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鬼になった同志  作者: マーたん


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20/22

鬼島編

海の向こうにあるという、誰も帰ってこない島。


人々はその島を――鬼島と呼んだ。


罪人が消え、鬼狩りが消え、船乗りまでもが姿を消す呪われた島。


そこには鬼たちの王国があり、人の常識も掟も通じないという。


紅楼街の炎から生還したカエデは、ある噂を耳にする。


「鬼島に、赤い鬼がいる」


その特徴は、かつての同志ザガンとあまりにも似ていた。


生きているのか。


それとも、完全な鬼となったのか。


答えを求め、カエデは海へ出る。


待ち受けるのは鬼の軍勢。


そして、鬼たちを支配する恐るべき存在だった――。

第一章 鬼の海


荒れ狂う波が船底を叩いていた。


空は重く曇り、昼だというのに夕暮れのように暗い。


カエデは船首に立ち、遠くの水平線を見つめていた。


風が強い。


潮の匂いが肌を刺す。


船を操る老人は何度も後ろを振り返っていた。


「今ならまだ引き返せるぞ」


老人の声は震えている。


カエデは答えない。


視線はただ海の向こう。


鬼島があるとされる方角だけを見ていた。


「聞いているのか」


「聞いてる」


「なら帰れ」


老人は怒鳴った。


「鬼島に行った奴は誰も帰ってこん!」


波が大きく揺れる。


船体が軋む。


それでもカエデは動かなかった。


「帰る理由がない」


短い言葉だった。


老人は黙り込む。


その言葉の奥にあるものを感じ取ったからだ。


死ぬ覚悟。


それ以上の何か。


失った者を追う執念。


それらが彼女の背中から伝わっていた。


船はさらに沖へ進む。


海の色が変わり始めた。


青かった海面が黒く濁っていく。


まるで墨を流したようだった。


「始まったか……」


老人が青ざめる。


「何が?」


「鬼海だ」


老人は唇を噛んだ。


「鬼島周辺の海はこうなる。昔からだ」


海面の下で何かが動く。


巨大な影。


一つではない。


十。


二十。


もっとだ。


カエデは刀に手を添えた。


その時だった。


ドォン!!


船が激しく揺れた。


船底に何かがぶつかった。


老人が悲鳴を上げる。


「来たぞ!」


海面が爆発する。


巨大な腕。


鱗に覆われた異形の腕が海から飛び出した。


そのまま船を掴む。


木材が悲鳴を上げる。


「海鬼……!」


老人が震える。


海鬼。


鬼島周辺に棲む化け物。


船を沈め、人を喰らう海の鬼。


その頭部が現れた。


魚のような顔。


無数の牙。


赤い瞳。


そして異常なまでの大きさ。


「グオオオオオオ!!」


咆哮。


海が震える。


普通の人間なら立っていることすらできない。


だがカエデは違った。


一歩。


前へ出る。


「邪魔」


刀が抜かれる。


銀色の閃光。


次の瞬間。


海鬼の腕が切断された。


黒い血が噴き出す。


「ギャアアアア!!」


海鬼が絶叫する。


しかし終わらない。


海面がさらに盛り上がる。


一体ではなかった。


二体。


三体。


五体。


巨大な鬼が海から姿を現す。


老人は絶望した。


「終わりだ……」


船が囲まれる。


逃げ場はない。


だがカエデは静かだった。


むしろ目が鋭くなる。


「ちょうどいい」


鬼たちが襲いかかる。


巨大な顎。


鋭い爪。


津波のような突進。


カエデは船首から跳んだ。


海の上へ。


「なっ!?」


老人の目が見開かれる。


カエデは海鬼の頭に着地した。


刀が走る。


首が飛ぶ。


次の鬼へ飛ぶ。


回転しながら斬る。


胴体が裂ける。


黒い血が雨のように降る。


鬼たちは悲鳴を上げた。


だが止まらない。


次々に襲ってくる。


カエデの身体から鬼気が漏れ始める。


赤い光。


鬼の力。


完全に消えたわけではない。


彼女の中には今も鬼がいる。


だからこそ戦える。


だからこそ苦しむ。


「どけぇぇぇ!!」


斬撃が嵐となる。


海鬼たちが次々に倒れていく。


海面が黒く染まった。


やがて。


最後の一体が沈む。


静寂。


荒れていた海が嘘のように静かになった。


カエデは船へ戻る。


老人は言葉を失っていた。


「お前は……」


カエデは答えない。


遠くを見ていた。


霧が見える。


巨大な白い霧。


その向こう。


黒い影。


島だった。


鬼島。


ついに見えた。


山々が連なる巨大な島。


黒い森。


赤い空。


まるで世界から切り離された地獄。


島全体から凄まじい鬼気が溢れている。


息苦しいほどの圧力。


老人が膝をつく。


「近づくだけで気が狂う……」


だがカエデは歩みを止めない。


船がゆっくりと浜辺へ近づく。


岸が見える。


白い砂浜。


だが砂ではない。


骨だった。


無数の人骨。


獣骨。


鬼骨。


死者の山。


船が岸へ着く。


カエデは静かに降り立った。


足元で骨が砕ける。


風が吹く。


森の奥から何かの気配。


無数の視線。


見られている。


数え切れないほど。


カエデは刀の柄を握る。


その時。


森の奥から低い笑い声が響いた。


「来たぞ」


別の声。


「人間だ」


さらに別の声。


「喰えるぞ」


気配が増える。


十。


二十。


五十。


百。


鬼たちだった。


木々の間から赤い目が無数に現れる。


鬼島の住人たち。


人を餌としか思わない怪物たち。


その全てがカエデを見ていた。


だがカエデは微動だにしない。


静かに鬼たちを見つめる。


そして呟いた。


「ザガン」


風が吹く。


黒い森が揺れる。


鬼島のどこかにいるはずの同志。


生きているのか。


それとも――。


答えを求める旅が始まる。


そして次の瞬間。


百を超える鬼たちが一斉に飛び出した。


鬼島全土を揺るがす戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた。

鬼になった同志 ― 鬼島編 登場人物


■ カエデ


本作の主人公。


かつては里を守る剣士だったが、鬼の襲撃によって運命が変わる。


鬼となった同志・ザガンを探すため、禁断の地「鬼島」へ向かう。


鬼の力を宿しながらも、人としての心を失わない強い意志を持つ。



■ ザガン


カエデの幼なじみであり、かつての同志。


里を守るために鬼の力を受け入れ、自ら鬼となった。


現在は鬼島のどこかにいると噂されている。


生死すら不明。


鬼島編最大の鍵を握る存在。



■ 船頭の老人


カエデを鬼島へ運ぶ船乗り。


長年海を渡ってきたが、鬼島に近づいたのは初めて。


鬼島の恐ろしさを知っており、何度も引き返すよう説得する。



海鬼うみおに


鬼島周辺の海に生息する巨大な鬼。


船を襲い、人間を喰らう海の怪物。


魚のような頭部と巨大な腕を持つ。


鬼島へ向かう者たちの最初の試練。



百鬼衆ひゃっきしゅう


鬼島の住人たち。


森や洞窟に潜み、人間を見ると襲いかかる。


普通の鬼よりも遥かに強く凶暴。


鬼島の至る所に存在する。



■ 黒衣の男


ザガンを鬼へ堕とした謎の存在。


現在も行方不明。


鬼島と深い関係があると噂されている。


その正体を知る者はいない。



鬼王きおう


鬼島を支配する伝説の存在。


その姿を見た者は誰も生きて帰っていない。


百鬼衆ですら恐れる絶対的支配者。


鬼島編最大の敵。



赤牙せきが


鬼王直属の幹部。


巨大な体躯と怪力を誇る戦鬼。


人間だった頃の記憶を失っている。


鬼島の入口を守護する。



白夜びゃくや


鬼王直属の幹部。


白い髪を持つ女鬼。


幻術を操り、人の心を壊す能力を持つ。


鬼島の深部に棲む。



玄武げんぶ


鬼王直属の幹部。


巨大な甲殻を持つ守護鬼。


圧倒的な防御力を誇る。


鬼王城への道を守っている。



■ 鬼王軍


鬼王に忠誠を誓う鬼たち。


鬼島全域に配置されている。


数千体とも言われる大軍勢。



鬼島おにじま


鬼たちが支配する禁断の島。


人骨が浜辺を埋め尽くし、島全体が鬼気に包まれている。


鬼王城、鬼哭の森、血涙洞窟など危険地帯が点在する。



相関図


カエデ

↓(探している)

ザガン


ザガン

↓(鬼化させた)

黒衣の男


鬼王

赤牙・白夜・玄武

鬼王軍・百鬼衆


カエデ

VS

鬼島全土の鬼たち


物語はここから、

第二章「百鬼上陸」

へ続く。

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