ビンゴ大会
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シスターのお酒の飲みっぷりは色々な意味で心配になる。
「シスター、このお酒は結構強いので、何か食べながらゆっくり飲んだ方がいいですよ」
「そ、そうなのですね、申し訳ありませんでした」
「謝るほどの事じゃないですよ! それよりもシスターの食べられるものが無いですね! 何か作ってきますね!」
手伝うと言うシスターにはノア様や神父さまに日本酒を渡してきてもらって、自分は【秘密の部屋】に料理を作りに戻った。というか日本酒に合う物って何? 普段、日本酒を飲まないからな……。塩だけでいいって聞いたことあるけど、明らかに上級者向けって感じだし……。漬物、冷奴? あっ! フライドポテトが食べたい! 日本酒に合うかは知らんけど……。
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お盆に料理をのせてシスターの所に戻ると、何故か人だかりが出来ていた。
「あれ? みなさんどうしました?」
ノア様と神父さまに加え、おっさんどもも集まって来ていたようだ。
「魔術師殿、こちらの酒は一体?」
ノア様の質問で集まっている理由が予想できた。周りのおっさんはめずらしい酒と聞きつけて、集まって来た酒好きなのだろう。
「日本酒といいまして、飲みやすいと思いますが結構強いお酒ですよ」
「ニホンシュ……。もしよければこちらも買い取りたいのだが……」
少し考えた後、一樽を領主さまへの土産として進呈することにした。手ぶらじゃマズいだろうし丁度よかったかも。
「いえ! それには及びません! 最初から一樽は領主様へのお土産にと考えておりました。どうでしょうか? 領主さまには気に入って頂けるでしょうか?」
もちろん今思いついたのだが……。
「おお! それは素晴らしい! このようなうまい酒なら、間違いなく喜んでくれると私が保証しよう」
心なしか周りのおっさんの元気がなくなっていく。我慢できなくなったおっさんの一人が声を上げる。
「聖女さま、俺たちにも飲ませてくれるのかい?」
ん~! 別にいいけど無料だとここぞとばかりに、後先考えないで飲みそうだな。
「そうですね! 高級なお酒なので希望者には、この器で一杯だけ配ろうと思います」
そう言っておちょこを指さす。喜びの声と共にそれだけかと言う溜息も聞こえる。しかし、それを聞いた神父さまは声を荒げる。
「ケイ様は、善意で配ると仰ってくれているのに『それだけか』とはどういう了見ですか! 図々しいにも程がある恥を知りなさい!」
うひ~~! おっさんが怒るのも怒られるのも見ていられない! 『それだけか』と言ったおっさんはよく見ると説明中にお酒を取りに行こうとして、奥さんらしき人に頭を殴られていた人だった。どれだけお酒が好きなんだよ……。
「まあまあ、神父さま、今回はお酒の席ですし大目に見てあげて下さい。それよりも、そろそろビンゴ大会を始めたいので、お手伝いをお願いしてもよろしいですか?」
何とか他に意識を向けさせて、神父さまの怒りを鎮めようとビンゴ大会の説明をする。神父さまに見えないように、おっさんたちには席に戻るようにジェスチャーで伝えて戻ってもらった。
「なるほど、それ程まで村人の事を……。そのようなお気持ちを踏みにじる先ほどの発言はやはり許せませんな」
「大丈夫、大丈夫ですから!」
神父さまをなだめながらふと思う、ここの神様は許す心は教えていないんでしょうか……?
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神父さまをどうにかなだめビンゴ大会の準備を進める。
「そういえば数字が読めない人っているんですかね?」
誤算だったのが数字が読めない人が結構いるらしい。物々交換が多いとはいえ、売り買いの時に騙されないか心配になる。
「そうですか、読める人に広場を回ってもらって手助けしてもらうしかないですね」
「ロイさんや、子供たちがいいかもしれません!」
シスターの言葉にロイの存在を思い出す。あれだけ『父に叱られるので、手伝わせて下さい』と言っていたくせに、食べるのに夢中で全く手伝ってくれていないんですが……。そういえば、そのお父さんが来ていないのでは…………? さ、さて、ビンゴ大会をはじめるか。またみんなに声を掛け説明を始める。
「みなさん、楽しんでもらえてますか?」
みんなの歓声と笑顔を確認して話を続ける。
「でもこれからが本番です! 袋に入っていたこの紙を出して下さい」
そう言って、ビンゴの紙を上に掲げる。それを見てみんなは袋をのぞき込んだり、手を入れて探っている。みんなが用意できたのを確認してビンゴの説明をしていく。
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説明を終え、早速ビンゴを開始する。
「分からない事があったら、神父さまや子供たちが広場を回ってくれているので質問してください。では始めます。一番最初の景品はシスターが背負っているこのカゴです。シスター、みんなに見えるようにちょっと回ってみて下さい。どうですか?」
「肩ひもがカラフルで綺麗ですし、両手が空くので畑仕事の時に重宝しそうです」
村の人たちから関心の声が上がる。
「一番最初に一列そろった人の物です。では最初の数字~」
ハンドルを回すとガラガラと音を立てながら装置が回る。出て来た玉を上に掲げ、数字を読み上げる。
「五番です。番号があった人はその部分を後ろに折り返して下さい」
広場には歓声と落胆の声が飛び交う。広場は大盛り上がりである。ドンドン数字を発表していくと小さな声で『リーチです』と大人しそうな女性が立ち上がる。『リーチ』と『ビンゴ』はみんなに聞こえるように報告して、リーチ後は立ち上がる事をルールにしたので、勇気を振り絞ったのだろう。
「おっ! 一番最初のリーチがでました。他にはいませんか? リーチと言わない人は景品はもらえませんよ! 大丈夫ですか? ちなみに次、何が出たらビンゴでしょうか?」
女性は小さな声で『十二です』と答えた。
「出してあげたい所ですが、こればかりは運なので祈って下さいね!」
笑いの中ハンドルを回す。
「はい! 次の番号は…………何と十二です」
「ビ、ビンゴ!」「「リーチ!」」
「おめでとうございます! 神様に祈りが届いたようです! さあ、前にいらして下さい。それでは拍手でお迎えください。あとリーチのお二人は次の景品があるので、がっがりしないで下さいね」
拍手の中、緊張しながら女性が小走りで駆け寄って来る。
「お名前をよろしいですか?」
「マ、マリアです」
「マリアさん! それではマリアさんこちらが景品のカゴです。あとお酒はお好きですか?」
「だ、大好きです」
広場から笑いが起きる。
「大好き? 丁度良かった! ではシスターからお酒を貰ってから、お席にお戻りください! 強いお酒なので少しずつ飲むことをおすすめします。あっ! あと、余ったお弁当があるので、このカゴに入れちゃいましょう。明日の朝にでも食べて下さいね。最後にもう一度マリアさんに大きな拍手をお送りください」
今度は拍手の中、マリアさんは照れながら席に戻って行った。周りの人に囲まれて何やら笑顔で話している。
「そうそう! マリアさんは引き続き同じ紙を使って参加して下さい。何回当ててもいいですよ!」
広場からどよめきが起こる。
「それでは次の景品はこちらです」
シスターの掲げる景品にまた広場は歓声に包まれた。こうしてイベントの司会のバイトでの経験が意外な場所で生かされたのである。