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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第四章 夏

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第20話:公開審査決定

――舞台は誰のものか


王宮監査局からの正式書簡は、

乾いた音を立てて机に置かれた。


封蝋の紋章。

簡潔な文面。


夏季中間成果の透明性確保のため、

公開成果発表会の実施を提案する。

成功例の壇上提示を求める。


室内に沈黙が落ちる。


アレクシスが最初に口を開いた。


「想定内です」


その声は冷静だ。


「内部報告では不十分。

 可視化を求められています」


リシャールが続ける。


「“成功例の壇上提示”と明記されています。

 代表者を選び、成果を数値と共に発表させる形式でしょう」


つまり――


咲いた者を、光の中心へ。


王子アルフォンスは書簡を見つめたまま動かない。


「公開……か」


レディアナが静かに言う。


「観客は、誰でしょう」


「監査局関係者、王宮官僚、他校代表、後援者……」


アレクシスが淡々と列挙する。


「学院外の視線です」


外部の視線。


それは、最も強い光。


リシャールが慎重に問う。


「拒否は可能ですが……」


「できないな」


王子は即答した。


「拒否は、隠蔽と見なされる」


セレスティンの穏やかな微笑みが脳裏をよぎる。

“過程は、報告書になりません”


ならば――舞台に乗せるしかない。


「受諾する」


王子の声は低い。


アレクシスがわずかに安堵する。


「賢明な判断です」


だが王子は続けた。


「ただし」


視線を上げる。


「形式は学院側が決める」


室内の空気が変わる。


リシャールが目を瞬く。


「壇上提示の内容も、構成も、順序も。

 すべて我々が設計する」


アレクシスは即座に理解する。


「……成功例のみを並べる必要はない、と」


「成功例は提示する」


王子は否定しない。


「だが“成功とは何か”を、我々が定義する」


レディアナの瞳がわずかに揺れた。


「舞台を借りるのではなく、

 舞台を作るのですね」


王子は頷く。


「監査局は“成果の提示”を求めている。

 だが“成果の意味”までは規定していない」


沈黙。


それは、危うい綱渡りだった。


アレクシスが慎重に言う。


「殿下。

 観客は分かりやすい物語を求めます」


「分かりやすさは必要だ」


王子は認める。


「だが、単純化はしない」


リシャールが資料をめくる。


「成功例を中心に構成すれば、

 評価は安定します」


「安定は、誰のためのものだ」


王子の問いに、言葉が止まる。


夏の窓外。

強い日差しが中庭を白く染める。


花は咲いている。

だがすべてではない。


「咲いた者だけを壇上に上げれば、

 咲かなかった者は観客になる」


レディアナが静かに言う。


「舞台と客席が固定される」


王子はその言葉を受け取る。


「私は、それを固定したくない」


アレクシスが息を吐く。


「理想的ですが……観衆は構造を求めます。

 主役と脇役を」


「ならば、主役の定義を変える」


王子の声は、迷いを残しつつも強い。


「“最も咲いた者”ではなく、

 “制度と共に歩んだ者”を主役にする」


リシャールが問い返す。


「それは評価基準になりますか」


「ならないかもしれない」


王子は正直に言う。


「だが、舞台は数字のためだけにあるのではない」


沈黙。


レディアナが小さく微笑む。


「舞台は、誰のものか」


その問いが、室内に落ちる。


監査局のものか。

学院のものか。

成功者のものか。


王子は答える。


「学院のものだ」


静かだが、明確だった。


「ここで学び、立ち、揺らいでいる者たちのものだ」


アレクシスは目を閉じ、考える。

効率、評価、持続可能性。


だが同時に、

先日の生徒の声が脳裏をよぎる。


“辞めていないことが、成果です”


リシャールがゆっくりと言う。


「構成案を作成します。

 成功例、過程報告、事故検証、継続者の証言……」


王子は頷く。


「隠さない。

 飾りすぎない。

 だが、定義は渡さない」


それが宣言だった。


受諾。

だが従属ではない。


舞台は設営される。

光も、客席も、評価も用意される。


だがその中心に立つ意味は、

まだ固定されていない。


窓の外、蝉が鳴き始める。


夏は、容赦なく進む。


公開審査。


それは試練であり、

同時に問いだ。


舞台は誰のものか。


その答えは、

まだ幕の向こうにある。

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