日。


中庭では、落葉が風に舞っている。

芽吹かなかった区画も、咲ききらなかった区画も、

同じように季節の中にある。


継続指数の試案は、静かに運用を始めていた。

離脱率は低い。

再挑戦回数は増えている。

傾向は悪くない。


だが。


“成果”という一点において、

沈黙している区画があった。


王子は呼び出しを受ける。


旧温室の端、石壁の影。

そこに立っていたのは、一期生の青年――名をクラウスという。


特別優秀でもなく、問題児でもない。

ただ、何度も挑戦し、何度も届かなかった生徒。


彼は深く頭を下げる。


「お時間、ありがとうございます」


王子は首を振る。


「話があると聞いた」


クラウスは少し笑う。


「ええ。卒業前に、どうしても」


風が吹く。


枯葉が足元をかすめる。


「制度には、感謝しています」


その言葉は、まっすぐだった。


「再挑戦を許されたこと。

 切り捨てられなかったこと。

 あれがなければ、僕はとっくに学院を去っていました」


王子は黙って聞く。


「でも」


一拍。


「結果は、出せませんでした」


その声は震えていない。


事実として、置かれる。


「継続しても、届かないことがある」


「時間には、限界がある」


遠くで鐘の試鳴が鳴る。

卒業式の準備。


王子の胸に、静かな痛みが走る。


「君は、失敗ではない」


思わず言葉が出る。


だがクラウスは首を振る。


「殿下」


穏やかな視線。


「僕は、自分を失敗だとは思っていません」


王子は息を呑む。


「ただ」


「間に合わなかった」


その言葉は、刃ではない。

だが重い。


「制度は正しいと思います。

 けれど、時間は止まりません」


王子は初めて、言葉を失う。


守ると決めた。

確定させないと誓った。


だが――


卒業という期限は、確定だ。


夕刻。


会議室。


リシャールが資料を置く。


「一期生の最終報告です」


数値は並ぶ。

傾向も記録されている。


だが、成果欄に空白がある。


アレクシスが低く言う。


「これが現実だ」


レディアナは静かに問いかける。


「制度は、彼を守れましたか?」


沈黙。


エドゥアルドが答える。


「守ったのは“挑戦の権利”です」


「結果ではありません」


王子は窓の外を見る。


夕日が沈む。


継続は、無限ではない。

制度は時間を延ばせるが、止められない。


「守れない現実がある」


その事実を、初めて受け入れる。


卒業式前夜。


中庭には静かな灯り。


クラウスが一人、区画に立っている。


土に触れ、静かに言う。


「ありがとう」


芽は出なかった。


だが、土は耕された。


王子は遠くからその姿を見る。


守るとは、成功させることではない。


守るとは、

挑戦の記憶を否定しないこと。


卒業式。


鐘が鳴る。


咲いた者も、咲かなかった者も、

同じ歩幅で壇上を進む。


クラウスは証書を受け取り、王子と目を合わせる。


その瞳に、敗北はない。


あるのは、終わりを受け入れた静けさ。


式後。


王子は一人、塔に立つ。


「継続の限界」


呟く。


理念は未来を開く。

だが時間は、区切る。


確定しない思想の中にも、

期限は存在する。


それでも。


守れなかったのか。


それとも。


守れたのか。


答えは出ない。


だが一つだけ、確かなことがある。


制度は彼を切り捨てなかった。


そして彼は、自分を否定しなかった。


秋風が吹く。


落葉が舞う。


継続は万能ではない。


それでも。


限界を知った理念は、

一段深くなる。


秋はまだ続く。

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